第17話 燃える町、共闘
黄空ひたきがその火災現場に飛び込んでしまったのはただの焦燥感だった。
青山春来ほどの観察眼も経験も持たない彼女はその炎を赤い男によるものではないなどと考えもしなかった。
消防隊の活動を眼下に眺めながら黄空ひたきの気は逸った。
そしてアメツチデバイスの機能の一つが工事現場内に生体反応を発見した。
黄空ひたきは赤い男を探そうと一も二もなく工事現場に飛び込んでいた。
元いろはが親から託されたアメツチデバイス〈星〉。
それをいろはの手に取り戻してやりたい。
黄空ひたきはそう考えていた。
工事現場の中は炎と煙が広がっていたが、アメツチデバイスはその環境下でも活動を可能としていた。
「アメツチデバイス……どこまでの強度があるのか……とりあえず火災は赤い男の光弾ほどじゃないってことかな……というかこれ通信機能とかついてないのかな」
空中を滑りながら黄空はいろはに連絡を取りたくなった。
戻ったら通信機能があるのか訊いておかなければいけない。
そのためには必ず戻らなければいけない。
黄空ひたきがそう覚悟を決めたその時、アメツチデバイスがアラート音を鳴らした。
『高熱反応を検知。回避推奨。回避推奨』
横方向から炎の塊が黄空に向かって投げつけられた。
「旋回!」
音声コマンドと身体の動きでアメツチデバイス〈空〉はその飛行能力を発揮する。
炎の塊は黄空の居た空中をすり抜け、工事現場の壁に激突した。
派手な揺れと音を観測したがそこには壁が崩れるほどの熱量はない。
「……赤い男じゃ、ない?」
黄空はそこでようやくその可能性に気付いた。
炎が飛んできた方向は暗く、何があるのか分からない。
しかしアメツチデバイスは生体反応をそちらから検知していた。
黄空ひたきはどう動くべきか、考えあぐねた。
「イエロー!」
その声は突如として背後から黄空ひたきに投げかけられた。
聞き覚えのある声だった。
黄空ひたきは振り返る。
工事現場の仮骨組みの上に騎乗型警邏ロボが鎮座していた。
そしてその上に人が居た。
見覚えのある人間だった。
青山。
あの日の宇宙港で黄空といろはを守ろうとしてくれた捜査官だった。
退院できて職場にも復帰できているらしい。
それは何よりであった。
ここにたどり着いたのは先ほどの炎の衝突を聞きつけてのことだろう。
しかしこの状況には問題がある。
自分の正体、ひいてはアメツチデバイスの存在が警察に露見してしまう危惧があった。
パワードスーツの顔面の形状はフルフェイス型。あちらに顔は見えないはずだ。
声はどうだろう。記憶されているかも知れないし、記録をされるかも知れない。
なるべくしゃべらない方が賢明だろう。
黄空ひたきはそう判断した。
「君はレッドの仲間か!」
青山は声を張り上げてそう問いかけた。
黄空は一分も迷わずしっかりと首を横に振った。
あの男と一緒にだけはされたくはなかった。
「よし、信じよう。炎が飛んでくるのを見た。何かが居るのは間違いない。確保に協力願えるか!」
黄空は今度は首を縦に頷いた。
街の危機にあらがえるかもしれない力をいろはから託されている。
自分に出来る限りのことはしたかった。
「施設内の地図はこちらが確保している。案内はできる。同道してくれ」
黄空の返事を待たずに、青山は騎乗型警邏ロボを走らせた。
こちらへの信頼が見て取れる行動に黄空は戸惑いながらも、それに続いた。
自分が怪しいのは百も承知だった。だからこうまですぐ信用してくれるとは思わなかった。
広域捜査官を務める青山は少なくとも愚かな人間ではないだろう。
もちろん黄空も青山を騙すつもりなどない。
決断力が猜疑心に勝った。そういうことなのだろうか。
炎を操る何者かは、こちらの接近に気がついたのか炎が再び黄空と青山の方に向かって放り投げられる。
しかしそれは狙いが定まらず二人の間をすり抜けた。
黄空は青山を専攻させていいか迷う。
アメツチデバイス〈空〉の機動力なら青山一人を抱えて飛ぶことができるのは宇宙港で実践済みだ。
しかしそれほど青山に接近するのは今度は正体を晒す危険がある。
黄空は迷いながら決断をすることなく道を行った。
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