第16話 学園生活スタート!
入学式翌日、翌々日はオリエンテーションだ。
学園内施設や寮での過ごし方についていろいろ教えてもらえる。
例えば、食堂は学園の地下のほか、寮にもあり、朝は寮、昼は学園、夕はどちらで食べても良いことになっているそうだ。
同じクラスの生徒たちと会話する機会もできて、自然と友人関係が出来上がってくる。
「あ、はいっよろしくおねがいしますっ! 自分、こういう集める系、大好きですっ」
小柄な青髪おさげの少女とペアになって薬草学のオリエンテーションをしたり。
「俺がテルマ、こっちが双子の妹のルイーズだ」
茶髪をいくつも結んだドレッドヘアーの少年少女、テルマとルイーズとともに解剖学の部屋を見学したり。
ちなみにふたりは【ガンダル―ヴァ盾剣術】の使い手だ。
ちょうど剣術の話が出たので、ここで説明しておこう。
「剣の国リラシス」と呼ばれることからもわかる通り、この国は剣を極めようとした者たちが集ってできたような国だ。
過去には我こそが最強と多くの剣士が名乗りを上げ、頂点を決める大会も盛んに行われた。
その日々の切磋琢磨に伴って、100を超える流派が生まれている。
流派によっては似通ったものもあるが、全く相容れない考え方をする流派もある。
例えば防御。
回避9割の流派。
剣を武器とも防具とも考えて扱う流派。
盾なしでは剣術が成り立たないとする流派すら存在する。
テルマとルイーズが属する『ガンダル―ヴァ流盾剣術』は、盾を用いる剣術の中でもっとも高名な流派だ。
ちなみに、盾を用いない中では『ユラル亜流剣術』というのが有名だ。
僕は盾は使わない、マイオリジナルだけどね。
さて、オリエンテーション二日目にははやくも、クラスの中で頭角を現すやつが出てくる。
どうやら入学時の本試験で主席だった、ポエロという金髪をオールバックにしたイケメン少年がすでに取り巻きを連れており、クラスを仕切る感じになりつつあるようだ。
耳に入ってくる噂によると、彼は土系召喚師らしい。
そして本試験次席だった、肩までの茶髪のそばかす少女スシャーナ。
ハキハキした性格で、発言力があるようだ。
彼女はポエロとは知り合いらしく、犬猿の仲らしいぞ。
こんなの、僕にはどうでもいい情報だねって?
いやいや、僕はプロのチカラモチャー。
人の背後で力強く暗躍するために、周囲の人間は日頃から要チェックなのさ。
◇◇◇
トントントン、と階段を駆け上がっていく先輩女生徒の、赤いチェックのブレザースカートが揺れている。
先輩たちも授業が終わったらしい。
僕は寮の一階ロビーでごろんと横になりながら、考え事をしていた。
新入生はオリエンテーションを終え、午後フリーになっている。
でも学園の外に出るには許可をもらったりと面倒なので、みんな寮の自室に戻っているみたいだった。
ダンジョンに入れるようになると、放課後にチームを組んで入ったりするみたいだけど、一年生はまだしばらく許可をもらえないようだ。
「うーん」
僕は立ち上がって、大きく伸びをした。
縮んだだけあって、天井には全然届かないや。
生徒の寮は学園の横に建てられた、白い横長の建物だ。
一階が一年生、二階が二年生。
三階が三年生で四階は四年生。
入り口はひとつで、玄関前ロビーから右にいくと男子寮、左にいくと女子寮。
上にいく階段は玄関ロビーの正面にある。
二階以降も同じ構造だ。
そして住む場所をなくした僕が居るのは、一階の玄関横ロビー。
ここが僕の居住区。
入学式の夜から、僕は寮の共用の水場で行水をし、この玄関前ロビーの暖炉前で寝ている。
毛布にくるまるが、暖炉は就寝時刻の21時には消されてしまうので、毎晩ビミョーにだが凍える。
他の一年生たちもなんとなくロビーには来るけれど、僕が本気で生活しているのを見て、言葉もなく去っていってくれる。
脱いだ制服や洗ったマンマ=パンツをハンガーにかけておいたりとかしてるからね。
なお、ブレザー制服は最低オプションのものを二枚、学園から支給されているぞ。
女子と同じグレーのジャケットに紺のネクタイ、紺のズボンだ。
そんなふうにしていると、窓の外から木刀を打ち合う音が聞こえてきた。
「ぷぎゃっ!?」
「駄目だな。次」
「我こそは名門メイリス家の長男、ハルトマンなり。此度は――へぶっ!?」
「もういいぞ。次」
窓から覗くと、フユナという三年生の女子生徒の横顔が見えた。
例の「強い人を探している」というアレで、男子たちが自分を売り込んでいるらしい。
◇◇◇
翌朝。
「うぅ……」
「だめだぁ……」
地面に這いつくばる男子生徒たちを横目に、僕は寮を出て学園の校舎へと向かう。
今朝も早くから、名乗りを上げた男子生徒とフユナ先輩との手合わせが行われていた。
「やっと俺の番だ! 見よ、この聖なる一撃、【グラド――ぶりゅ!」
「ありがとう。君はもういい。では次」
今年の新入生は500人前後、男子はその半分くらい。
風の噂ではすでに50人以上を面接しているが、お目にかなう男は未だにいないんだとか。
クエストを受けに朝方、学園の受付にやってくる冒険者たちもほほう、と声を上げてその光景を眺めている。
まあそんなことはいいか。
僕には関係のない話だ。
さて、今日から授業が始まる。
授業は僕の通った神殿でもあったけど、ここまで細やかではなかったな。
今日の一時間目は『魔物発生学』。ゴールド、シルバークラスと合同の授業だ。
先生が教室に入ってきて登壇すると、ざわついていた室内が一気に静かになった。
「ようこそ新入生たち。私がミザルだよ。この学園で一番の古株さ」
教壇に立つ丸眼鏡をかけた小柄な中年の女の先生が、その体格に見合う小さな声で挨拶をした。
ミザル先生は『A級魔物解剖学』と『魔物発生学』を教えてくれるらしい。
どうでもいいけど、この先生の名前は忘れないだろうなと思った。
メガネザルに似てる気がするから。
「知識は格上の魔物と戦う時に、窮地から救い出してくれる大事な物なんだ。けっして疎かにしてはならないよ」
今日は簡単なオリエンテーションの後、卵から孵化する魔物と、哺乳類のように赤子として母体から生まれてくる胎生の魔物について習った。
卵を生む魔物は大量に生んで生き残る確率を上げ、卵胎生や胎生はひとつひとつを大事に育てて個の生存確率を上げる仕組みを選んでいる。
「出遭った時、どっちが厄介だと思うかい」
「はーい」
プラチナクラスエリアからたくさんの手が上がった。
さすが粒ぞろいらしく、60人ほどのクラスメイトの半分が手を上げている。
「卵です。数が多く、殲滅に手間がかかります」
金髪をオールバックにした男子、ポエロが答える。
彼の制服には襟に金色のボタンや、ストライプネクタイなど、各種オプションが追加されていた。
まあトップのクラスだから、貴族を親に持つ生徒が多いのは偶然ではないだろう。
そんな外見もあって、彼はすでにクラスの皆から知られる存在になっていた。
「何もできない卵が厄介なわけないでしょ。生まれながらに牙を持つ一体のほうが断然脅威よ」
すかさずそばかす少女のスシャーナが反対意見を述べる。
そう言って二人は席を立ったまま、睨み合うのだった。
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