第4話

自室で他殺死体で発見された中学教師長原祐介の勤務先の中学校へ事情聴取のためやって来ていた小山田刑事たちは、同僚の水野に長原のことを聞いていた。

「私も32歳で独身なのですが、彼も35歳で独身です。私も彼も結婚したかったのです。それで実は婚活にいったこともあったんです。私はそこである人と出会い、今では付き合っています」

「その方と結婚をするのですか」

「私はそのつもりでいます」

「では、長原さんはどうだったのですか」

「彼は不器用なんです。私もどちらかというと器用なほうではないのですが、彼は良い人なんですが、とっつきが悪いというか」


水野の話では、婚活は続けているみたいだが、相手はまだ見つかっていないということだった。

水野から聞けた長原の私生活については婚活以上のことは聞けなかった。つまり、今回の事件で女の臭いはなさそうだった。

水野の話を聞いた限りでは。


その後も、同僚の教師たちから話を聞いたが長原の私生活のことを知っている人はいなかった。

そして、学校でのトラブルも出ては来なかった。

教師間、生徒との関係、保護者とのトラブル、いぜれもたいした話は出て来なかった。


鑑識活動が終わった現場に戻る車のなかで刑事課長が小山田に聞いてきた。

「小山田君はどう思う」

「まだ、分かりませんね。教師たちも初見なので表向きのことしか言ってないですし」

「ガイシャに裏の顔があると思いますか」相棒の窪坂は聞いた。

「そりゃ人間だから表と裏があるのは当たり前だろ。ましてストレスの多い教師という職業だ、裏の顔があってもおかしくはない。だが、それがどう事件と関わってくるか、これからだな」

刑事課長は小山田たちを見ながら捜査に活を入れるように言った。


犯行現場では、鑑識からの正式な報告があった。

絞殺。

死亡推定時間は一日前の午後8時から12時までの間。外傷は無し。紐状のもので絞められたときの防御創が首と指に残っており、絞められたときに紐状のものに手をかけて抵抗したのではないかということ、部屋は荒らされておらず、金目のものもある。部屋のドアには鍵は閉められてはいない。


「流しではなさそうですね」

流しとは強盗、窃盗などの被害者との接点が無い犯人が行なう犯罪形態のことだ。

「鍵が閉まっていないということは、普通に考えれば、知り合いを部屋に招き入れたということだな」小山田が断定的に言った。

「そうすると怨恨の線が濃厚ですか」

「そうだな」


西世田谷署では捜査本部が立ち上げられ、急遽記者会見が行なわれた。

中学校の教師が被害者となった殺人事件だからか、いつもの新聞屋だけではなく、テレビ局の報道、情報番組などが中継者を乗り入れての大騒ぎなことになっていた。


報道陣から質問は、もちろん殺された中学校教師の人となりである。

生徒が犯人であればそれは生徒と教師のトラブルが原因となるという大事件になるのでワイドショウの格好のネタになる。

保護者が犯人なら不倫関係による殺人事件とかスキャンダラスな内容となり、これもワイドショウのネタだ。

だからか、記者会見に来たテレビカメラは二十以上になった。


記者会見が終わったらすぐに捜査会議があった。

捜査に当たった捜査担当からさまざまな報告が上がったが、事件の手がかりとなるような濃いものはなかった。

それを聞いていた小山田が発言した。

「ガイシャは婚活中でした。これは勘ですが、ガイシャの結婚に関すること、つまり女性関係に何らかのトラブルがある可能性を現時点では感じております」

「小山田君の勘には定評があるからね。」

捜査本部の責任者である監理官が口を緩ませていた。

「それでは小山田くんたちはその線で追ってくれ。あとのものは学校関係者への聞き込み、地取りを進めてくれ」

捜査本部の全刑事に事件の早期解決を促す訓示が監察官から発せられ、刑事たちは署から飛び出して行った。




続く。




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