第208話 3つめのスキルツリー





「うーん、コイツはもうちょっと強いかと思ったのに」


 この森の主と思われる魔物の亡骸を見下ろしながら、僕は折れたファルシオンを捨て、ドロップ品の片手半剣バスタードソードが手に馴染むかどうか、その感触を確かめた。


 今日で、イシスと別れてから10日が過ぎていた。


 相変わらず記憶は戻っていないけれど、僕はあれからずっと森の中を転々とし、出遭う魔物と戦い続けている。


 イシスによれば、この国の森には『シーヴァス文明』の名残の強大な魔物がウヨウヨいるというので、狩りに出歩いているのだ。


 が、古代王国期からの魔物といっても、どうにも歯ごたえがない。

 早々に排除を終え、もう敵がいないのを確認した僕は片手半剣バスタードソードを仕舞うと、取り出した布切れで軽く汗を拭った。


「そろそろ晩御飯にしようかな」


 せせらぎを見つけたので、ちょっと早いが、このあたりで野営しようと決める。


 まあ、こういうのは早めが吉だ。


 ここのように深く生い茂った森の中では陽が見えないので、 気づくと暗くなってしまっていることがあるからね。


 僕は集めておいた枯れ枝を積んで〈着火ティンダー〉で火を起こすと、血抜きして捌いておいた『紫炎の水牛バイオレットホーン』という牛の魔物のあばら肉を取り出した。


 これは『スペアリブ』と呼ばれる、赤身と脂肪が程よい割合の部位だ。


 その肉を食べやすい大きさにして、竹を削って作った串に3つずつ刺す。


 魔物のドロップした岩塩を磨り潰して振りかけ、野生のローズマリーの葉を千切ってのせる。


 ちなみに、まんべんなく塩を振るコツは、簡単だよ。

 立って高い位置からパラパラと散らすといい。 


「そろそろ火の具合が整ったかな」


 火の周囲にその肉串を立てる。

 まもなくして、肉の香ばしい香りが立ち始めた。


「うまそー」


 僕は空腹を訴える腹をさすりながら、しばし肉串の世話をする。


 骨付き肉の脂身が泡立ち、脂汁が木串を伝って落ち始めると、正直、待ってられなくなる。

 

「よし、香草焼き完成……んーうまい」


 どんどん口に放り込む。


 香味が広がり、鼻に抜ける。

 柔らかい肉から、肉汁が口の中にあふれてたまらない。


「あー、満腹」


 食後はやっと柔らかくなってきたお手製の巨大熊グリズリーの毛皮を背に敷いてごろりと横になり、すっかり暗くなった森の屋根を眺めた。


「それにしても、過ごしやすいなぁ」


 もう初冬らしいけど、イシスが言っていた通り、この国の夜は温かい。


 むしろ秋の方が風が冷たかった気がするくらいだ。

 どうしてなのかは、さっぱりだけれど。


「さて、あらかた終わったし、そろそろ街に出て売りに行ってみようかな……」


 横になったまま、パチパチと爆ぜる焚き火に目を向け、僕はつぶやく。


『あらかた終わったこと』というのは、二つある。


 ひとつは魔物からのドロップ集め。

 衣類を拝借したし、世話になった礼に賞金はすべて全部イシスの家に置いてきたから、発った時はまさに無一文だった。


 魔物を倒して荒稼ぎすればいいや、と軽く考えていた。


 たいてい魔物を討伐すると銀貨単位で儲けが入る。

 それくらいは、記憶を失くしてもさすがに覚えていた。


 だけど、残念なことにこのあたりの魔物からは、貨幣がほとんどドロップしなかった。


 そこそこ強い魔物を倒しても貨幣ドロップは無しか、あっても銅貨で数枚。


 ダンジョンにも潜ったけど、出てきたのは宝石や古代の貨幣で、こちらは今流通しているものとは形からして大きく異なっていた。


 別にまあ、売ればいいだけなんだけどね。

 貴重な装備品もわんさか手に入れたし。


「これだけあれば」


 上半身を起こして毛皮の上に座ると、第三アイテムボックスを開いて、収められている戦利品を俯瞰する。


 100金貨はくだらないんじゃないかな。

 もうすぐ、この襤褸になりつつある衣服ともお別れだ。


「よし、スキルポイントも振っておこう」


 そう、急いで街に出ずに黙々と魔物と戦っていた理由がもうひとつある。


 きっかけは何だったのかさっぱりだけど、森に籠もって二日目に、謎だった僕の職業が判明したのだ。

 それで、スキルポイント稼ぎのために、今日まで戦い続けていた。


 明らかになった職業とスキルを示す。




 第三次職業 『七十二柱の守護者キング・ソロモン



【生命力】


   【生命力二倍】0 (MAX2)

   【叶える大悪魔シトリーの加護】0 (MAX5)

   【不死鳥フェネクスの持続治癒】0 (MAX5)

   【守護者の特別生命力加算】0 (MAX5)


【魔力】


   【魔力二倍】 0 (MAX2)

   【煉獄の巫女アシュタルテの慈愛】 使用不可

   【不死鳥フェネクスの嘴】 0 (MAX5)  

   【不死鳥フェネクスの穿つ鋭炎】 0 (MAX5)

   【守護者の特別魔力加算】0 (MAX5)


【筋力】


   【筋力二倍】 0 (MAX2)

   【気高き蠅の王バアル・ゼブブの殺気】0 (MAX5)

   【博識なる呪殺者グラシャ・ラボラスの呪い】 0 (MAX5)

   【守護者の特別筋力加算】 0 (MAX5)  


【敏捷性】

   

   【敏捷性二倍】 0 (MAX2)

   【守護者の特別敏捷性加算】0 (MAX5)

 

【精神力】


   【精神力二倍】 0 (MAX2)

   【異端の神々ジ・ヘレティックスの祝福】 0 (MAX1)

   【異端の神々ジ・ヘレティックスの祝福2】 0 (MAX1)   

   【叶える大悪魔シトリーの悪戯】0(MAX5)   

   【守護者の特別精神力加算】0 (MAX5)


【前職取得済みスキル1】


   【認知加速】 使用不可

   【悪魔の数式《ティラデマドリエ変換》】 使用不可

   【捕喰者のディレンマ】1 (MAX1)

   【闇夜を這いずる魔】 1 (MAX1)  

   【明鏡止水】 1 (MAX1)    

   【悪魔言語理解】1 (MAX1)     

   【悪魔言語詠唱】1 (MAX1)

   【詠唱短縮】1 (MAX1)

   【凶酔の剣】1 (MAX1)

   【縮地】    1 (MAX1)

   【キャンセル】  1 (MAX1)

   【二段ジャンプ】 1 (MAX1)

   【斬鉄】     1 (MAX1)

   【粉砕】     1 (MAX1)

   【完全上位属性耐性】 1 (MAX1)

   【回廊からギャラリアの帰還者サヴァイバー】 1 (MAX1)

   【作成・魔の従者】1 (MAX1)


【前職取得済みスキル2】

  

   【回復魔法ヒールLv8〉】

   【状態異常回復キュア・ステートLv5】

   【症状緩和Lv2】

   【疼痛転移ペイントランスファーLv1】

   【幽々たる結界Lv5】

   【疾病退散Lv4】

   【条件つき喪失部位回復Lv2】

   【闇の掌打Lv6】

   【妖魔退散Lv3】

   【魔法崩壊マナディスインテグレート

   【領域回復魔法エリアヒールLv4】

   【アイテムボックス拡張Lv5】

   【アイテムボックス内時間遅延Lv5】




 これを見た当時の僕は、しばし呆けた。


 そもそも第三次職業ってなんだ、というところからだった。


 前職って書いてあるし、これで三つ目?

 普通、職業は生涯を通して一つのはずなのに。


 職業、 『七十二柱の守護者キング・ソロモン』。


 これは間違いなく唯一無二だろう。

 何を意味するのかは、記憶を失った僕でも知っていた。


 その名を冠した七十二柱の強大な悪魔を従え、自在に操る者。


 スキルツリー内に『悪魔』とつくものが多数存在しているのも、僕の推測が間違っていない証拠だ。


「まず目を引くのは……」


 各ステータス項目にある『二倍系』スキルだ。


 普通、ステータスは1ポイントずつ加算されているものだということくらいは、覚えている。


 だがたった1ポイント加算するだけで、二倍になるとかどんだけチートだ。

 しかも、2回もできるとか……いいのか……。


 僕がこの10日近くで稼いだスキルポイントはちょうど30。


 それしかないので、使い道に悩むなぁ。

 すべての二倍スキルを手にしたら相当強くなるだろうけど、能力値だけ伸びるよりは、なにかできるようになる方がいいかも……?


 とりあえず全部目を通してから考えようか。


 次に目につくのは、各項目にある『守護者の特別○○加算』。

 これは1ポイント振るごとに、数値が20上昇するようだ。


 普通ならかなり力強いけど、数値上昇だけなら、今は他のを優先かな……。


 後は、個体名のついているスキル類。

 これは言うまでもなく『ソロモン七十二柱』に属する悪魔の名だ。


叶える大悪魔シトリーの加護】は、物理魔法防御シールドの常時展開らしい。

 このシールドはすべてのダメージをブロックするわけではなく、小さなダメージは素通りし、一定値以上の致死的ダメージだけをブロックするという変わった結界だ。


 もし爆発的なダメージで完全に破綻してしまっても、心配ない。

 自動修復が開始されて一定時間で再展開されるようだ。


 ためしに1ポイント振ると、バリア耐久値が8000、再展開までの時間が120分になった。


 例のために言うと、先日戦ったアーノルドの攻撃が、50いかないくらいだ。

 バリアは500以上のダメージを認識して受けるらしいので、500なら16回防御可能ということか。


「おお?」


 さらに1ポイントを振ると耐久値が2000上乗せされて10000、再展開までの時間が20分減少し、100分になった。


 3ポイントの時点で、耐久値12000、再展開80分。


 MAX5ポイントまで振ると、『最大強化ボーナス』がついた。


 バリア耐久値にプラス10000が追加され、なんと耐久値24000、展開までの時間が一気に12分まで短縮した。


「すごい」


 これはMAXまでとろう。

 命に直結する、他よりも優先するスキルだ。


 次、【不死鳥フェネクスの持続治癒】は文字通りの持続治癒効果だ。

 標準的な持続治癒の効果は知らないから比較できないけれど、24時間で完全治癒させてくれるらしい。


 ポイントを振って強化していくと、完全治癒までの時間が短縮していく。

 MAXまでポイントを振ると、完全治癒が3時間まで短縮する上、『最大強化ボーナス』で負傷後5分でダメージの半分の急速治癒ができるようになる、と書いてある。


 なるほど、致命的ではないダメージは、こちらで回復するということか。

 シールドと表裏一体なんかな。


 これも相当頼もしい。

 回復魔法ヒールが要らなくなりそうだよ。


 次に【魔力】の項目。


 【煉獄の巫女アシュタルテの慈愛】は使用不可になっており、効果も不明だ。


「……ん……?」


煉獄の巫女アシュタルテ』?


 僕はふと、その名前に既視感みたいなものを感じた。


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