第3話 ハンター坂

E・H・ハンターはイギリス人実業家で範多財閥・日立造船の創業者。造船業を中心に産業育成を通じて日本の近代化に尽力した人物と紹介されています。


神戸の人はハンターの人物名は知らなくても、ハンター坂なら知っているのです。坂に外国人名をつけているのも珍しく、神戸ならではと思われます。


神戸に観光に来た人なら、北野の異人館街に行きますね。電車風な回遊バスが三宮からあります。山に向かって並木の坂があります。そこは北野坂。その一本西側がハンター坂です。異人館見物のついでにこの坂を下って歩いて見てください。中山手通りと交差するかどにチロル風の5階建ての建物があります。宮水を使った珈琲で有名になった『にしむら珈琲本店』です。そこで美味しいコーヒーで一服してください。そしてまた坂を上ってください。ハンターは居留地にある商館から毎日通って上ったのです。


ハンターは1843年アイルランド北部のロンドンデリーに生まれる。20歳の頃、アジアを目指して帆船に便乗して、オーストラリア、香港、上海を経て慶応3年(1867年)横浜で貿易事業に携わった。大阪に移住した頃から、大阪川口居留地の近くに住む薬種問屋・平野常助の娘平野愛子と結婚しました。ハンターは大変な日本びいきで、自分の子はみな日本国籍を取らせ、平野性を名乗らせています。


日本の近代化に造船の技術は欠かせません。あのペリーの黒船を思い出してください。日本の造船に関わった人物としてE・H・キルビーの名前が挙げられます。キルビーは慶応元年(1865年)横浜にやってきて、マッチや雑貨の輸入に携わりますが、新規参入がなかなか難しいということで、1868年開港した神戸にやって来て、居留地でキルビー商会を設立します。大阪の川口居留地にも同様に事務所を設立し、機械や雑貨の輸入を扱いました。キルビーは神戸で小野浜鉄工所を設立し造船事業に携わります。鉄工所と名前があるのは当時、鉄造船には自分のところで鉄を作る必要があったのです。造船の経営が乗るかに見えたのですが、明治16年、経営が行き詰まり責任をとってピストル自殺を遂げるのです。

事業にはいつもリスクがつきます。キルビーの事業は挫折したのですが、キルビーの企業家精神を受け継いだのが、キルビー商会で働いていたハンターなのです。


来日はキルビーと同じ慶応元年です。明治6年キルビー商会を辞め、独立してハンター商会を立ち上げ、貿易を始めます。明治12年大阪の財界の有力者の後援を得て大阪の安治川川口に大阪鉄工所を設立し、造船事業に乗り出します。船の建造や修理には入口を閉じて中の海水を排出できるようにした装置を乾ドックといいます。当時この乾ドックの建設は大変に難しいものでしたが、大きな船の建造・修理にはどうしても必要なものでした。 大阪鉄工所は外人技師の設計と指導のもとこれを成功さします。


その後、松方正義の「デフレ政策」によって経済界は深刻な不況に見舞われ、大阪鉄工所も例外ではありませんでした。この危機を乗り切ったのが多角経営であったのです。ハンターは長男龍太郎に機械精米の事業をやらせ、米の輸出事業を始めます。この他アメリカやタイから木材を輸入するなどの広範な事業活動を行ったのです。

明治28年、アメリカ留学から帰った範多龍太郎(平野龍太郎)に大阪鉄工所の社主の地位を譲り、また範多商会を設立し、ハンター商会の事業も引き継がせ経営の第一線を退きます。


その後は日本と外国の相互理解に尽力をしますが、特に不平等条約の改正が日程に上り、議論が沸騰したとき、居留地外国人の意見を取りまとめ、日本の条約改正に理解を示します。こうした功績によって勲5等双光旭日章の栄誉に属し、74歳の生涯を閉じました。

大阪鉄工所は大正3年まで龍太郎の手で経営されていましたが、その後株式会社化され、日立製作所が経営を引き継ぎ、現在の日立造船になっているのです。

このように創業期のリスクをになった「ハイカラな主役たち」の事業は、日本に受け継がれた例が多いのです。


北野町のハンター坂の上り詰めた所にあった、ハンター邸は今、王子動物園に移築されて重要文化財となっています。

ハンターの趣味は?ハンター(狩り)であった。とは出来すぎの話でしょうか。ハンター邸の脇道をさらに登って、再度山に分け入る鉄砲かついだハンターの姿をよく見かけたとか、ハンター坂は狩りの道に続いているのです。

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