第15話 フユナ先輩 登場

 


 試験を受けた僕たち3人はその後、使っていない教室に案内され、待たされていた。


 学校の教室、というより大学の講堂というイメージの場所だ。

 長い机が段々になった室内に二列で置かれ、軽く100人以上が収容できそう。


 そんな一室の角で、僕は歯噛みしていた。


「やっちゃった……」


 これでは想定外に良い評価をもらってしまうかもしれない。

 まさかあれを倒してしまうとは。


 影の中に本体があるとか、本当に知らなかったんだよ。

 僕はただ、床に剣を刺したかっただけなんだよ。


 などと思いつめていると、ガラッと扉を開けて、リーゼントの隻眼男が入ってきた。

 ゴクドゥー先生だ。


「お前たちのクラスが決まった。ひとりずつ読み上げるぞ」


 誰かがごくり、と喉を鳴らした。


 クラスについて、先に説明しておこう。

 クラスは6つだ。


 学年のトップエリートだけを集めた特進クラス、プラチナ。

 ここからは到達目標の【兵長】のさらに上、【伍長】を手にする生徒がぞろぞろ現れると言われている。


 次が準エリートを集めた特進クラス、ゴールド。


 その次がエリートではないものの、有能と判断された者たちの特進クラス、シルバー。

 ここはどこにも当てはまらない『その他大勢』が収容されやすく、人数が多めになっている。


 この3つの特進クラスは授業の単位コマ数が多く、本気で生徒を養成する。

 僕はちょっと遠慮したい感じだ。


 他の3つのクラス、エキスパート、イエロー、スカラーは少々意味合いが異なる。


「エキスパート」は名前だけは迫力があるが、クレーマーの親を持ち、学園が丁重に扱わなければならないVIPの子を集めたクラスと言われている。


 それだけに建前上は少数精鋭エキスパート

 ほかと隔絶されているため詳細不明だが、授業は軽めらしい。


 イエローは落ちこぼれが予想されるクラス。

 あまり負担にならないよう、こちらも単位コマ数が少ない。


 ここが僕の目指すクラスだ。


 なお、クラス名がなぜイエローなのかさっきゴクドゥー先生に聞いたが、配属される生徒を見ればおのずとわかると言われた。


 最後にスカラーは運動は出来ないが、純学問に才能があったり、学園終了後、ここの博士課程やエルポーリア魔法帝国の魔法学院へ留学するような子供を集めたクラスになる。


「まずテルミ、お前は望み通りスカラークラスだ。博士課程に進みたい連中が集まっている。友だちを作っておくといいぞ」


 女子生徒が感激したように飛び上がった。


「あ、ありがとうございます!」


「次にリィト」


 漏らした少年が名を呼ばれた。

 彼は紙オムツのまま、立ち上がる。


「ハイ! 俺は……」


「お前はイエロークラスだ。漏らし屋が集まっている。友だちを作っておくといいぞ」


「あ、ハイ」


「最後にサクヤ。お前はプラチナクラスだ。ビシバシ行くからな。キチンとついてこい」


「ちっ」


「ん? なにか言ったか」


「いえ、なんでもございません」


 くそ、最初から痛恨の失敗だ。


「言うまでもないが、みんな『二等兵』からスタートだからな。知っての通り、今は春休み中だ。3日後に入学式がある。忘れずに出てこい。あ、それからサクヤ」


「はい」


「卒業できなかった奴がいて、お前の部屋はなくなった。済まないが空きが出るまで、寮で適当に生きていてくれ」




 ◇◇◇




 登りたての陽射しと、澄んだ空気が清々しい。

 街での生活とお別れし、僕は支給された制服を着て第三国防学園にやって来た。


 今日は入学式。

 そして寮生活開始だ。

 部屋はないけどね。


 学園の門をくぐり、樫の木の香りがする廊下を通り、初めて入ったプラチナクラスは、静まり返っているけれどなんだかピリピリしている。


(みんな刺々しい顔してるなぁ)


 エリートばかり集めたクラスだから、きっとライバル意識が強い人ばかりなんだろうな。


 廊下にはまだ帰らない父母が、涙ながらに居残っている。


 まあ最年少は12歳とかだから、いきなり寮とか言われても、まだ離れられない親とかいるんだろうな。


 僕なんか部屋なしなんだけど。

 誰か泣いてくれよ。


「みなさん揃いましたねぇー。担任、私です」


 ピンク色の髪をしたミニスカの女の人は、紙オムツのマチコ先生だ。

 いや、マチコ先生が紙オムツなんじゃないぞ。


 その穏やかな声ひとつで、不安げだった生徒たちの顔に笑顔が灯る。


 優しそうな先生が担任でよかったとみんな思ってるんだろうな。

 廊下に居残ってる父母たちも手を叩いて喜んでいるから、当たりの先生みたいだ。


 その人の案内のもと、体育館に向かう。


「新入生の皆さん」


 皆が着席したところで、校長が落ち着いた口調で話し始め、教師陣を紹介する。


「よろしく頼む」


「どうぞよろしく」


「ビシバシ行くからなゴラァ!」


 科目が多岐にわたるから、先生も多い。

 授業の中には先生が二人以上参加して行うものもあるとのこと。


「――後輩たちよ! 食堂は一八時には混み合うぞ。ルールはないから上級生相手と言えど、ひるまず席を奪え! ……でも4年生は卒論で弱っているから、できれば席を譲って欲しいんだ……」


 それが終わると、四年生からの笑いを誘う歓迎の挨拶に変わった。

 さすが最上級生。新入生たちのこわばった表情が、また和らいだ気がする。


 やがて四年生が終わり、三年生の歓迎の挨拶になった途端、体育館中が今までにないほどに大きな歓声に包まれた。


 なんだなんだと騒ぐ新入生。


「フユナさんだ……」


「フユナ先輩だ」


「おぉ、あれが学園最強の……」


 周りの新入生が指をさして言う。


 やがて登壇した一人の生徒。

 金髪碧眼の、色白の美少女に皆が目を奪われていた。


【視覚】を上げたせいだろう。

 遠くでもその端正な目鼻立ちが手に取るようにわかる。


 まるで本の中から出てきたのではと思うほどの、嘘みたいな美しさ。

 その人が壇上から声を張り上げる。


「新入生の皆さん、はじめまして。3年になるフユナだ。三年を代表して挨拶をする。第三国防学園によく来てくれた」


 見た目の華やかさに似合わず、何か硬い話し方だった。

 そこであれ、と思う。


 僕、どこかでこの人と会っているような。


「学園では他の学年と一緒にパーティを組んだり、授業を受けたりすることもある。一緒になった時は楽しくやろう。地下ダンジョンとか、案外楽しいんだぞ。あ、それから、最後に個人的なことをいいかな」


 彼女の目つきが変わった気がした。


「今年の『連合学園祭』は絶対に優勝してみせるとここで誓おう。それで、その時に私のパートナーとなってくれる、腕に自信のある生徒を探している。我こそと思う新入生がいたら、是非声をかけてほしい。もちろん力をつけたと思う在園生だっていい」


 その言葉に、体育館中がどよめいた。

 フユナという三年生の挨拶はそれで終わりだった。


「どこで会ったんだっけな……」


 そんなどよめきの中、ひとり首をかしげる。


 ちょうど何かの裏に隠れてしまったように、思い出せない。

 まあいいか。


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