第69話 宿泊研修に行くよ~
「よーし、いい感じだぞ、ポエロ。あと3体狩ったら次と交代しろ」
「へっ、今日も俺が一番になっちゃったか」
週三回のダンジョンの授業が始まって3週間。
早くもほとんどの生徒がゴブリンと対等に戦えるようになった。
ゴクドゥー先生の怒声が飛ぶことも随分と少なくなっている。
ゴブリンの動きの単調さに生徒たちも慣れたこともあるし、一年生たちの成長が著しいこともあるだろう。
最初の頃はゴブリンを数体倒すだけで貯まるとか、スキルポイントが手に入りやすいしね。
「バヤ、お前なかなかやるな。【筋力】伸ばした?」
「お前【敏捷】伸ばしただろ、ボヤ」
スキルポイントひとつで抜いたり抜かれたりと、どんぐりの背比べとはまさにこのこと。
この時期には三人パーティを組めば、ゴブリンエリアはもう踏破できる一年生がほとんどになった。
もちろん先生の監視下だし、不意打ちや囲まれにはまだ弱いけどね。
なお、10月からは事前に申請しておけば、休日に「おつかいクエスト」をこなすこともできるようになっている。
僕も先週末に、スシャーナとピョコに誘われて「おつかいクエスト」に行ってきた。
少し離れたところから、こっそり先生がついてきてくれるのが、ちょっと面白かった。
そんなおかげで、一年生の間でもクエスト成功が増えており、プラチナクラスでは【一等兵】に昇格する準備を整えている人もちらほら見られ始めている。
◇◇◇
そんな季節にやってきたのは、一年生全体で行われる一泊二日の宿泊研修だ。
野営実習も兼ねて行われるそれは、管理されている学園の裏山の森に朝から入り、自分たちで食糧となる動物を狩り、実際の冒険者の行動を体験するというもの。
魔物の出現場所まで管理されている森なので、普通ではありえないほどに安全で気が抜けるのだが、防寒の仕方、捕らえた獲物のさばきかた、火おこしや夜露のしのぎ方など、一年生には実践的な内容を教わることのできる、いい機会になっている。
国防学園って、ほんと良くできてる。
そんなふうにいろいろ教わっている間に陽が暮れて、僕は今、一緒に学んだスシャーナ、ピョコともうひとり、手伝いの上級生とともに焚き火を囲んで座っている。
随分寒い季節になっているから、みんな厚手の毛皮や衣服を着込んでの研修だが、それでも焚き火はありがたいものだ。
肉汁が串を伝わって落ちて、赤熱した薪の上でじゅっ、と音をたてた。
「美味しそう……」
「うん」
「……ごくん」
焼けた肉と香辛料のよい香り。
今日のディナーはうさぎ肉と山菜のスープだ。
たったそれだけだけど、三人で力を合わせて作った、渾身の料理だ。
「いただきまーす!」
みんなの吐く息が白い。
「……おいしいですっ!」
「あー体があったまるなぁ」
「一年生にしては、上手にできたね」
スシャーナもピョコも、空腹を忘れるくらいに一生懸命だったと思う。
今もまた、頬張るのに必死で、しばし無言の時間が過ぎていた。
「――ごちそうさまでした」
四人で手を合わせて食事の礼をする。
ちなみに、あとは交代で見張りをしながら、休むだけだ。
もちろん魔物は来ないので、形だけの練習になるけどね。
「……そういえばフユナ先輩、転校するんだって?」
ふさふさの毛皮を着たスシャーナが僕に問いかけてくる。
「今すぐじゃなく、来年の4月みたいだよ」
「四年生の間でも噂になってるね。サクヤくん、どうしてか知ってるのかい」
グレーのナポレオンコートを着たゲ=リ先輩が湯を沸かしながら、訊ねてくる。
そう、手伝いの上級生とは、この人だ。
卒論はすでに投稿済みのために暇だったらしく、実習手伝いという形で、夕方から僕たちの班に参加してくれているのだった。
「はいっ、自分も気になります」
フードをすっぽりと被った愛らしいピョコも、真ん丸の蒼目を向けてくる。
「僕は知ってますけど、話していい内容じゃないかもですよ」
僕は羽織っている外套の襟を押さえるようにしながら言った。
そう。
だから今、僕はフユナ先輩との練習を継続していない。
フユナ先輩はフィネス第二王女の
今、先輩はその仕事のための特殊な教育を受けていて、ほとんど学園に来ていないらしい。
そうは言っても、みんな興味津々だった。
このまま終わらせてもらえそうにない。
「やましい事じゃないのは確かだよ。すごく前向きな理由なんだ」
「……そうか。それだけ聞ければ十分だね」
ゲ=リ先輩が話をまとめてくれた。
「なにか違う話をしましょうか。サクヤンがかわいそうになってきたわ」
スシャーナも微笑んで、話題を変えようとしてくれる。
目の前の焚き火がパチパチと小さくはぜる。
僕は枝で薪をつついて、赤熱した部分の位置を正す。
「そういえば自分、聞きましたっ。今日のパーティで学年末実技試験もやるらしいですっ!」
ピョコが手袋のはいた手を火にかざしながら、口を開く。
「あぁ僕も聞いた」
「嬉しいわ」
前にも言ったけど、学年末実技試験は学園全体で亡国ミザリィに行き、ボランティア活動を行うという、剣の国リラシス特有の行事だ。
第一から第三までのすべての学園が彼の国に赴き、数日滞在する。
誤解しやすいが、「学年末試験」というのは学年の総評価ではなく、通らなくても進級はできる。
筆記と実技があり、この試験に合格すると、どんなランクからでも一つ上がることができるという、学園の特別措置だ。
「ゲ=リ先輩、学年末試験で出る魔物は
「どうしてミザリィは滅びちゃったんですかっ?」
スシャーナとピョコが、ほぼ同時に伍長ゲ=リに訊ねる。
伍長は咳払いして、少し嬉しそうにしながら口を開いた。
「まずスシャーナちゃんの質問から答えよう。学生が行くエリアは住民の生存圏だから、村に入ってしまえばそんな恐ろしいやつらは出てこないんだ。でも村に入るまでは気が抜けない。
「コボルドも……」
「兵士さんたちの下見と『事前掃討』っていうのが入るから、明らかにそれ以上の魔物が棲みついている森は立入禁止になるはずだ」
なるほど。
そうやって危機回避させるのか。
「あのっ! 村に入るまでっていうと、どれくらい……」
不安になったらしく、ピョコが口を挟んだ。
「行程は2-3日くらい。まあ一年生は近いエリアになるだろうから2日かな。つまり最初の2日が大変だ」
「2日も戦い続けるの……?」
スシャーナが軽く青ざめる。
「もちろんずっとじゃないさ。うまくいけば一日1回くらいの戦闘で終わるパーティもあるらしい。……さて」
ゲ=リ先輩が、ゆっくりとピョコに目を向ける。
「それから、国が滅びた理由だったね。……いいだろう。ちょっと長いけど聞くがいい」
なにか偉そうな言い方になって、先輩は厳かに語り始めた。
八年前まで健在だったミザリィ王国は国土に大森林地帯を抱えるためか、そもそも魔物の数が多く、住民は森から溢れ出てくる魔物に常に悩まされていた。
それでもミザリィ王国は名高い冒険者を数多く抱え、強固な軍隊を持っていたので、魔物が侵攻してきたと知れば即座に赴き、住民を守り続けてきたらしい。
「けどね、西のリヴマイザーという、規模にして第三の街が
「へ、変調……」
ピョコがごくり、と息を呑んだ。
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