第209話 3つ目のスキルツリー その2



煉獄の巫女アシュタルテ』?


 僕はふと、その名前に既視感みたいなものを感じた。


 知っている名前だ。

 口が覚えている。


 僕はこの名を口付さんだことがあるのだ。

 それもきっと、数え切れないほどに。


 恐ろしい悪魔、という印象では決してない。


 むしろ逆だった。


 僕の中では、その名になにかぬくもりを感じる。

 そう、まるで家族だったかのような親近感……。


「うーん」


 しかし、それ以上は思い出せない。


「……まあいいか」


 とりあえず、スキルを伸ばそう。


 【不死鳥フェネクスの嘴】は対象の一時的な強化状態、通称『バフ』を解除してしまうスキルらしい。


『バフ』とは戦闘開始時に魔法で付与されるものがほとんどで、よく見るのは『筋力3%UP』や、『魔法防御力2%UP』など。


 軍の大規模戦闘前には、こういうバフの範囲がけが行われていて、見ていて圧巻らしい。


 あぁ、どうして僕、こんなどうでもいいことを覚えているんだろ。


 脱線したけど、【不死鳥フェネクスの嘴】をMAXまで強化すると、こういったバフを一気に5つまで取り去ることができる。


『最大強化ボーナス』はないが、苦労して付与されたバフをあっさりないがしろにするこのスキルは、かなり強力と言っていいだろう。

 ポイントに余裕があったらぜひ取りたいな。


 次、【不死鳥フェネクスの穿つ鋭炎】 は常時発動型のパッシヴスキルで、【魔法防御貫通力】を与えてくれるらしい。


 通常、魔法攻撃を受ける側は精神力および備わっている属性耐性力でそれを低減し、残った差をダメージとして受ける。

 その低減する力を総じて魔法防御力と呼ぶが、その魔法防御力を無視してしまう力、ということだ。


 防御する側としては、たまったものじゃない。


 1ポイントを振ると10%貫通。

 2ポイントを振ると20%貫通。

 最大まで強化すると、50%にボーナスで25%の貫通ダメージが追加され、75%貫通になる。


「すごい……能力なんだろうけど」


 僕は魔術師じゃないからなぁ。


 生かせるだけの攻撃魔法は持ってないかも……【闇の掌打】くらい?。

 優先度としては低いのかな。


 でも魔法しか通じない相手っていうのも確かにいるしね。

 他を見てから考えよう。


 次に【筋力】の項目。


気高き蠅の王バアル・ゼブブの殺気】は武器による攻撃時に攻撃力2%が加算されるらしい。

 MAXまで強化すると攻撃力は15%まで加算される上に、『最大強化ボーナス』で攻撃時【蟲王の睨み】というのが上乗せされる。


 その効果は不明。

 使えばわかる、と書いてある。


 待て。誰だ、これ書いたの。


博識なる呪殺者グラシャ・ラボラスの呪い】も最大強化で【呪殺者の睨み】があるが、こちらはMAXで攻撃力12%加算。

 効果も同じなのかな?


 両方MAXにして取ってみたいけど、ポイント残高から、ひとまず片方が現実的かな。


【敏捷性】は二倍スキルと特別加算のみなので、そのまま次にいこう。

【精神力】には【異端の神々ジ・ヘレティックスの祝福】が2つあって、1つ目、2つ目ともに【精神力】に2%の加算効果がある。


 なんかこれだけ普通のスキルだなぁ。

 ポイントを割り振るのも後回しでいいかも。


 なお、異端の神々ジ・ヘレティックスは『漆黒の異端教会ブラック・クルセイダーズ』が崇めるマイナー神だ。

 僕はこの神を信仰していたらしい。


『光の神ラーズ』のように厳しい戒律を科す神ではないので、確かに僕の性に合っている気もする。


「へぇぇ、これは変わってるな」


 次の【叶える大悪魔シトリーの悪戯】は、攻撃を与えた相手に【治癒妨害】をもたらす能力らしい。


 これもさっきと似ていて、1ポイントを振ると 回復率の15%を妨害。

 2ポイントを振ると、30%妨害。


 このまま15%ずつ増えていくが、最大強化すると、75%にさらに20%が上乗せされ、95%の回復を妨害することができる。


「むごいな……たった5%になるとか」


 なかなかあくどい能力だが、実におもしろい。

 ヒールが厄介な魔物というのもこの国の森で出遭っていたし、概してそういう魔物は強敵が多いのだ。


 打開手段はひとつでも多いにこしたことはない。


「次は……」


【前職取得済みスキル1】を簡単に説明しておこう。


【認知加速】および【悪魔の数式《ティラデマドリエ変換》】は現在使用不可で詳細は不明。


【捕喰者のディレンマ】はHPを消費して敏捷度を大幅に増強する(200%)というもので、獲得済みスキルだ。

【闇夜を這いずる魔】も獲得済みスキルで、ノットが『影縫い』と呼んでいたスキルに該当する。


 そう、影と影とを抜けることができる能力。

 このおかげで、僕はずいぶんと楽をさせてもらった。


 次の【明鏡止水】 は闇すらも貫く視覚を手に入れる。


【悪魔言語理解・詠唱】はそのままの意味。


「……悪魔言語……」


 つーかなんですか、この能力……。

 でも職業『七十二柱の守護者キング・ソロモン』なのだから、取得していて当然といえば当然か。


 まあいいや、次に行こう。


【詠唱短縮】もそのままの意味。

【凶酔の剣】は剣に凶気が宿り、斬撃の範囲が1.2倍になるというもの。


 これ、気をつけなきゃな。

 わざとすれすれで当たらないようにしても、相手が斬れちゃったりするわけで。


【縮地】は一気に間合いを詰める能力。

【キャンセル】 はスキル発動をデメリットなくキャンセルできるもの。


【二段ジャンプ】と【斬鉄】、【粉砕】はそのままの意味だ。


「すごいな」


 鋼鉄の武器を切れるから【斬鉄】を持っていることは予想していたけど、僕って地面を粉砕したりできるのか。


 躱したか、と言いながら大地をごっそりとえぐってビビらせるあれを、僕はできるのか。


 ……あれ、なんか前も同じことを考えたような。


 最後の【回廊からギャラリアの帰還者サヴァイバー】は各ステータスが125ずつアップする破格のボーナススキルだ。


 僕がいつ、どこのギャラリアから帰還したのかはさっぱり不明だが、付与能力値は他と比べて破格。

 125とか、誰が見ても絶対に上がりすぎ。


 これひとつだけでも、たいていの他人を圧倒できるんじゃなかろうか。

 いったいどんなギャラリアだったんだろう。


 最後に【前職取得済みスキル2】。


 信仰者だから【回復魔法ヒール】はわかるけど、【領域回復魔法エリアヒール】ってのもできるのか。

 詳細画面で詠唱の文言が表示されているから、記憶がなくても唱えることはできそうだ。


「それにしても、詠唱短いな……こんなんでいいのか」


 持っている詠唱短縮のおかげだと思うけど、これではあんまりな気がするが……。


 あ、この文字、もしかして悪魔言語ってやつ?

 気づかないくらい、自然に読めてる。


 ほかにも【状態異常回復キュア・ステート】、【症状緩和】、【疼痛転移ペイントランスファー】……。

 随分いろいろできるんだな、僕。


 記憶がない今の自分では、適切な場面で使いこなせるか、自信がない。

 まあいいや、あとでゆっくり眺めて勉強しておこう。


「さて、ポイントどうするかな……」


 またすぐポイントは稼げるから、あんまり深く悩む必要はなさそうだけど……見てしまうと、やっぱりどれもすぐ使えるようになりたいんだよなぁ。


 そうやって悩んでいる間に、辺りはすっかり真っ暗になってしまった。


「よし、これでいこう」


 結局、スキルツリーはこんな感じになった。




【生命力】


   【生命力二倍】 1 (MAX2)

   【叶える大悪魔シトリーの加護】 5 (MAX5)

   【不死鳥フェネクスの持続治癒】 5 (MAX5)

   【守護者の特別生命力加算】0 (MAX5)


【魔力】


   【魔力二倍】  1 (MAX2)

   【煉獄の巫女アシュタルテの慈愛】 使用不可

   【不死鳥フェネクスの嘴】  3 (MAX5)  

   【不死鳥フェネクスの穿つ鋭炎】  2 (MAX5)

   【守護者の特別魔力加算】0 (MAX5)


【筋力】


   【筋力二倍】  1 (MAX2)

   【気高き蠅の王バアル・ゼブブの殺気】 5 (MAX5)

   【博識なる呪殺者グラシャ・ラボラスの呪い】 0 (MAX5)

   【守護者の特別筋力加算】 0 (MAX5)  


【敏捷性】

   

   【敏捷性二倍】  1 (MAX2)

   【守護者の特別敏捷性加算】0 (MAX5)

 

【精神力】


   【精神力二倍】  1 (MAX2)

   【異端の神々ジ・ヘレティックスの祝福】 0 (MAX1)

   【異端の神々ジ・ヘレティックスの祝福2】 0 (MAX1)   

   【叶える大悪魔シトリーの悪戯】 5(MAX5)   

   【守護者の特別精神力加算】0 (MAX5)





 以下略



「おお、キター」


 僕は両手の拳をぐっと握った。


 各ステータスが2倍になったおかげで、能力が見違えて伸びたのがわかる。

 例によって体が軽くなり、手足に力がみなぎっている感じがするな。


 僕はしばらく木々の間を駆けたりしてステータス値の変わった自分に自分を馴染ませた。 


「すごいな……負ける気がしない」


 予想していたよりも、2倍の効果は目まぐるしいものだった。


「さて、いったんこれでいいや」


 僕は軽くかいた汗を拭く。


 明日、街で買い物をして装備を整えたら、戻ってきてまたスキルポイント稼ぎに明け暮れることができる。


 そうしたら、もう一段階成長できるぞ。




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