第5話 我が道、悪の道を進むためなので


 私はスペシャルを目指していましたの。



 「フェル! まだまだですわ!! 次行きますわよっ!!」


 「ちょっと待ちなさいよジェリーン!!」



 その様な事を言ってもダメですわ。

 これは真剣勝負ですもの、手を抜く訳には行きませんわ。

 だって私はスペシャルにならなければいけないのですわ。


 私は容赦なく【氷の矢】を作り出しフェルに向かって撃ち出しますの。


 しかし魔法の取り扱いはまだまだ未熟なくせしてやたらと身体能力の高いフェルは器用に【氷の矢】を避けますわ。

 

 全く、私の攻撃に大人しくやられていればこれ以上痛い目にあわなくて済みますのに。

 最後の悪あがきとばかりに彼女は身体能力強化の呪文を唱えていますわ。

 魔法での攻防は不利と悟って肉弾戦に持ち込もうという腹積もりですわね?


 でもおあいにく様ですわ。

 魔術に関しては我がベスボン家はホリゾン帝国でも一、二を争う名門。

 こういった事に対しての教育も十分に受けていますわ。



 「【術式攪乱】!」



 フェルの呪文が完成する前に私は秘伝の「高速詠唱」を使って先に呪文を完成させフェルの呪文を妨害しますの。


 この秘伝の「高速詠唱」は幼い頃より「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴゅこぴょこぉ~♪」などと言う門外不出の歌により鍛えられてきたのですわ。

 他にも「青巻き紙、赤巻き紙、黄巻き紙♪」等々それはそれは幼い頃より苦労をして、舌を噛んで身に着けたモノ。

 そん所そこらの魔術師とは格が違いますわ。

 

 私の「高速詠唱」で【術式攪乱】魔法が先に完成しフェルの身体強化魔法が霧散しますの。

 その魔術を当てにしていたフェルは予定していた動作が取れずその場で転んでしまいますの。

 これはチャンスですわ!

 私はそこに【氷の矢】を打ち込みフェルを凍らせますの!


 しかし!



 きんっ!

 ぱきゃーん!!



 「なっ!? 私の【氷の矢】がですわっ!!」


 見ればそこにはヨハネス神父様が【氷の矢】をその場ではじきバラバラに砕いていますの!



 ああっ!

 なんて凛々しいお姿!

 濡れますわっ!!



 「いやはや、ジェリーンさんは凄いですよ。私のこの魔法を無効化する指輪が無ければフェルさんが完全に氷漬けになっていた所ですよ?」


 「ヨハネス様ぁ! 何故フェルをかばうのですの!?」

 

 私の【氷の矢】を防ぐほどのヨハネス様がこんな筋肉女をかばうなんて!

 私はあまりの悔しさに持っていたハンカチを噛んでキーっとなってしまいますの。

 

 「ジェリーンさん、合格なんですよ。これ以上貴女に無駄な魔力を消費してもらいたく無く私が止めに入ったのですよ」


 ヨハネス様はそう言ってさわやかな笑顔を見せてくれるのですわ。



 ああっ!

 またまた濡れちゃうぅぅぅぅっ!!



 「くっ、申し訳ございません。ヨハネス神父様。私は負けてしまったのですね‥‥‥」


 「いえいえ、フェルさんも合格ですよ。あなたのその身体能力強化の魔法は素晴らしい。もともとジェリーンさんの魔法を掻い潜れるところに来て更に身体強化魔法とは。まだまだ魔法を覚え始めたばかりなのにこれは凄い事ですよ」



 あああっ、あんな筋肉女にまでなんてお優しいヨハネス様!

 流石ですわ!



 「ちっ、ベスボンもスペシャルに抜擢されたのね? 忌々しい」


 「はぁ、でもこれでみんな合格かぁ」


 「仕方ありませんね、しかしこれもジュリ様のお導き」


 「と言う事は私たち全員がスペシャルとなり引き続きヨハネス神父様と一緒に居られると言う事ですか? 私だけで十分なものを」



 全くその通りですわ、私ジェリーン=ベスボンだけがヨハネス神父様と共にあれば良いものを。

 そうすれば私がヨハネス神父様の朝から夜までのお世話を全て引き受けますのに。

 そう、最後の最後までこの体を使いご奉仕してあげますのにぃ。


 

 「いやはや、予想以上ですよ。皆さんがスペシャルになる事は私も予想していましたが、今後は私と共にジュリ様の教えを広めそして異教徒たちを排除していきましょう!」



 ヨハネス神父様から漂う甘い香りが更に私たちを興奮させますの。



 ああっ! 

 ヨハネス神父様と今後も一緒に居られる!!

 私の希望、未来の旦那様!



 私たちはそのヨハネス神父様のその笑顔に魅了されますの。

 これでヨハネス様と共にスペシャルとして更に親密になれますわぁ‥‥‥



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 「ザシャ、いますか?」


 「はい、ヨハネス様」


 「この香水のお陰で良い手ゴマが出来ました。流石は『魅了の香水』。いよいよ行動を開始します。我ら秘密結社ジュメルはいよいよ表舞台に出ますよ。この古文書の『女神の杖』を手に入れ世界を滅亡へと導きます。この腐った世界を浄化するのです! ふはっ、ふははははははっはははっ!!!!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 「ヨハネス様はご一緒していただけないのですの?」


 「ジェリーンさん、私は教会に用事があります。しかしよく似合っていますよその衣装。思わず見とれてしまいそうだ」



 はぁぁあああぁぁぁぁぁっ!!

 ヨ、ヨハネス様がこの服をほめて下さったぁ!


 

 私はちょっと露出が多めの黒革で体にぴっちりの服装にマントのいでたち、何故か標準で鞭の武器を持たされた格好でヨハネス様の前に立ちますの。

 勿論私の豊満な胸はこの衣装からはみ出そうになっていてヨハネス様に見ていただいているのですわ。



 そんな私の姿に見とれてしまいそうだなんて!

 ああ、このままベッドに連れて行ってもらいたいですわぁ♡



 「ジェリーンさん、これからの行動は我々ジュリ教の真の目的、この腐敗した世界を浄化するのです。そして新たな楽園をこの世界に共に築きましょう!!」


 「えっ!? わ、私と新たな楽園をですの!?」


 「ええ、ですから共に頑張りましょう、ジェリーンさん!」


 そう言って私の手を取ってくださるヨハネス様!

 これはもう私たちの愛の世界を築き一緒になってくれるというプロポーズも同然ですわぁっ!


 私は一気に有頂天になりそしてぐっとこぶしを握りヨハネス様に誓うのですわ。



 「すべてはヨハネス様の為、私はヨハネス様の為ならば例え非道の道でも突き進んで見せますわ、そう悪の道でも貫いて見せますわ!!」


 「流石はジェリーンさん。頼もしいです。では初仕事はご一緒できませんが頑張ってくださいね。良い結果をお待ちしております」


 「おーっほっほっほっほっほっ、お任せくださいですわ! きっとご期待に応えて見せますわぁ!!」



 こうして私はヨハネス様との楽園の為行動を始めるのですわ。

 私の前に立ちふさがる邪魔者は全て消し去って!













 「ふむ、流石ヨハネス様、この娘の洗脳は完璧ね。さて、次へ行こうかしら、我が永遠の伴侶ヨハネスの為に」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お嬢様は悪の道をお進みになさる事にした~エルハイミ‐おっさんが異世界転生して美少女に!?‐外伝~ さいとう みさき @saitoumisaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ