第11話 自殺志願!?

 


 続けて、ランクの特徴を大雑把に説明しよう。

 忘れていいよ。


【二等兵】から3階級昇進した【兵長】以上は国の求めに応じて兵役を課せられるかわりに、住んでいるだけで国から毎年給付を受けられるようになる。


【兵長】の2つ上の【軍曹】になると、卒業式で盛大に表彰される。


【軍曹】の上たる【曹長】まで行くと、国防学園の教師となる資格が与えられる。

【曹長】はまれに在学生徒から出るらしいが、非常にレアなケースらしい。


 その上の【准尉】以上になると軍から優先招集を受け、王直下の部隊である禁軍、王国騎兵隊への入隊すらも可能になる。


 選ばれるかどうかは別として、ね。


【少尉】になると、軍務において部隊を束ねる任務を与えられるようになり、【大尉】になると大部隊の隊長を任されるようになる。


【大尉】の上の人材はレアすぎて、歴史上でも数えるほどしかいない。


 なお、勇者アラービスが【中佐】、聖女ミエルが【少尉】、僕は【中尉】だった。

 正直、アラービスとはそれほど実力差を感じなかったけど。


 四年間の学園教育が終わり、卒業した時点でのランクは案外に重要だ。

 なぜなら生涯、それより下に下がることがないからだ。


 たとえ卒業後に商人や文官となろうとも、である。


 だから、学園卒業の目標ランクは3階級昇進した【兵長】だ。

 うまくやれば、国からの給付だけを受けて、「国益に関する職務」を理由に兵役を逃れ続けることもできる。


 それ以外にもランクは当然、自身に箔をつける意味合いもある。

 貴族たちがこぞって自分の子に高学歴を残そうとするのも、想像に難くないだろう。


 それゆえ、国防学園は冒険を志す若者を育成する欠かせない場でありながら、出来の悪い貴族の子に箔をつけて卒業させる、汚職や賄賂にまみれた場所でもあるというのが、一般人の理解だ。



 ◆◆◆



 白大理石でこれでもかとばかりに造られた真っ白な校舎が陽光に照らされて輝いている。


 グラウンドでは蹴鞠みたいな遊びをしている生徒や、魔法を空に向かって放っている者も目につく。


 僕はそんなグラウンドを横切りながら、国防学園の校舎に向かう。

 正面玄関の横にある受付窓口には生徒ではなく、一般の人がぞろぞろと並んでいる。


 窓口は四つあり、そのうちのひとつに並ぶ。


「こんにちは。どういったご用件でしょう」


 10分ほど待って僕の番になり、受付のお姉さんが愛想よく訊ねてくる。

 ありがたいことにまた優しげだ。


「移住者です。ここで王国許可証を作るように言われました」


「一般用? それとも冒険者用?」


「冒険者の方で」


 許可証はたいていの国で二種類ある。

 一般用が人口の7割、冒険者用が3割と言われている。


 一般用だと煩雑な手続きは不要だが、ランクが最低の【二等兵】に固定される上に、魔物討伐のようなクエストをこなしても、報酬が全額もらえなくなる。


 許可証の費用も国の補助が受けられなくなるため、倍近く値が張る。


「前の国は?」


「リンダーホーフです」


 前に持っていた許可証はなくしましたと伝えた。

 まあ嘘ではない。


「キミ、この国は初めて?」


「そうです」


「申し訳ないけど、うちはリンダーホーフ王国のランクは引き継げないの。最初からやり直しになるわ」


 受付のお姉さんは残念そうに言った。

 聞けば、あの国のランク昇進は不正が多くて、あてにならないんだとか。


 まぁ確かにアラービスの【中佐】とか、意味がわからなかった。


「最初からやり直しということは」


【二等兵】からか。

 そしてこのパターンは……。


「君は、何歳?」


「あ……えーとですね」


 まずい。

 最悪っぽい流れだ。


「12、いや13歳? でもどう見ても15歳前ね。冒険者をやりたいなら、国防学園からスタートね」


「あう」


 15歳前の冒険者志望者は必ず学園に入らなくてはならない。


「許可証作成が格安になるんだから喜んでいいわよ。誰かの推薦状は持ってる?」


「いえ……」


 もちろんそんなものはない。


「じゃあこれから四年間よ。ちょうど五日後に本試験欠席者の特例試験があるわ。頼んでみる?」


「……やっぱ入んなきゃだめですか」


「だめよ。若さは無謀なの。年をとればわかるわ」


 お姉さんは人差し指を立てて言った。


 僕、勇者パーティで魔王倒してきたんですけど、なんて言えば逃れられるかな。


 実は僧侶なんです、と言ったらどうかな。

 いや、神殿の下働きからやり直しのほうが断然キツイから、それは言わないでおこう。


「あのですね……僕、実は」


「なんと言ってもだめ。あきらめなさいな」


「ですよねー」


 だめだ。

 お姉さんの目が激しく駄目だと言っている。


 あそこはとにかく、外見の年齢だけで強制的に放り込まれるからな。


「わかりました」


 まあいいや。

 魔王を倒して、今すぐ取り立ててやりたいことはないし。


 冒険者じゃなく学園で、「縁の下の力持ち」でもしまくるか。


 それはそれで悪くないかも。

 やりたいことが見つかったら、退学にでもなればいいし。


 とりあえず学園に放り込まれる前に【憤怒の石板】の効果くらい、見ておきたいな。

 この国の学園って、寮生活のはずだから一旦入ると出づらそうだし。


「じゃあ第三国防学園よ」


 ここは第一で、第三は東の外れにあるとのこと。


「第三まであるの」


「第一、第二は通称、『貴族学園』よ。推薦なしでは入れないわ。寄付金も持ってないでしょ?」


 うわ。寄付金とかそんな感じですか。

 さすが人口が多い国は違うなぁ。


「もちろん第三でいいです」


 貧乏人は第三にいけということですね。


 いや、貧民路線、案外いいかも。

 縁の下っぽいし。


「じゃあこの紙に必要項目を記載してくれる? 空いていれば試験の晩から寮の部屋を使えるように伝えておくわ」


「ありがとうございます」


 用紙に記載の後、僕は4銀貨を払って王国許可証を手に入れた。




 ◇◇◇





「さて、お試しに行こうかな」


【憤怒の石版】の怒りの反撃カウンターとか、【追撃】とかどんなんなんだろ。


 というわけで、第一国防学園を出た僕はそのまま王都マンマを出た。

 街道沿いに進み、魔物のいそうな森を探す。


 新しく手に入れたスキルを試すのだ。


「あそこ、なんか雰囲気がいいな」


 周囲に比べて、やけに木々が密集していて深い森。

 なにか、はいっちゃダメそうな空気が漂っている。


「よーし」


 おもむろにそこへ入っていこうとした折。


「おい、その森はひとりでは危ないぞ」


 ふいに後ろから、硬い口調ながらも透き通った声をかけられた。

 振り返ると、馬から降りた少女がこちらを見ていた。


 年の頃は16くらいか。

 金色の髪をした碧眼の、一見して育ちの良さそうな少女だった。


 白いワンピースを着ており、その左の腰には剣が携えられている。


「止めないでください」


「ま、待て! 自殺志願者か! 早まるな」


 なにか勘違いされて、慌てた少女が俺に駆け寄り、後ろから右手を掴んだ。


 掴まれておきながら、僕はひそかに笑っていた。


【第六感】をとったからだろうか。

 こうなることがなんとなく予想できたのだ。


「すごいぞ……」


 笑いが止まらなくなりながら振り返る。


「自分で命を絶って良いことなど……ひっ!?」


 嬉々とした僕を見て狂ったと思ったのか、少女が驚いて手を離した。


 僕はそのまま森の中へと消えた。

 

 ちらりと振り返ると、さっきの少女は尻餅をついて小さく白パンチラしたまま、呆然とこちらを見ていた。


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