第1話 灰かぶり姫は夢を見る

 幼いころから幾度となく同じ夢を見る。

「僕、今よりも強くなってユリを守れる男になって必ず迎えにいくから。いつになるかわからないけどそれまで待っててほしい。」

「うん……何年でも待つから!……だから絶対に会いに来てね!約束だよ……」

「ああ、約束だ。だから泣くなよ……」



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 ガターーーン!!!ドンッッ!!!バターーーン!!!

「いつまで掃除に時間かかってんのよこのグズ!ノロマ!!!終わってないどころか呑気に昼寝だなんて随分な御身分ね。ゴミクズ同然の使い物にならないあんたをわざわざ使ってあげている私の顔に泥でも塗る気かしら?」


 突然穴の空いた古臭い障子扉を思いっきり開け、睡眠不足からうつらうつらと狭い物置の隅で船を漕いでいた私を和風の部屋には似合わない10センチはあるであろう真っ赤なハイヒールで蹴飛ばした40代くらいのヒステリック女。赤いのはハイヒールだけではなく、ドレスにジャラジャラと音を鳴らす大ぶりのガーネットをあしらったアクセサリー類。さらにはどれだけ盛るんだと突っ込みたくなるくらいの年齢に似合わない夜会巻き。私はハイヒールで蹴られた脇腹の激痛と目の前の目がチカチカするほどの赤で、目が覚めた。

 私はユリ・ワダツミ。グラン=エル・ダーディルの中で特に強い覇権をもつ三大国のうちの1つで、人間の世界にある「ニホン」という国の文化を参考に建国されたという9つの尻尾を持つ妖狐族が治めるシュタイン王国の王家のお屋敷で「雑用係」として働いている。「雑用係」といっても正規の雑用係ではなく、奴隷のよう、いや奴隷以下の扱いを受けている。

 私には物心ついた頃からこの国の王である父とは会ったことがなく、前の王妃である母は私が7歳の時に台所から出火した火事で亡くなった「らしい」。なぜ「らしい」なのかというと、その頃の記憶がすっぽりと抜け落ちているからである。火事の後、私の身元引受け人となった母方の叔母であるユウナさんと、10歳の年の離れた異母兄で王子のカイト兄様に連れられて医者に診てもらったところ、「精神的ショックによる記憶喪失」だと診断されたらしい。その結果を聞いた義理の母、今現在私を蹴り飛ばし、目の前でヒステリックにわめき散らしている女が社会勉強と記憶を取り戻すための手段としてユウナさんを言いくるめて私を無理やり雑用係として働かせ始めた。

この屋敷の使用人はみんなこの義理の母の報復を怖がって私に近づこうとも、目を合わせようともしない。私にとってこの屋敷にいる味方は、カイト兄様と、私が生まれてからそばにいて世話をしてくれる精霊のアリーシャだけだった。


「今日の夜は私にとってとても大事なお客様がいらっしゃるのよ。あんたの準備が間に合わなくて今日の集まりが失敗に終わったらあんたを締め上げて火あぶりにでもしてやるわ。そうなりたくないのならさっさとしなさいよ。」

「………はい、王妃様」

女は言いたいことを言うと、すぐに物置から立ち去っていった。

私は、痛む脇腹を抑えながらヨロヨロと立ち上がり、掃除用具を元ある場所に片付けた後、夜の集まりの準備のため、厨房へと向かった。

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