第5話
『金髪が似合うきれいなあの子』
『あの子は死に際に見えたあの色がお好き』
『最後にきれいに見えた色だから』
あの子?あの子って誰?最後に見えた色って……。
『ほらほら、はやくしないとかまれるよ』
待って!ちょっと待っ……。
「さっさと起きろこっのバカ女!」
「はいぃ!って、あれ?」
条件反射で起き上がり、何事かと目を動かす。いるのは先輩、ただ一人。
「シャドウ先輩、ちっちゃい女の子、いませんでしたか?」
「は?いないけど」
何言ってんだ、先輩は冷めた目で見てくるがそんなの気にしない。先輩以外誰もいないとしたら、あの声は私にしか"聞こえていない"。さっきの言葉は鬼に関するヒントだろうか。死に際に見えた色は死に方によるだろうから後回しだ。鬼は死んでいるという恐ろしい事実は、ないことを願う。後は『はやくしないとかまれるよ』だが、カマレル、かまれる、噛まれる……。
「ガラケーって、何色がありますか?」
「青と黄色と赤だな」
何の疑問も持たず答えてくれた先輩に思ってもない言葉で褒め称えれば、調子に乗った先輩はためらうことなく私が言ったとおりの色のガラケーを箱から取り出す。流石先輩、扱いやすさナンバーワンだ。取り出されたガラケーはどこも変わったところもなく、至って普通の携帯だ。何が起こってもおかしくないこの空間。先輩と固まって身構えていると、さっきよりも控えめに着信音がなった。小さく頷くと、先輩も頷き返して電話に出る。
「……何も聞こえない」
「じゃあ私が代わります」
受け取った携帯をヘッドフォンの上から耳に当てると、しばらくノイズ音が聞こえたあと、かすかに女の子の声がしてくる。
『……さん、わたし、メリーさん』
メリーさん、かの有名な羊を飼っているメリーさんだろうか。そうだったら嬉しい。
『わたし、メリーさん。今、学校の門の前にいるの』
あ、これは羊を飼っていないメリーさんだ。車に惹かれて死に、自分の位置情報を電話で伝えてくる方のメリーさんだ。先輩は恐怖に歪んだ私の顔を見て出入り口へと駆け寄り小さくなる。頼りにならない。
『わたし、メリーさん。今、学校の玄関にいるの』
どんどん近づいてくるメリーさんは静止の声を聞いてくれない。
『わたし、メリーさん。今、階段にいるの』
『わたし、メリーさん。今、更衣室の前にいるの』
もう逃げ場はない。経験上、捕まっても死ぬことはないだろうがあんな怖い思いは二度とごめんだ。頭に浮かんだ三日月形に歪む赤い目に体を震わせる。嫌だ、怖い、イヤダ……。
『わたし、メリーさん。今』
「っ、嫌だぁ!」
『あなたの後ろにいるの』
最後に見えた赤は確かにきれいだった。
『第二ゲーム、バットエンド』
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