第9話
中学教師殺人事件はまだ捜査過程だった。そもそも重要参考人すら浮かび上がってきていない。
捜査本部の山下管理官は捜査員全員を集め、もう一度渇を入れなおしたくらいだった。
西世田谷署の小山田刑事と窪坂刑事は、殺された長原の教え子の芳野眞子の姉麗子の住むアパートを訪ねていた。
不在だった麗子をアパートの前で待つこと3時間。
麗子らしき女が大きな袋を抱えて帰ってきた。
長い髪を後ろでお団子にまとめている。
顔が小さい。
美人ではないが、男好きする容姿だった。
「芳野麗子さんですね」
麗子は明らかに脅えた顔つきになった。
特に目が上目使いになり、恐怖心が目の底から鈍い光を放っているようだった。
「突然、ごめんなさいね。殺された長原先生についてお聞きしたいことがあるんです」
「はい」
芳野麗子はこの段階でかなり動揺の表情を浮かべていた。
小山田たちは、動悸が早くなっていた。
本星かもしれないと一瞬心がよぎっていた。
「外ではなんですので、部屋のなかに入らせてもらっていいですか。シェアして暮らしている人とは先ほど話しましたから」
麗子と一緒に住んでいる女は出かける支度をしていた。
「仕事だからでかけたいのですが、良いですか」
窪坂に聞いてきた。
「構いません」
部屋に入ると、リビングがあり、他に部屋がふたつあるいわゆる1LDKだった。麗子と女はそれぞれの個室で暮らし、リビングで食事をしたり、テレビを見たりするのだという。
「ところで、殺された長原先生とは付き合っていたという証言があるのですが」「まったくありません。むしろ迷惑していたんです」
「そもそも、あなたはどんな仕事をしているのですか」
しばらく話つらそうな顔をしていた。
すると次第に肩が震えだした。
よく見ると分かるくらいかすかな揺れだった。
小山田たちを直視をしないで眼の端でとらえていた。
よく見ると指先もかすかに震えていた。
「うちの母には会ったんですよね」
「会いましたよ」
「母親には黙っておいて欲しいのですが、風俗店で働いています」
「どんな風俗ですか」
「いわゆるJKリフレです」
「何ですかそれ」
小山田はJKリフレのことは知っていた。
最近摘発があったばかりである。
「そこに長原先生は客として来たんだね」
「そうです。私を気に入ったみたいで常連のように来るようになって」
「君の店ではどこまでサービスするんだい」
「個室で横になって私たちがお客さんの肩もみをしたり、膝枕で耳掃除をしたりです」
「オプションはどんなのがあるの」と窪坂が聞いた。
こいつ、詳しいなと小山田は思った。
「一緒に写真に写ったり、とかそんなものです」
「体にタッチすることは禁止なんだね」
「そうです」
「でもなかには触ってくる客もいるだろ」
「いますね」
「断るんだろ」
「そうなんだけど、少しくらいなら」
「長原先生はどういう客だった」
「すぐ触ってきたり、髪の毛の匂いをかいだり、変態的でした」
「あなたの彼氏だったという話も聞いたんだけど」
「そんなことありません」
「でもそう言う人がいるんだよ。どうしてかな」
「・・・・」
ここで初めて話が止まった
。小山田たちが質問しても、挙動は不審だったが、言葉は出ていた。
だが、ぱたりと止まった。
「どうなんですか」
窪坂が少し語気を強めた。
麗子は完全にうつむいてしまった。
「ここじゃなくて、警察署でお話を伺いましょうか」
この窪坂の脅しはすぐに効いた。
「実は、長原先生は妹の担任の教師だということがしばらくして分かったんです」「どうしてだ」
「私の顔が妹に似ているので最初からピンと来たって言ってました」
確かにJKリフレなら厚化粧はしないほうが客に受けるのでほぼすっぴんに近い女の子も多いという。
「それであなたは姉であることを認めたんだね」
「そうなんです。それが失敗で、脅かされるようになったんです」
小山田はついに核心に近づいたと感じた。
「やはりここより署まで同行してください」
小山田は重要参考人と決断して任意同行にした。
窪坂が管理官にすぐに報告して車の手配を頼んだ。
続く
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