第20話 燃える町、平穏へ

 ふたりはその後、火災の鎮火の報を受けて通常営業に戻ったショッピングモールで買い物を再開した。

「ええっと何から何まで買ったっけ……食器系、とスリッパに髪留めか」

「服の替えが欲しいところですね」

「必要だね、服」

 ふたりはファッション区画へと足を向けた。

「……いっぱいあるなあ」

 元いろははまず店の数に圧倒された。

「……いっぱいあるなあ」

 そして服の数にも圧倒された。

「……選べません」

「そうだねえ」

 自分は初めて買い物に来たときどういう風に服を選んだだろうか。

 黄空ひたきは思い出せなかった。

「……ひたきさんのおすすめのブランドとかあります?」

「行きつけのお店なら何軒か。とりあえずそこを周りながら気になったところに入ろうか」

「そうしましょう」

 黄空の気に入りの店の商品はシンプルなデザインのアクティブなスタイルが多い。

 どこかふんわりとしたイメージのあるいろはには似合わないかもしれない。

 黄空はそう思いながらも一つの指針として自分の行きつけの店にいろはを連れ回した。

 案の定、黄空行きつけの店にいろはがピンとくるような服はなかった。

 それでも移動の途中でいろはは気に入った服を何着か見つけることが出来た。


 黄空のイメージ通りのふんわりとしたお洋服。

 ロングスカートに飾りのついたブラウスを何着か。それが元いろはの選択だった。

「ひたきさんは買わないんですか?」

「うーん。だいたい間に合ってるけど……まああれでも買うか」

 いろははベルトコンベアに送られる自分の服を見送りながら黄空に訊ねた。

 黄空は行きつけの店に戻りながら、その服を選んだ。

 動きやすいパンツを一着、それが黄空ひたきの選択だった。


「……こんなものかな? 買い物は」

「必要なものはそうですね。黄空さんは他に趣味のものとかはあるのですか?」

「趣味? まああるにはあるけど……行く?」

「興味があります」

 真っ直ぐないろはの表情に黄空はうなずいた。

 いつもこのショッピングモールにきたときに使う店に向かった。


 そこは書店だった。

 今の時代、電子書籍がどこも当たり前の時代に、あえて紙の書籍を売っている店。

 前時代的で、とてもコストが悪くて、紙の書籍では出ない本もごまんとある。

 それでも黄空は紙の本が好きだ。

 何故ならそれこそが、黄空にとっての贈り物だったから。

「……私にとって、本は君にとってのアメツチデバイスみたいなものだ」

「え?」

「……両親が私に遺したもの。君に貸している部屋に置いてある本の半分は自分で買ったものだけど、半分は両親のくれたものなんだ」

 黄空ひたきがそれを誰かに話すのは初めてのことだった。

 黄空はどうしてもいろはにそのことを伝えておきたかった。

「……贈り物」

「だから私はね、大切にしたいし、取り戻したい。君の手に、アメツチデバイス〈星〉を。そう傲慢にも願っているのが黄空ひたきなんだ」

 黄空ひたきはそう言い切った。

 元いろは戸惑った。

 しばらく黙り込んで、そして口を開いた。

「……紙の本は私も好きです」

 元いろはそう答えた。

「キューブヒルズの研究所はどこも閉鎖的ですが、ごくたまに見学を受け入れることがあります。私その機会に幼い頃に見たんです。ガラスケースに収められた地球時代の……母星の書籍。古ぼけて、直接息を吹きかけたら崩れるほどのその本。あれを見たとき私は自分たちの歴史を感じました」

「良い体験だね」

 黄空ひたきはそう言って微笑んだ。

「ええ、今、改めてそう思いました。だって黄空さんと好きなものを共有できたから」

 いろは微笑んだ。今日一番の笑顔だった。

「……そっか」

 黄空も微笑み、そして本を選ぶために書店へと足を踏み入れた。

 ふたりはただ黙々と本を見た。

 思い思いの本を手に取り、ふたりは会計へと並ぶ。


 それがふたりの買い物の締めだった。

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