第10話

中学教師殺人事件は転機を迎えていた。

殺された長原と付き合いのある風俗嬢が参考人として西世田谷署に連れてこられた。


小山田刑事は、長原の恋人だと言われている芳野麗子に事情を聞いた。

「いつからの付き合いなの」

「じつは付き合っていません。言い寄られていたんです」

「でも長原先生は、他の人に君の事を恋人だと言っていたんだよ」

「それは違います」

「どう違うんだ」

しばらく麗子は俯いたまま沈黙した。

「とりあえず、一週間前の月曜日の午後7時から十二時まdせどこで何をしていたか答えなさい」

「多分その日は仕事は休みで家にいました」

「シェアしている人も一緒だったのか」

「いえ、ひとりでした」アリバイが無い。

「付き合ってないということだが、長原先生は人には君が恋人だと話しをしていたんだ」

「ストーカーだったんです」

小山田はさらに核心に近づいたと思った。

犯人かも知れない。

「あんたが芳野眞子の姉さんだからか」

「それもあるみたいだし、とにかくロリコンなんですあいつは。高校生の制服に萌えるとか良く言っているし」

そういえば、最近教え子と不適切な関係を持つ教師や、学校内で盗撮する教師がいることは新聞で読んだきがした。

「つまり変態だな。そんな男と付き合うわけないよな」

「妹のこと可愛いとか言って、どうやら私は妹の代わりのような気がしたんです」「そりゃ、厄介なやつだな」

「しかも、店で本番を要求してきたんです。本番させないとお前の家族に風俗で働いていることをバラすぞって」

「汚い野郎だな。よくそんな奴が教師をしていたもんだ」

小山田は本心でそう言った、教師という子供を守る仕事に就いているものとしてありえない。

「それであんたはどうしたんだ」

「もちろん拒否しました。最初は・・・」

「結局許したのか」

「そうです。家族にバラされたら困るから」


小山田は芳野麗子のもうひとつの気になる点が麗子の腕にある小さな赤い点だった。

注射跡に見える。

多くの覚せい剤依存の人間を見てきた小山田にはそれが覚せい剤を打った後だということが分かった。

だが、芳野麗子に犯罪検挙歴は無い。

「あんた薬をやってたろ」

ずばりと直球を投げた。

芳野麗子の顔色がより暗いものに変わった。

「分かるんだよ、俺は薬中(麻薬中毒)の人間をさんざん見てきたから」

芳野麗子はしばらく沈黙した後、搾り出すような声で語りだした。

薬を覚えたのは中学生のときだった。

付き合っていた同級生の男の兄に強引に違法薬物を飲まされ犯された。

付き合っていた男が自宅にいないときに彼の兄が面白いものがあるから試してみろよと麗子を誘った。

全身から力が抜けて頭がぐるぐる廻りだした。

気がつくと服を脱がされ犯された。

それから、同級生からその兄の女になり、高校生のときには立派な薬物中毒になり、薬をくれる男の家を転々としながらの生活になった。

高校は中退した。

だが、そんな彼女を救ったのは母親だったという。

自分もこのままでは落ちるところまで落ちると思い、母親の勧めで薬物依存の人間を更正させる施設に預けられ、相当な努力をして薬からは抜け出したという。

だが、家には帰れなかった。

父親が絶対に許さなかったのである。

「母は父を説得すると言ってますが、もう二十歳を超えているので、なんとかひとりで生活しようと思ったのです。でも、まともな仕事は出来なくて、風俗をしていますけど、もうそろそろまともな仕事をしようと思っているんです」

麗子は薬物中毒からは完全に抜け出したことは確実だった。


そして、核心の部分だ。

「長原先生を殺したのか」ここも直球だった。

小山田は、麗子はまわりくどい言い方にはかえって逆効果だと思っていた。

だが、麗子には確かなアリバイがあった。

長原が殺害された時間帯は常連の客の誕生日で、風俗の仲間たちと明け方までパーティーをしていた。

裏づけも取れた。


では、誰が長原を殺したのか。

小山田には犯人の影が見えていた。

それは相棒の窪坂は察していた。




続く。













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