第134話 試練の場の鍛錬
「なら、取ってみろよ」
リッキーがニヤリとすると、自ら先程の闘技スペースに躍り出て、自身の金貨袋をブラブラと見せつけた。
「俺から取って見せたら、お前のことを認めてやるよ。言っとくけどな、俺は類まれな魔法剣士。生半可な騙しは通じないぞ」
リッキーの挑発を聞いて、もう一戦追加になったと理解した観衆が、どっと歓声を上げた。
リッキーの職業は『
他にも魔法抵抗に関するスキルを多数持ち合わせており、それがリッキーの自信の表れとなっている。
ラモチャーは振り返り、小さくため息をついた。
それを、アリアドネだけが聞いていた。
「へっへっへ――うぉあっ!?」
不敵な笑みを浮かべるリッキーの体が、即座に宙を舞った。
目にも留まらぬ速さで、かかとをすくう強烈な足払いを受けたのである。
「………!」
アリアドネが目を見開く。
突然のことに、リッキーは受け身も取れずにへぶっ、と言いながら尻餅をつく。
「……なんだよ今の……あっ!?」
目を白黒させるリッキーの手には、すでに金貨袋はなかった。
「お、俺の金を――!」
起き上がろうとするも、払われた足に痺れが生じていてうまく立ち上がれない。
「お、おいっ」
四つん這いで近づいた頃にはもう遅し。
ラモチャーはリッキーの金貨袋から金貨を取り出し、アリアドネに渡していた。
「……おや、どうしたんだい?」
ちょうどそのタイミングで、仕事を終えたリタもやってきた。
ラモチャーから金貨を受け取るアリアドネを見て、不思議そうにしたリタが事情を訊ねる。
「……なんだって?」
まもなくして、その目が研ぎ澄まされた。
「あんたたち、そんなことしたのかい」
リタの顔色が一気に変わる。
リタは当然のように初対面のラモチャーの言葉を信じた。
アリアドネの顔を見れば、どちらが嘘かなど、考えるまでもないほどであったからである。
「いや、ち、違うよリタおばさん」
「ご、ごめんなさいっ。つい……」
リッキーとエドガーの顔が真っ青になる。
「――ごめんなさいで済むなら、法はいらないんだよ! 民の手本となるべき勇者パーティの人間が、なんて馬鹿なことをするんだい!」
この後、二人はリタにみっちりとお灸を据えられることになる。
◇◇◇
最終選抜が終わった2日後。
彼らはリンダーホーフ王国の南西にある、『光の神ラーズ』の第一神殿に来ていた。
ここはのちに独立し、
この神殿の地下にはラーズが勇者たちのために作ったとされる『試練の場』があり、102の水晶に封じられた様々な魔物と戦うことができる。
ここでは安全の担保があることが、通常の戦闘と異なる点である。
危険を感じた時に、魔物を水晶に戻すことができるのだ。
逆に言えば、魔物を完全に倒してしまうとその回復ができず、利用ができなくなるのも事実である。
つまり、ここはスキルポイントの取得には向かず、あくまで戦いの練習の場にするに過ぎない。
「今回は総勢でも11人と少ないが、ダメな奴は遠慮なく外す。いくら腕が立っても、その存在が危険になることもあるからな」
ラインハルトがひとりひとりを眺めながら言う。
「前にも言ったが、戦いにおいて、盾役はアリアドネが担う。リッキーに敵の攻撃を集約するスキルがあるゆえ、他にダメージは降ってこないはずだ。だからといって
光の神の信徒コモドーと第四の
彼らはアリアドネがどんな存在で、どんなスキルをもっているか、すでに説明を受けていた。
「ひとりひとりの動きを見る。各自思うようにやってみせろ」
突き放すような言い方で話が終わる。
ラインハルトはこの場において、各個の実力を見るというより、どれだけ周囲と協調できるかに一番の重きを置いていた。
それが長年パーティで戦い続けたこの男が、第一義と考えるものであった。
だが、それは言わない。
「では司祭殿、頼む」
「――承知しました」
神殿付きの司祭が周囲に整然と並べられた人ほどの大きさもある水晶を作動させる。
最初に水晶から現れたのは、体長一メートル程度の背の曲がった人型の悪魔、
討伐ランクは下から6番目の【軍曹】、ゴブリンに似た醜悪な外見ながらも、第三位階までの古代語魔法を唱えることができ、知能は高い魔物である。
その数6体。
「ギッギッギ……!」
実際に悪魔を目にして、勇者パーティに緊張が走る。
「ひっ……」
自教の神殿で、情けない姿を晒せないと思っていたコモドーも、耐えられずに数歩後ずさる。
それほどに悍ましい、生理的嫌悪を呼び起こす外見であった。
が、同じ
「こんなのはざらにやってくる。今のうちに慣れろ!」
悪魔を初めて見たパーティの面々が硬直しているのを感じ取り、ラインハルトが怒鳴った。
やがてエドガーにアリアドネ、トブラ、リッキーが前衛として動き始める。
不気味な外見といえど、しょせんは【軍曹】レベルの魔物である。
戦ってみれば、勇者パーティに抜擢される彼らの相手ではなかった。
しかもやっかいな魔法はほとんどがアリアドネに集められ、他の者達は影響を受けずに済むのである。
戦い自体は想像以上に安易なもので、ラインハルトの言葉通り、慣れるための戦いに違いなかった。
そうやって
やがて、とあることが目につくべくして、ラインハルトの目についた。
「……おいラモチャー」
声をかけられたラモチャーは後ろに控え、いかにも地味な行動に徹していた。
「お前の腕前ならこんなの容易かろう。なぜさっきから後ろに控えている?」
ラインハルトは選抜試験の時に目にした、ラモチャーの圧倒的な力を忘れるはずがなかった。
あれなら長年に渡って指導してきた勇者エドガーではなく、このラモチャーを戦力の中心に据え、周りが協調する動きにしても全く問題ないと思うほどであったのである。
「
ラモチャーは即答し、仲間に視線を走らせる。
「……ほう。第四のくせにやけに心得ている」
ラインハルトが笑みを浮かべて顎をさすった。
それを見たリタがくすっと笑った。
彼が顎を擦るのは、満足がいった時だけであったからである。
まれに自己顕示が強い
そういう者は
が、どんなに役立っても、ラインハルト的には落第である。
彼は個の力より、協調したパーティとしての力の大きさをなにより重要視するためである。
特に
癒やしのために魔力を残し、為すべき役割を果たした方がパーティに貢献できるとラインハルトは考えている。
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