1-34.システム向上
スキルポイントを振り終わる頃には朝食の準備が出来た様だ。目の前に置かれた木皿からは芳しい香りが漂って来た。いつもと変わらない朝食なのに、ヒトの身体で一度味を知ってしまうと以前よりも色付いて見えるのは何故だろう。因みにクロはボクが頭を捻っている間にユーライカに連れて行かれてしまったので隣には居ない。
子供達がそれぞれの席へ定番メニューの乗った木皿を運んで席についたので、先んじて一口食べて見せる。それを合図にと一斉に食前の文句を唱和して子供達の食事も始まった。育ち盛りとは思えない程行儀良く静かに箸を進める光景も見慣れた物だ。箸は言葉の綾です。一頻り子供達を見回した後、ボクも食事を続けた。
食べながら、先程までの作業を頭の中に巡らせる。
今回のスキルアップで一気に全体の底上げが出来たと思う。何せ五千ポイント以上有るのだ。どう使うべきか、ナビィのレクチャーを思い出しながらじっくりと考えた結果に、自分では納得している。
▼パーソナル スキル
-----ノーマル-----
[
[自動回復] Lv3/[回避] Lv3/[射出] Lv3/[跳躍] Lv3/
[気配察知] Lv3/[気配隠蔽] Lv3/[剣術] Lv2/[演技] Lv2
-----レジスト-----
[精神汚染耐性] Lv3/[物理耐性] Lv3/[苦痛耐性] Lv3/
[ストレス耐性] Lv3/[雷耐性] Lv3/[火炎耐性] Lv3/
[毒耐性] Lv3/[魔力耐性] Lv3
▼オブジェクティブ スキル
[角射出] Lv3/[殴打] Lv3/[爪撃] Lv3/
[尾撃] Lv3/[牙撃] Lv3/[蹴撃] Lv3/
[見切り] Lv3/[
[
[交渉術] Lv2/[詐称] Lv2/[工作] Lv2/
[小細工] Lv2/[
[
[
[
まずは全てのレジストスキルのレベルを一つずつ上げた。今の所レジストスキルは全てレベルを五つ上げると上限となるスキルなので、レベル2から一つ上げるのに100ポイントで済む。次のレベルに上げるには更に1000ポイント必要なので、今回はレベル3以上には上げられない。
今回スキルポイントを割り振ったスキルの中で、”NIS””メニュー””剣術””演技””家事””交渉術””詐称””工作””小細工”の九つ以外は全てこの”五つ上げると上限となるスキル”にあたる。まず比較的要求ポイントの少ないこれらのスキルレベルを優先的に上げた。これでフィジカルのサポート面の強化と各種耐性、物理攻撃力や魔力的な攻撃力の底上げが出来ただろう。
これらのスキルはカンストまでレベルを五つ上げる必要が有るのに比べ、残りのスキルはレベルを”三つ上げると上限となるスキル”だ。カンストに必要なレベルは少なくて済むのだが、レベル2から要求ポイントがぐんと跳ね上がる。レベル1から2までは
エリンギマンに加えて蜂の軍団、レベルアップボーナスも加味してようやくスキルポイントが五千を超えたのを考えると、カンストに十万必須と言うのは効率が悪すぎると思うのだ。もっとこう、異世界転生ってもっとこう、さくさく強くなって行くもんじゃないの?話し違くない?いじめ?いじめなの?
……どこまで言っても現実はフィクションの様に都合良くは行かないという事か。クソが。
と、言う訳で、残りのポイントは出来るだけ今世を楽に生きられる様に地力を上げる事に努める事にしたのである。なので必要の無いスキルにはポイントは振らない。そんな余裕は無いのだ。
そして今回の肝、ナビィを始めとするシステム面での向上の為に”NIS””メニュー”の二つをそれぞれ千ポイント注ぎ込んでスキルアップしたのだ。この二つはボクの根幹を成すスキルと言う事も有って、カンストは再優先事項に位置付けている。今回このスキル二つのレベルを上げた事に拠り受けた恩恵が凄かった。
”NIS”スキルがレベル3になる事で、まずナビィの禁則事項が緩和された。今では全体の60%まで話せるようになったらしい。何の全体かは知らないが、これまでの様に定形アナウンスでお断りする事が減るのだろう。捗る。他にはミニマップの表示範囲が100メートルまで拡張されるだとか、細々した全体の機能向上が有るのだとか。そして、驚く事に新たなスキル”キャラクタークリエイト”も手に入った。”
思えばナビィの話し方やなんかはボクの前世の記憶や経験から作られた物だと言う。始めの頃に肯定されてしまった様に、ボクの中ではナビィにはすっかり某ヒューマノイドなんたらかんたらのイメージが定着してしまっている。今までは味気の無い
”キャラクタークリエイト”で出来る事を増やしたくて、取得した側からポイントを振ってレベルを2まで上げておいた。どうやらアバター制作において多種族が選択出来るようになったらしい。余談だが、諸々を弾にして”射出”で試した際に獲得したスキル同様、”キャラクタークリエイト”も入手して直ぐに使用可能だった。普通は最低100時間経過しないとアンロックされないのだが、こう言う仕様のスキルはこれからもちょくちょく出てくるのだろうか。
最後に”メニュー”の恩恵だが、こちらも驚いた。
レベルアップした途端、”クリエイト機能”がメニューに表示されるようになったのだ。所謂サンドボックスゲームなどによくある、材料さえ揃っていればメニューからボタン一つで即座にアイテムを作り出せる、あれだ。これは例えでは無く、どうやら今回発現したクリエイト機能も、例に漏れず同様のシステムらしかった。
と言うのも、試しに開いたクリエイト画面には既に手持ちのアイテムから作れるアイテムの候補一覧が表示されていたのだ。試しに、と候補一覧の中に有ったスタンダードな”Tシャツ”をタップして見ると更に制作するアイテムのプレビュー画面が表示された。なにやら色々と弄れる箇所が散見されたが、一先ずは一際大きな”制作開始”との表示を選択すると、一瞬で完成し即座に”無限収納”内に送られた。恐る恐る取り出して見ると収納していた布で作られたとわかる、現代的なLサイズの薄汚れたTシャツが姿を表したのだった。ご丁寧にタグまで付いている。どうやって書いたんだこれ?
Tシャツを仕舞って再び一覧に目を向けると、ログハウスが目に入った。え、作れるのこれ?ま?タップしてみると先程と同じ様にプレビュー画面が表示されたが、先程と違って”製作開始”の表示が薄暗くなっていた。画面を良く見ると、端の方には必要な材料の一覧が表示されていて、その殆どが薄赤くなっている。隅の方には数字が書いてあるので、恐らく材料が足りていないのだろう。どこかほっとしつつメニューを閉じた。……いや、材料が有ったら作れるって事じゃん……。
このクリエイト機能は単体のスキルでは無いが、もしかしたらこれが一番のチートなのでは無いだろうか。
そんな事を考えている内に朝食も終えて、多幸感に包まれている。自身の大幅強化もそうだが、やはり味や満腹感は潤いになっていた。昨日は夜どころか昼すら食べていなかったので、尚の事堪らない。そんな一時の幸せに浸りながらも、そう言えば今日は冒険者二人がお使いから戻る日だったなと思い出す。朝には着くと言っていたが、そんな気配も無い。
試しにワールドマップを開いて確認して見たがどこにも見当たら無い。まだ森に着いてすら居ないのか、何か有ったのだろうかと不吉な考えが過った時、西側のアルヴィエールへの入り口から光点が幾つか入って来た。表示されている名前からリリアナ達で有る事が分かる。他に二つ、別の光点も有るがそちらはルーリエの使役する人形の物だった。購入した筈の馬が見当たらないのだが、何か手違いでも有ったのだろうか?
食後にはナビィの新しいアバターをキャラメイクするつもりだったのだが、後ほんの数時間で忙しくなりそうだ。ナビィのアバターは腰を据えて作りたいので後回しにしようと思う。比較的ゆっくり時間が取れるだろう夕食後にでも持ち越しだ。冒険者達が戻ってくるまで子供達と一緒に素振りでもして待つとしよう。
結局彼女らが戻ってきたのはそれから三時間足らず経った頃だった。現在の時刻は午前11時を過ぎた辺り。ボク達は訓練を一旦中断して昼食の準備を始めようと川を渡った所だった。
「や、やっと着いたです……。」
「流石にこの距離の歩きは堪えるな……。」
後ろに木偶人形を二体従えてぐちぐちと歩いてくる二人を見つけて、ボクは再び川を飛び越えて彼女達を出迎える。
「お疲れ。」
「ああ、シロ殿。労い痛み入ります。」
「あなたが余計な買い物押し付けるから帰りが大変だったです。」
「すまんね。」
実は彼女達が森を出る際、必要物資の買い出しを頼んでいたのである。木偶人形が背負っているリュックサックの様な大きな川袋の中身がそれなのだろう。彼女らに頼んだ物とは、主に子供達の生活用品だ。
まずはこの森では不足しがちな野菜類。木の実や果物ではどうしても補えない栄養を補給するのに、以前からどうにか出来ないかと思っていたのだが、良い機会なので今回は二三日分の雑多な野菜をお願いしていた。中身はお任せだ。ボクの”無限収納”に入れていれば腐る事もないのでちまちまと消費しようと思う。本当は畑でも作れれば良いんだろうがボクには大した知識はないし、それより子供達に力を付ける事を優先したので後回しだ。
他にはユーライカ以外のまともな靴や普段着用の服を数着。サイズは事前に測って貰ったので、それに合わせて簡単な物を見繕って貰った。それでも靴なんかは今履いている物よりはましだろうと思う。ボクも靴の大事さは身に沁みているので、子供達にはまともな物を履いて貰いたい。服もそうだ。ずっと今と同じ格好では着回しも出来ない。普段ベースで着る用の楽な物を与えたかったのだ。その他減って来た一部香辛料や細々した物、そして訓練用の重さの有る木剣を人数分買って来て貰った。他にも防具やサバイバル用品なんかもあれば欲しかったが、流石に持ちきれぬとNGが出たので今回は保留だ。その内子供達自身が森を出て買い出しに行ける日が来るかも知れ無い。その日の為にも訓練に精を出させば。
因みにこれらを買う為のお金だが、奴隷商の馬車にそこそこ乗せてあったのと、ダンジョン前の広場で回収したものが手付かずで残っていたのでそれを使わせて貰ったのだ。正直この世界の金について殆ど知らないのだが、まとめて渡した時のリリアナ達の表情を見ると、そこそこの大金だった様だ。今度ちゃんと勉強しないとなぁ。
例を言いつつそれらの入った布袋を”無限収納”に収納して、ジト目のルーリエの「ほんと、馬鹿らしい能力です……。」と言う恨み言を聞き流しながら、先程からの疑問を口に出した。
「で、馬は?」
「ああ。昨日泊まった村に置いてきたよ。」
「ん?なんで?」
「だって、ここに連れて来れないじゃないですか。」
「ここは殆ど砂利だから体勢が崩れやすい。それに馬を繋ぐ場所もないしな。だが一番の問題は、この森を馬連れで入って無事でいられるのか、と言う事だな。」
「なるほど確かに。」
「第一、あなたのような得体の知れない魔獣と同じ場所に置かれるグレートフットホースが可愛そうです。せっかく買った馬が逃げ出しては適わないですし。」
「こら、ルーリエっ。」
ぷぷぷ、と言いた気な顔で挑発してくるルーリエはムカつくが、言ってる事は理解出来るので反論出来無い。
しかし盲点だったな。確かにある程度の広さは有るにしてもほぼ砂利や岩、水しか無い。一歩入れば魔の森だ。子供達だって設置した荷馬車の中で寝起きをしているのだ。なまじヒトの暮らせる環境ではない。森を少し開拓する事も視野に入れるべきだろうか。でも木を切り倒すには斧を使う必要が有るだろうし、このアバターの身体では筋力不足ではなかろうか。本体では上手く農具を扱えるだろうか……いや、気を切らなくても、”操土”を使えば何とかなるか……?
「ユーラリエに戻る日に馬を回収してトンネル手前で荷馬車を設置、遺体を積み込む手順でお願いしたいのだが、構わないだろうか?設置する荷台はあれで良い。」
そう言って、伸びたリリアナの指は川を超えて子供達が寝泊まりしている荷台、その側のずれた所にもう一台置いてある荷台を指していた。あれは彼女らの滞在が決まった日にボクが設置した物だ。元はリリアナのパーティの所有物だった物で、リリアナに出会った後回収した物の一つである。今では彼女らのここでの寝床になっている。
「構へんで。それでいつ出発するつもりなん?」
「うむ……。ルーリエの魔術指南も殆ど手を付けていないだろう?それを加味して二三日後くらいではどうだろう。」
そう言ってリリアナはルーリエに話を振る。
「そうですね……流石に短期間過ぎるので、呪文習得まではやらず、まずは体内魔力の操作から始めればどうです?やり方を教えるくらいなら丸二日もあれば大丈夫だと思うですが。」
「私に魔術の話はわからないよ。それに私はファイアボールくらいは使えるが、そんな訓練をした覚えはないぞ?」
「リリアナは”闘気”を使うですから、感覚的な所は飛ばしたんだと思うです。」
「ああ、なるほど。」
何の話かちっともついて行けないが、一先ず出発は明日から三日後に決まった様だ。魔力操作がどうのと聞こえたのでボクも混ぜて貰おう。習得出来たら”火球”や”水球”を使いこなせる様になるかも知れないもんね。
「ともかく、疲れたです。休みたいです。」
「確かにな……。見た所昼食の準備をしているようだから、頂いたら今日はもう休ませて貰おうか。」
「賛成です。お腹へったです。」
「んじゃ行こか。」
彼女らはその後、昼食を食べ終えた後は身体を引きずる様にしながら荷台へ入って行き、寝てしまった様だ。相当疲れていたんだな。
ボクはこの後子供達に今回調達してきて貰った物資を配ってから、先程思いついた農具を使わない開拓方法を試してみようかと考えている。上手く行けば使えるスペースが増える上にクリエイト機能で使う材料まで手に入るのだ。更に上手く行けば、子供達の住環境も向上させられるかも知れない。不思議とやる気が湧いてくるのを感じた。
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