恋愛戦線

第11話 敵地攻略1

 リカにとって男性とは

『獲って喰うものである。さもなくば敵』

 

 私にとって男性とは

『おしなべて敵である。極稀に喰えるものがある』


 工事途中のオカマとそこそこのブスには、チャンスは向こうからやって来ない。

(アジア圏ではオカマはわりと友好的に扱われるが、欧米では暴力的な嫌がらせに遭うこともあるそう。身を守るためにケンカが強くなってしまったとリカがいっていた)


(私は男社会の技術職、学生時代からパワハラセクハラの標的であった)


 『腐れ外道』の栄えある称号を獲得し、ある程度満足した私はゲーム熱が少し冷めていた。それに、春が近づいて山の中でも地面が凍らない気温になって来ている。つまり、足跡が残りやすいから今までの作戦では上手くいかないのと、ピナからバディとでなければ参加させないと厳命されたのだ。ラニは参加禁止と最初に言われていたが、そもそも待機要員で、私と参戦したのが例外だった。(後から知ったが、彼はゲームメンバーの様子を見ていた。だから私のSOSに素早く対応できたのだ。観察は後にベーチェルと手分けしていたようだった)もちろん、ラニの他に私のバディになる人はいない。

 敏感に私の気持ちを察知し、状況もわかっているラニは私に対する態度が以前と同じように紳士的になった。ガレージに受け身や射撃の練習に来いと言わず、時々オートバイや車(私がラムの鍵を勝手に持ち出した)に乗せてくれる。加えて私がキッチンに居ると、やって来て手伝ったり、料理にアドバイスや注文をすることも。(マオとスパイスについて争って私が仲裁に入る事まで。かなりこだわりが強いタイプだね!)

 リカと2人(マオが試験中だったので、私とラニで何品か作り後は買ってきた惣菜。といっても高級店のもの、場所柄色々ありましたわ)で作った料理を食べながら「ラニって、アンタに気ィあるんとちゃうやろか?」と言い出した。ラニは自分の部屋で食べている。そもそも皆と一緒に飲食する事はあまり無い。他の人達も離れた所で男同士食事中。「はぁ?それは無いんじゃないの?だって相手私だよ!」私は、欧米でいう魅力的な女性の その真逆である。

 「あんなぁ、ラムがな アンタが来てからラニが"そんなに"怖くなくなったって言うててん」私は恋愛話をする気は無かったがリカは続けるつもりだ。「あの男、むっちゃ扱いにくい奴なんやで。でな、ラムが女でも当てがったら少しはマシになるかもーって言うてたんやけど、あれやからなぁ(怖くて近寄る女性は居ない)難しいで」いかにも女好きが考えそうな事だ。「あの男、他人を寄せ付けないしな、余計な事いっこもしゃべらんし」彼はそう易々と自分の心の内を話したりする事はないと思う。

 この頃には、ラニがただの運転手(用心棒)ではないらしいと思っていた。ラムが彼に一目も二目も置いているのはわかっている。「あー、ラムに、伊豆行った後に なるべく一緒にいて普通のことさせてくれって言われたけどね。やっぱコンパニオン的な事を私に期待してたんだ…。バイクの後ろに時々乗っけてくれたの、ラムに言われてたからでしょ?」リカが首を振った。「他人に言われてやるかぁ?あの男が!」まさかと大きな声を出してしまった。「最初っから気ィあったんやて!」それこそまさかと思う。「変わりモンは趣味も変わってるんやろ。それに、アンタも惚れてんやろが!」「私が、ラニに?」「それも最初っから言うたやん!」

 口の悪いリカが、悪趣味 と言わなかった事に疑問を持つ程この時の私は賢くなかった。

 「だからぁ、私の好きな小説とか映画の中の人がリアルに居るんだよ!あんな凄い人がすぐ近くに居て、色々構ってくれるんだよ?嬉しくて浮かれるって」リカがニヤリと笑った。「先週かて、バイクの前の方に乗っけてくれた言うて浮かれてたけどなぁ、それ、」途中で私が遮った「だって運転した事無いからね、景色がまるで違うから、」今度はリカが遮った「抱き抱えられる格好になったんが嬉しかったんやろが!」「だからぁ、それは、あんな凄い人が!」「素直になれー!」

 しばらく言い合いしていたが、疲れてきて席を立った。後片付けを開始した。リカは片付けが嫌いだ。私の耳元でしつこくぶつぶつ言っていたが「手伝わないなら、どっか行けば?」の一言で「素直になれや」と捨てゼリフを吐いて部屋を出た。やれやれ。

 (惚れてる?まさか。浮かれてるだけだ。それに、向こうから見たら、こっちは?気があるワケない。ムリムリ何がどうあれ私はつりあわない。…でもその凄い人が、私に時間を割いてくれたのは事実)これは、お礼をせねば。

 片付けを済ませてリカを探した。「リカ、買い物付き合ってー」




 料理長が「楽しそうなところだったんだなぁ」と言った。「うん。ホントに楽しかったよ。…他に友達も仲間も居なかったから」私は楽しかったエピソードを話す。


 ラニの日本語が上達していくなか、私の英語の語彙は全く増えず、イタリア語の単語が少し増えたが文法なんて未だ解らずの頃。時々自分のオートバイに乗せてくれた。BMWの1100CC(カスタムメイドだったらしい。ラムから譲り受けたと言っていた)。真っ黒で、さらに真っ黒な革上下を着たデカい剣呑な男…。その背中にかじりつくようにタンデムシートに乗った痩せっぽちの私。とても奇異に見えたと思う。

とても珍しいオートバイ、素人目には解らずとも。ガソリンスタンドでは、それに気づいた店員さんが話しかけようとしてきた事が多くあった。が、ラニの姿を見て皆口をつぐんだ。

 また、峠道の展望エリアなどの駐車場では、入って行って停めると、なんだか人が減ったような感じがあったものだ。

 大型なので狭い道では車が追い越し出来ず、ラニも私が乗っているのでスピード出さず。でもガラ悪いし怖いからか、まず煽られることはなかった。

ある時、珍しく煽られたことがあった。命知らずなのが居るなと思って見たら、如何にもな "や"の付く職業の人が乗った ベンツ。さて、彼はどうするのか。

彼は少し飛ばして、道を塞ぐようにバイクを止めて待った。当然、車はバイクの手前に止まり、ベンツから これまた如何にもな人が3人が降りてきた。

 ラニが、フルフェイスのヘルメットのシールドを親指で上げる。すると、やの付く職業の人3人が、すごすごとベンツに戻っていった。


 料理長がお腹を抱えて大笑いした。

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