4-2

 その艦橋には見知った顔が数切れる程度だけいた。その多くは人類統一連合領から脱するときにセミヌードと無人艦達を操舵していたひとびとで、その中での唯一の外様足る例外はオリヴィエール・フォッシュ少将だった。


 彼は何らかのデータを補助記憶装置で、艦橋の中央のデスクに一体化する形で取り付けられた機器へ読み込ませているようだった。彼は新たに艦橋へ姿を現した私達を認めると、軽く私に礼をした。メルクーアは彼が触れていたデバイスの前に立ち、各員を見渡して言った。


「じゃあ、各員には復習を兼ねて。フリーデとフォッシュ少将には私の知っていることを洗いざらい話す」


 すると彼女は虚空を指でなぞり始めた。今まで見えていた彼女の仮想現実におけるディスプレイが、私には見えなくなっているのだと気付いた。艦のデスク上方に空気中の微粒子を乱反射させて、フローディングディスプレイが浮かび上がる。そこには複数枚の紙媒体を捉えた画像が添付されている。


「ことの始まりは計画的な移住政策。これは、今から十世紀ほど前から複数回にわたって行われていた、らしい。というのも、これ程以前の詳細なデータはもはや意図的に削除されたのか、自然消滅したのか分かった物じゃ無いから。だから、ここで示す資料は公のもではなくて商会、いえ、私、レイヤードという一族が個人的に受け継いできたもの」


 それが、レイヤード商会が常に人類統一連合諸国から一歩引いたスタンスを取っていたこと。そして、帝国という新たに接触した国家と自分が接触した大きな要因だ、と彼女は語り、


「何故、私の家系の先祖がこんな情報を未来にまで残したのかは置いておいて、これらはかつて、より自分達の生存範囲を広げるべく、未知の大海へ危険をはらんででも船出をした人類が多く存在したことを示している。ただ、それは重要でも何でも無い。そういう側面もあったのは事実なのだろうけれど、現在重要なのはそういった半ば捨て駒扱いされた人々と施設には仕掛けが成されていた、ということ」

「何かに繋がれていた私は、帝国は人類統一連合諸国の発展のための犠牲になるべき存在なのだと確信のような感覚に襲われた。そういう、犠牲になるべき人間を洗脳やマインドコトロールでもするような仕掛けでもあるようだったわね」


 私の言葉にメルクーアは首肯して新たな画像を展開させる。それらはどうもナノマシンやバイオテクノロジーに関する雑多な資料らしく、


「帝国人、と言ってもここで示すのはフリーデのデータだけれど。貴女がヒリュウで治療を受けた際に解析されたものよ。現代のナノマシンは、血中に注射されたそれらが通信機器としての役割を果たしつつ、使用者のニューロンやそれに対応する受容器が受け付けるイオンやタンパク質等を放出することで、視覚や音声情報といった仮想現実を使用者にもたらす。一方、帝国人の体内に見られた異常、というか変異はそういったニューロンそのものが別の何かに。おそらく、過去のナノマシンのなれの果てが代理している。メカニズムとしては、寄生虫が宿主を操るたようなものと類似している」

「俺も詳しくはないが、現在のナノマシンは所詮その個体の体内に異物を混入させるだけで、その子供には受け継がれない。帝国のように本国から遙か遠方に孤立した人々をナノマシンで支配するには、それが数世代単位の目論見だというのなら、次世代の人間にもその仕組みが受け継がれるような仕掛けが必要だ」


 フォッシュの補足に同意しつつ、メルクーアは続けて、


「もはやロストテクノロジーになりつつあるけれど、その人間が拒絶反応を起こさないという前提なら、改造手術まがいのやり方を用さえすれば、過去の時代でも現代のナノマシン技術の恩恵を形だけなら再現できたようねぇ。もはやナノマシンというよりは、まさしく寄生虫そのもの。存外、本当に人間を電子機器に適応させるのに都合の良い生き物がいたのか、そういう生物的な機器を人為的に作ったのか……」

「そういうのは歴史家か生物学者にでも任せれば良い話じゃないの。この状況下で必要な情報はそれがどう作用してどうすれば防げるか、じゃないかしら。それで、私に何か注射したわね。あれに何かからくりがあるようだけれど」と私が強引に先を促すと、メルクーアは人体の生理現象が纏められた画像を表示させた。

「ご名答、よ。帝国人の遠隔操作はニューロンと一体化してしまったナノマシンが一定周波の電波、あるいは磁場を受け取るのを切掛として、それを発するコンピューターか何かの指示を、その人間の思考に反映させるような化学反応を引き起こすことによって成される。人類統一連合の操られた人間の場合は、それを自身のニューロン自身ではなくて血中のナノマシンが物質を放出してニューロンに働きかけるという間接的なやり方をされたようねぇ。さて、仕組みが単純なら対処も簡単。交感神経と副交感神経をはじめとして、人間の生理現象の多くは相反する二者による拮抗支配の様相を見せる。それを利用し、外部からの影響を受けて引き起こされた生理反応に対して、負の反応をこれまた人為的に引き起こしてやればいい。言うなれば、アンチナノマシン。そういった新たなナノマシンを対象者の血中にたたき込む。そうすると、無効化ないしは妨害することが出来る。実際、フリーデに関するデータは揃っていた物だから、貴女の血中にあるアンチナノマシンは完全に貴女の身体の異常を、真逆の方向の反応と拮抗させる形で相殺させている。ただ、そこまで精密に生理現象を制御するには、アンチナノマシンを個々人に合わせてデザインしなければならない。あの注射を貴女以外の帝国人には注射しても完全に上手くいくとは限らないし、物理的に全員に注射針を突き立てるなんて不可能よ」 


 淀みなくそう語り終えたメルクーアに、フォッシュが尋ねる。


「人間を外部から操ることは生理学を完全に把握出来れば可能ということか。だが、疑問がある。あんただって仮想デバイスを使用しているだろう。なら一度目の、仮想デバイスを用いた人間の洗脳を何故受けなかったんだ。それに、そのときに同時に帝国人を操らなかったのは何故だろうな。帝国と人類統一連合を争わせたいのなら、その両陣営の人間を同時に操作してもめ事を起こせば良いだろうに」

「後者については私にも分からない。前者については、私の仮想デバイスは極端に使用範囲が限られていて、私から自発的に接続するという一方的なシグナルでしか許していないから。一般普及のそれほど便利ではないけれど、土台私が使用するのは人類統一連合諸国から外れた商会由来の独自ネットワークくらいだし。何より、脳への負担が小さい。あまり脳を痛めつけると寿命が短くなっちゃうもので」

「あぁ、あんたそんな身なりでも俺より何倍も年上だったな」


 メルクーアがさり気なくフォッシュの足を踏みつけるのを私は見逃さなかった。私が窘めるとメルクーアはしぶしぶ足を離し、


「後は、あぁ、肝心なことを忘れていたわねぇ。そういった電波の発信源はこの資源惑星ラインの中心部。その核から発生しているらしいというのを捉えている。しかも、フリーデをこの血へ足を運ぶように誘導したって言うゴット・ヘイグとの通信だけれど、あれはどうも本人じゃないらしい。奴が一枚噛んでいるのかと貴女の端末を調べてみたけれど、確かにゴット・ヘイグ名義の端末を一度は挟んでいた。でも、それ以上を探ってみると、どうもこの惑星から複数回デバイスなんかを経由して届けられた映像らしい。下手をすると、本人が映っていたと思われる映像も加工した作られた真っ赤な偽物だったのかもしれない」


 その報告に唖然とした私に、これ借りていたやつ、とメルクーアはどさくさに紛れて私から何時の間にかくすねていた端末を何気なしに手渡した。


 資源惑星ラインは数ある資源採掘用の場の一つに過ぎない。だから、帝国の採掘もその表面のごく一部しか進んでいないし、何より地理的に優先的な採掘が成されることは少なかった。だからこそ、そんな施設がこの自然の要塞を思わせる惑星の地下中心部に隠れ潜んでいたとしても不思議ではない。あるいは、今私達を取り巻く不可解な陰謀は、その事実が何時の日か帝国に解き明かされることの時間稼ぎだったのではないか、とさえ今では思える。


 私がそう口にするとメルクーアは、それが正しいかどうかはこれから確かめる、と言い、


「以上を踏まえて、私達は孤立無援の状態からどう生き残ればいいか、という現実的な話をしなければならない。そこで、軍事的な案を含めるであろう具体的なプランは、こちらのオリヴィエール・フォッシュ少将にご一考頂くようお願いしたのだけれど、ねぇ?」


 そう言われて、ここまで来たのなら最後まであんたに仕切って欲しいが、と頭を掻いたフォッシュが不承不承話を引き継いだ。


「そうだな……、状況が状況だ。ここからは言葉を選ばずに話そう。この、セミヌードだったか。まず、本艦が単機で帝国ないし人類統一連合諸国本国へ帰還するのは難しいだろう。この艦には全皇女殿下の個人用端末から帝国側の情報。そして、俺が持ち込んだ人類統一連合側の双方の情報が揃っている。これらに依ると、帝国の派遣した護衛艦は区別無しに数えると五千六百隻。俺達人類統一連合所属艦は二千隻ほどになる。その全てが敵だと限らないでもないが、まさしく孤立無援の状況だよ。戦闘に備え、現在俺の私物の端末から、艦隊戦から戦術規模に至るまで、俺が個人的に使用しているプログラムを導入している最中だが、如何せん、戦力差が、な」


 彼の嘆くような声を受けて私はメルクーアに尋ねる。


「メルクーア、貴女個人が持ち込んでいる戦力はどれほどのものなの。言うまでもないでしょうけれど、帝国の勢力は全て当てにならないという前提で」

「まともな戦力は、正直ないに等しい。私名義の無人艦は八十五隻。個人が所有してまともに運用するにはこれが限界だったわねぇ。セミヌードちゃんの完成のために私のほぼ全財産が犠牲になったし。しかも、それらはあくまで採掘作業用であって軍艦のような戦闘用ではない。精々弾よけか、内部機関を暴走させて自爆攻撃でもするしかない。そんな中でこの子が、やはり唯一にして一番の戦力」


 そう言ってメルクーアはリズムを刻むように足を踏み、私達の足場。つまり、セミヌードという艦を指す。


「外部から気取られないように偽装しているのだけれど、武装を帝国製の砲塔に。電磁投射砲を展開できるようにしてある。しかも、貴女が以前に直々にレクチャーしてくれた虎の子の兵器、ティンダロスを合計二十三発」

「それをどう用意したのか、というのはこの際は不問にしておく。これも大方、私の妹にでもお願いしたのだろうけれど」


 私がそう言うとメルクーアは乾いた笑い声を漏らした。呆れたようにフォッシュが話を進めていいか、と言う。


「俺もそのティンダロス……帝国の矢状弾頭が切り札になると判断した。この惑星から逃げ切ることは難しい。だから、その元凶を、このラインの最下層部に眠るらしい施設もろとも破壊する。大方、人間の生理現象によって成される仮想のネットワークを維持、活用するための超高度な大規模コンピューターでも眠っているのだろう、と思う。この兵装ならどんな岩盤だろうが装甲だろうが問答無用で打ち抜ける。シミュレーション上ではすべてが岩盤である場合は一撃で。仮にその中心部に人工的な防御壁でも築いていたとしても五発もあれば中心部に到達できるという計算結果が出ている。指示を出しているらしい中央部を破壊することで、すべての人間が正気に戻るかどうかは、正直断言はできない。分からないことが多すぎるからな。だが、座して死を待つよりはマシだろう。例え、まともな戦力が皆無だとしても、だが」


 後半からやや語調が弱くなっていったフォッシュ。メルクーアのフローディングディスプレイに展開された彼我の戦力差を示すリストの詳細を私も見つめ、彼に同情する気持ちが少し湧いた。そしてふと、私はこの艦に妙なものが積載されているのを見つけた。


「何故、リッターなんて帝国製の兵器を貴女は当たり前のように所有しているのかしら」

「以前、貴女達帝国の要人を匿っていたときの、技術試験用に遺していたリッターをそのまま予備を含めて三機ほど本艦に搭載してあったのを、その、あなたの妹にお願いして、ねぇ?」と具合の悪そうな表情で彼女は答え、「あのときは間に合わせの整備だったけれど、今回は実戦でも耐え得る。正規の部品やシステムで修復しつつ、一部は人類統一連合由来の部品が優れていると思った部分は換装してある。あるのだけれど……。いや、所詮は宝の持ち腐れか。いっそのこと雀の涙ほどの質量変化しかないけど、捨てることも考慮すべきかしらねぇ」

「どうして捨てようか、何て話になるのよ。使える物は使うべきじゃない。ただでさえ戦闘用でない艦ですら爆弾代わりにしてカウントしているのに」

「それは、そうかもしれないけれど……」

「まともに使える人間がいないそうだ」とフォッシュがそこで口を挟み、「この女の部下が、そのリッターの試験用のパイロットがいるにはいるが、実戦で当てになるほどの練度は期待できないらしい。帝国の独自の兵器だからな。俺達側には運用するノウハウもドクトリンもない。一応、シミュレーション演習のスコアだかなんだかが添付されてはいたが」


 私が見せて、と言うとメルクーアがそれらの数字を提示した。それらの数字が示したのは、乗り始めの訓練生のようなあり様だった。言い訳するようにメルクーアが言う。


「ついさっき話したように帝国人のニューロンは特殊なの。リッターは搭乗者の生体電気や脳波に反応して機体制御のような基本的動作を半ば自動的に行う。癖というか、帝国人向けのツールである以上、私達のような異郷の人間が使うとどうも反応が鈍い」

「そう」と私は無感情に答え、「でも、貴重な戦力をみすみす逃す手はない」


 すると、私の言葉にフォッシュは不審そうな顔つきになった。


「待ってくれ。貴女は、いや、君は、何を考えているんだ?」

「帝国人の私がリッターに乗ればいい、ということ」


 この展開を待っていたとでも言うように、そんな過激な提案が何の抵抗もなく自分の口から発された。でも、私は驚きもしなかった。その代わりに誰かが、嘘だろう、とか言うのだろうなと思ったら、フォッシュ少将が唖然とした表情でその台詞を口にした。


「君が?正気の沙汰とは思えないが」

「正気だし、それなりの根拠も持ち合わせているつもり。私達フォーアライターは指導者としての器量を臣民に示すために文武両道であることが求められる。だから、私はかつてリッターへの搭乗経験があるの。多少はブランクがあるのは、確か。それは隠しはしない。けれど、シミュレーション、実機含めて十歳から毎日ほぼ欠かすことなく搭乗してきた。多分、そこのデータにある試験搭乗者全員の稼働時間すべてを足しても私のそれには届かない。何だったら、今からでも同じ設定のシミュレーションをこなしてみてもいい。多分、貴方達が満足いく結果が残せると思う」


 私は彼らに提案半分、残りは恫喝するような声を滲ませてそう言った。メルクーアは私をじっと吟味するように見つめた。彼女の瞳は、僅かに曇ったかのように私には見えた。


「正気かどうかは、怪しいわねぇ。フリーデ。自分じゃ気付いていないだろうけれど、貴女は今、狂犬みたいな目つきをしているわよ」

「だから?」と私は聞き返した。我ながら冷え切った声だった。冷淡な調子で私は、どこか返事に窮した彼女にたたみかけるように続けた。


「それで、どうするの。私を乗せるの、乗せないの?」


 私が問い詰めるようにそう言うと、耐えかねたようにメルクーアは視線を逸らした。


「そう、ねぇ。戦闘用の武装換装と移動にあと、一時間は掛かる。それまではどのみち私達は艦のステルス迷彩を使用しながら人事を尽くすしかない。貴女がどうしてもと言うのなら、やって見せないさい。もし仮に、貴女が口だけじゃなかったのなら……」


 そこまで言いかけたメルクーアは、プロとしての意見はどう、とフォッシュに尋ねた。彼女には判断がしかねたらしい。あるいは、したくなかったのか。フォッシュが答える。


「正直、前皇女という立場の人間を危険にさらすのは気が引ける。だが、実力次第では一考の余地はある。どの道、この艦内にいようがいまいが死ぬときは全員もれなく道連れだ。そもそも、これは土台無茶な勝負でもある。無駄かも知れないが、人類統一連合軍で仮想デバイスの影響下になさそうな連中に呼びかけはしてはみたが、帝国人の半数以上が正気を失っているとすると状況は絶望的だ。それらの点を考慮して、扱えるというのなら戦艦という巨大な的に前皇女殿下を遊ばせておくよりは、敗走時なんかは生存率が少しは高いかもしれない。無論、そのリッター単体の稼働時間等にも依るが、どうだ」

「動力源に関しては、エネルギーの供給を大幅に超過しない限りは半永久的に使えるわねぇ」とメルクーアが格納庫内のリッターの画像を提示した。


「これらの機体は商会経由で手に入れた人類統一連合諸国由来の新型機関を試験的に搭載しているから、カタログスペック上は純帝国製リッターのそれを上回っているわ。此度の帝国との接触を通して、諸国の航宙技術は顕著な発達を見せ、ローゼンガルテンという遙か遠方の惑星まで航続出来るようなドライヴが研究開発されていた。そのノウハウを組み込んでみたわけだけれど、エネルギー効率から理論的には半永久的に稼働し続けることが出来る筈」

「なら、彼女だけでも一か八か帝国本国に送り届けることが可能じゃないか」とフォッシュは新たに提案したけれど、メルクーアはそれを拒絶した。


「動力源は兎も角、外装部がそれに見合うだけの強度をまだ確保できていないの。機体に下手な不可を駆けない限りは半永久的に稼働できけるけれど、無数の艦船や偵察機の類いの追尾を無補給で躱し続けていくとおそらく道中で潰れてしまう。さらに、人型のメリットを半ば潰すようで申し訳ないけれど、脚部に類統一連合製の無人戦闘機をベースにした追加ブースターを装着している。これによって機動性は上がっているけれど、頭に超が着くような長距離航海となると機体に掛かるダメージは計り知れなくなっている」

「なら、決まりね」と私は強引に会話に割って入る。


「要するに、脱出用の足としては使えないもの、一戦場で運用するだけの性能はある、ということ。なら、話は早い。さて、私のサイズに合った対Gスーツがあるといいのだけれど」


 その条件なら、多分私は搭乗を許されることになる、と根拠もなく思いながら彼らの話を強引に打ち切った。相手に下手に考えさせる時間を与えて、自分の提案が却下さるのを避けたかったから。自分が自発的に、しかも他人に強引に我が儘を押し通すようなときが来るなんて、思ってもみなかった。だからかしら、意地でも押し通そうと思ったのは。


 その後、ブランクなんてお構いなしに、私はむしろ人生で一番の成績をシミュレーション上で叩き出せた。もし、自分や向かってくる相手の命を賭した実戦なら、どうだろう。自分にそう問うてみる。やっぱり、今の私なら戦える。そう即決できる。自信なんてものとも違う。宿命や強迫観念めいたものが自分に乗り移ったようだった。


 そんな訓練を兼ねた時間の中で、ふと、自分の記録映像を通してリッター内に搭乗する私自身の顔を見た。失笑してしまった。成程、メルクーアの言う通りだ。


 自分とは思えないくらい、目つきが怖かった。

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