0-16.リベンジ


 思念操作で見つけた光点の詳細を開き、種族名が表示されている事で以前遭遇した個体であると確認したので、取り敢えず”マーカー”スキルでマーキングしておく。少し近づいてもう一度”探査”すると、残りの二匹も確認出来たので合わせてマーキングだ。奴らが未マッピングの場所に移動してもマーカーが表示されているので、別のマップに移動し無い限り見失う事は無くなった訳だ。


――ん?近くに別の光点も有るな。


 四つとも光点が赤いので、敵対状態なのだろう。敵が近くにいるのか?と思ったので、再度少し近づいて”探査”を繰り返すが奴らの周辺に他の魔獣の光点は見え無い。という事は、最後の光点が別の魔獣で、狼魔獣達と戦っているのだろうか。


 奴らが目視出来るギリギリの位置まで移動する。現在は陽が傾き、木々の隙間からオレンジ色の木漏れ日が落ちている。目にかかると一瞬強い光に眩んでしまうのが普通だが、”視界調整”スキルのお陰でそれも無い。便利。

 この辺りは起伏の激しい地形で、ベース付近のカラッとした空気とは違い、湿気を含んだ空気に満ちている。脚に敷かれた腐葉土の様な地面も湿っている。お陰で足音も控えめに収まるので大変結構。

 比較的小高い所から、木々の合間に茶色の狼魔獣達が別の魔獣を追い立ててるのが見えた。


――うっわ何あれ、アナコンダ?


 狼達が戦っているのは、鼠色の鱗を纏った、大人の人間二人分くらいの長さで丸太のような太さの大蛇だった。二本の鋭く下向きの牙で威嚇する口は、豚くらいなら難なく入ってしまいそうな程大きかった。鑑定した結果、名前は業深い毒蛇シンフルバイパーと言うらしい事がわかった。レベルは30もある。高すぎません?ボクまだレベル3ですけど……。ステータスの数値自体はボクと似たり寄ったりなので、ボクの異常性がよく分かる。将来が楽しみだ。


 見る限り業深い毒蛇シンフルバイパーはふらふらで、”鑑定”スキルを手に入れてからデフォルトで表示されているHPバーも危険水域で有る事を表しているので、狼達の方が優勢のようだ。群れの強さと言うものなのだろう。改めて気を引き締める。

 そのまま奴らの視界に入ら無いように、木々の隙間や高低差を利用しつつゆっくりと前進する。大分近づいたが、戦闘に集中している狼達には気付かれてい無いようだ。右奥の小高い所でアルヴィエール雷狼アルヴィエールライホーンウルフが戦闘を見下ろしている。奴は手を出さ無いのか?と思ったが、蛇の身体には爪傷以外にも焦げたような痕があるようで、例の雷攻撃を受けたのだと推察出来た。強さの割にヘロヘロになっているのはそういう事なのだろう。ちなみに狼達のレベルは灰色が36、茶色がそれぞれ25と23だ。茶色のアルヴィエール狼アルヴィエールウルフは二体とも半分ほどHPが削れている。ギリギリの攻防が続いているのだろう。


 鑑定結果を確認している内に、どうやら決着がついたようだ。レベル23のアルヴィエール狼が業深い毒蛇の喉元に喰らいつき、それが決め手となってHPが0になった業深い毒蛇はぐたりと頭尾を地面に横たえていた。

 格上への勝利に打ち震える二体を残して、アルヴィエール雷狼は立ち去るのだろう、身体を翻した。


 殺るなら今だ。


 比較的柔らかい地面に両腕両脚の爪を深く食い込ませ、体制を低くしたまま勢いをつけて駆け出す。たっぷり五歩程跳ぶように地面を蹴り、意趣返しだ、とばかりにレベルの高い方のアルヴィエール狼の横っ面へ躍り出る。十分な勢いが付いた右腕を叩き込む。


「ぎゃっ!?」


 自慢の釣り針のような鋭い鉤爪が毛皮を下方向から切り裂き、肉を裂き、骨まで砕いて内臓の一部をも切り裂く。

 予想外の痛みと衝撃に情け無い声を上げたアルヴィエール狼が、遠心力に支配された肢体を振り回し、何やらかんやら撒き散らしながら、不運にも近くに有った樹木へぶつかってぐちゃりだかぼきりだか音を立てて、落ちる。どうやらもう息はしてい無い。

 視界の端の方でアルヴィエール雷狼の角が光っているのが見えたが無視して、突然の奇襲に尻尾と鼻先をこちらへ向けたまま固まっているもう一匹へ飛びかかった。

 ボクの爪が到達する前に気を取り戻したアルヴィエール狼は咄嗟に後ろへ飛び退く。あの時の自分を見ているような不思議な感覚に自嘲しつつも、地面を一蹴りする事で難なく追いつく。


――ホォン……!


 以前より速くなっている眼の前の敵に驚愕しているのか、未だ地面に到達出来無い自身に焦っているのか見開いた目をしているが、構わず右腕を奴の腹へと伸ばす。毛皮に触れる手前でスキルを放つ。


――射出ショットォ!!


 空気を突き破り発射された直径25センチ程の鋭角に、いとも容易く貫かれたアルヴィエール狼に抵抗出来ようはずもなく、衝撃で少し飛んでから、逆から突き出た先端を地面に突き刺す頃には絶命していた。

 ふぅ、ここまではイメージ通りやれた。問題は――。


――やっべ!


 着地して次で最後だ、と振り返る最中さなか、危機感が総動員したのを感じ本能のままに飛び退いた。

 途端、その場にずどん!と強烈な音と光が発生し、否、飛来した。落ちた後もばりばりと音を立て、光と共に辺りの草木を蹂躙していく。


「ぐぁう!?」


 間一髪直撃は避ける事が出来たが、落ちた雷がその場から更に稲妻を生み出し暴れ回るなんて誰が想像出来ようか。生み出された数本の内一本の地を走る稲妻がボクの脇腹を通り過ぎ、焼けるような全身への痛みに悶える。地面を二、三度転がる内に痛みが収まってくる。


《”雷耐性”スキルを獲得。》

――そいつぁどうも!


 新スキル獲得も程々にその場が逃げ出す。ずどん!とまたも雷が落ち、再度地面で数本の稲妻が走る。今度は当たらずに済んだが、こんな事を続けられたら身が持た無い。HPが一割ほど削れているのを視界の端で確認しつつ、未だ離れた所で再充電しているアルヴィエール雷狼に向かって”角射出”を三発撃つ。

 放たれた三本の角はそれぞれ手前の地面や脇の木々に刺さって止まる。実はこれ、発射口が手首の下側に付いているので狙いにくいのだ。先の練習中も中々的に当たらなかったので、暫くは近距離専用になる事も覚悟していた。狙撃には向か無いが近距離での威力は眼を見張るものが有る。今放った三発も案の定目標には掠りもしなかったが、警戒したアルヴィエール雷狼が充電を止めその場から飛び退いたので結果オーライだ。何回かは牽制に使えるかも。


 充電が止まったのを好機と見て、アルヴィエール雷狼に向かって駆け出す。素早さは既に150、この巨躯には似合わ無い程俊敏だ。

 直ぐにアルヴィエール雷狼へ斬りかかるが、体制を低くしすぎたせいか頭上を飛び越えられてしまった。ちゃっかり通りすがりに背中を引っ掻いていきやがった。痛い。

 体制を立て直して、爪を構えて振り返ると、アルヴィエール雷狼が明後日の方向へ駆け出していた。逃げる気か?


――んのヤロウ!誰が逃がすか!


 追い駆けがてら三つの肢体を回収しておく。貧乏性かね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る