第34話 黄色い空の上で、〈空〉&〈山〉VS〈星〉

 アメツチデバイス〈山〉の背部には汎用大型飛行ユニットが取り付けられていた。

 警察や工事現場などで採用されているものだった。

「……〈空〉ほど優雅に飛べはしないが……お前を捕まえるのには十分すぎる装備だ」

「そりゃどうも、死にに来たかよ?」

 黄空と青山に挟まれて尚、赤星は落ち着き払っていた。

 ノイズ音。黄空の耳に通信が入る。

『剣ヶ峰です。黄空さん、青山が装着している飛行ユニットの稼働時間はあまり長くありません。どうか短期決戦を』

 黄空は青山を見つめて小さく頷いた。

 青山の剣の構えは堂々たるものだった。

 とはいえ足場のない空の上で剣道の動きを出来るかは疑問ではあった。

「黄空! 姿勢制御のために……先だってのように〈空〉からのフィードバックがほしい!」

 青山が叫んだ。

 黄空ひたきは頷いた。

 

 青山春来が剣を振りかぶった。

 黄空ひたきは叫んだ。

「〈川〉!」

 冷却剤が両手からほとばしる。

 赤星従後は忌ま忌ましげに表情を歪めながら、身をよじった。

 冷却剤に紛れて潜ませたケーブル一本が青山に飛んだ。

 青山が片手でその先端を受け取る。

 そしてアメツチデバイス〈山〉にアメツチデバイス〈空〉のケーブルが接続された。

 これで多少は〈山〉に接続された飛行ユニットの時間が長持ちすることを黄空は祈った。


 青山が剣を横に払う。

 赤星が身をよじる。

 剣をかわす。

 黄空ひたきはケーブルを引く。

 青山が前に出る。

 剣が赤星をかすめる。

「ちっ!」

 赤星従後は両腕を広げて手の平を黄空と青山に向けた。

 光弾の発射。

「上昇!」

 黄空ひたきは避けることを選んだ。

 青山もそれに引っ張られて空に飛ぶ。

 光弾は誰も居ない方向へと飛んでいった。

 

 赤星従後は頭上の二人に両手を向ける。

 黄空は見下ろしながら避ける方向を考える。

 青山春来が剣を構える。

 上から下へ振り下ろす。

 光弾の発射と剣の接触は同時であった。

 剣が光に弾け飛ぶ。

「〈峰〉!」

 黄空は叫ぶ。

 剣がふた振り転送される。

 黄空は一本を赤星に、もう一本を青山に投げた。

 青山は器用にそれをキャッチした。

 赤星に向かった剣は光弾に弾かれ燃え尽きた。

 赤星従後は光弾発射の勢いで後ろにのけぞった。

 赤い足が二人を向く。

 赤い両足の先からは光弾が見える。

「待機!」

 青山が指示を出す。

 狙いの定まらない光弾は空へと飛んでいった。

 光弾の反発で赤星従後は少しだけ下へと落下した。


 彼我の距離が生まれる。

「黄空」

「はい」

「私も落下する」

「……了解」

 青山は飛行ユニットの出力を下げた。

 黄空はケーブルを緩めてそれを補佐する。

 青山は剣を構えて赤星従後に空から突っ込んだ。


「…………」

 赤星従後の顔が歪む。

 光弾が青山に集中される。

「〈川〉!」

 青山の斜めに黄空は向かう。

 青山と赤星の間に冷却剤が飛ぶ。

 光弾は勢いをそがれる。

「防御装甲一点展開」

 青山が静かに呟いた。

 小型の防御装甲がアメツチデバイス〈山〉の肩から展開される。

 勢いのそがれた光弾には一枚で十分だった。

 青山の剣が、赤星に届く。

 赤星は再び身をよじった。

 肩。

 赤星従後の左肩を青山春来は突いた。

「ぐ……」

 赤星従後はバランスを崩す。

 アメツチデバイスの欠片が空を舞う。

 黄空ひたきはそこに突進した。


 風を切る。


 行為は落下に等しいが腰部が火を噴く。

 黄空の動きを助ける。

 バランスを崩した赤星従後に手を伸ばす。

 赤星従後は右手を空に掲げた。

「回避!」


 斜めから突っ込んできた黄空が障壁になったのだろう。

 青山春来にそれは見えなかった。


 黄空の避けた光弾でケーブルが焼き切れた。


 青山春来は空中姿勢制御のパフォーマンスが格段に低下したのを感じた。

「……それでも……ここで……」

 赤星従後を捕らえられるのなら、青山春来は呟いた。


 黄空ひたきの伸ばす手を、赤星従後はただ乱暴に振り払った。


 振り払う勢いで、赤星は上を向く。

 胸部に大きな光があった。

全発射フルバースト!」

全装甲フルガード!」

 青山はそれを投げた。

 黄空は身を縮めた。

 黄空の横を防御装甲が勢いをつけて落下する。


 大きな音がする。

 防御装甲の隙間から光が漏れる。

 めちゃくちゃな熱量が防御装甲を焼き尽くす。

 黄空ひたきを青山春来はひっつかんだ。


 空を舞う。

 青山が、投げた。

 黄空を投げた。

 防御装甲が弾け飛ぶ。

 それが青山に当たる。

 

 ノイズ音。剣ヶ峰からの通信が入る。

『飛行ユニットの活動時間、超過! 青サン!』

 

 青山春来はバランスを崩して落下していった。

「青山さん!」

 黄空ひたきの伸ばした手はそれに届かない。

 

「……青山さん」

 呆然と空から下を見下ろした黄空ひたきを赤星従後は逃さない。

 光弾が跳んでくる。

 直前の全発射フルバーストの影響でその熱量は低い。

『防御装甲自動展開』

 アメツチデバイス〈空〉の機械的な声がする。

 光弾を防御装甲が弾く。

「集中……するんだ」

 何もそのまま落下したとは限らない。

 目の前の敵に、赤星従後に集中しろ。

 黄空ひたきは赤星従後を見た。

 赤星従後は構えていない。

 アメツチデバイス〈星〉から煙が上がっている。

「……剣で突いた。損傷がある」

 一矢を報いている。

 勝機はある。

 黄空ひたきは全身に緊張をみなぎらせた。

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