第3話 訓練?開始2
ラムは10年近く香港と日本を行ったり来たりしていて日本語も堪能だった。イギリスで教育を受けたので英語はもちろんのこと、フランス語も必須科目だったから出来たとの事。
ラニはこの時日本に来たばかりで、中国語(北京語)も勉強し始めであまり話せなかった。英語とフランス語は完璧に出来、他言語もある程度なら可能。ラムと込み入った仕事の話、他の人達には聞かれたくない話をする時にはフランス語を、その他は英語を話していた。
私の方はフランス語はおろか まるで英語出来ない。なけなしの英単語と、趣味で少しずつ勉強していたイタリア語の単語を羅列してなんとかしのいでいた状態だった。「何故か彼の言ってる事は良く解ったんだよね…身振り手振りも上手かったんだと思うけど」料理長は「俺達の前の職場、言葉が通じないやつの方が多いからな…自然と出来るようになるのさ。相手の表情を読み取る事が」と言った。「うん。私もそれは思った。こっちが理解しているのかいないのか、判ってるなって」
荷物のように私を放り投げた男が紳士的に思える程、他の連中の私の扱いは荒かった。リカの友達の私もオカマだと思われていたからだが、その方がいいかもしれないと言われ、私も否定しなかった。悲しいかな リカの方がずっときれいで胸腰もあったので、みんなそう思っていたのだ。(主催者のラムは私の本名職業女性であることを、紹介された時に告げていたので知っていた)
"やたら頑丈そうなヤローども"の中に女1人、それも痩せっぽちで体力腕力なし運動オンチの私が連れてこられたのが どんな意味があるかなんて、この時の私は考えもしなかった。好奇心旺盛で変なところに負けん気が強いので、ただただ楽しくてしようがなかったのだ。
クルーザーは伊豆の辺りのマリーナへと向かっていた。慣れないことをして、海風に吹かれ私は既に疲労困憊。ぐったりしていると、1人 私に近寄って耳元で囁いた。「君、ホントは女性だろう?」サンク(フランス語で5)と呼ばれてる人だった。
驚く気力もなかったが、好奇心が勝った。「どうしてわかったの?」「だって僕お医者さんだもん、骨格で解る。凹凸が少なくても君は女性」(ひとこと余計だぞ!)10月の半ばで皆水着の上にウインドブレーカーなどを羽織っていたが、ウェットスーツを着る時には脱ぐわけだから、そこでわかったとのこと。「ラニも気が付いたみたいだよ。体力腕力無さすぎるし、(君を)持った時に何か変って顔していた。見た目が同じくらいでも、男性と女性じゃ重さが全然違うんだよ。骨と筋肉の量が違う」「別に隠しているわけじゃないし、バレても構わないけど?何が言いたいの?」
「イヤごめん、話が逸れた。君みたいな若い女性が よくあの恐ろしい男と話せると思って。怖くないの?」「怖いわ!しかも言葉も通じないし、ひとこと声をかけるだけでも全勇気振り絞るくらい怖い!日本に来る前は何やってたのかな」サンクは人差し指を立てて、自分の口元に持っていく。「この会では詮索無用だよ。知りたければ本人に直接訊いてごらん。個人的な付き合いの間にはこの会は関知しないから」(いや無理だから。コワすぎ!ってか、言葉通じないし)だが、この短い時間でも推測できる事があった。
私には なかなか治らない悪い癖があある。思ってる事をつい口に出してしまうのだ。この時も、聞こえる距離に人が居るのを忘れ、「…フランス外人部隊かなぁ…」と言ってしまった。
サンクがコーヒーにむせた。吹き出しそうになったのを堪えたのだ。「なんでそんな事知ってるの⁈」他のみんながこちらを向くような大声を出した。心底驚いた様子。慌てて声をひそめ、「…どうしてそう思った?」「いつも背筋をまっすぐにしてるし、靴はピカピカに磨いてるし、さっき着替えた時、脱いだもんとてもキチンと畳んでた。角で手が切れそうなくらい。それから ちらっと見えたけど、身体中キズだらけだった!」「…フランス人には見えないのに一番得意なのフランス語だって言うし、かな?」サンクが後の言葉を継いだ。
(どう考えても軍隊経験者でしょうが⁈二十歳の娘っこでも、バカでもないしモノ知らない訳じゃないし、観察力ない訳じゃないんです)「ふん!アンタも含めてみんな似たようなもんでしょ?」「あの人は警察か公安、あの人はたぶん海上…」「わ、わかった!もうバカにしないからやめて!」「元の人もいるけど、現役の人もいるんだから」「バレてまずい事でもあるの⁈」私は、たたみかけた。「そう言うサンクは現役だね?海?陸?それとも空かしら?」「…君、根に持つタイプだね…そう言う君は軍事マニアか?」まだオタクという表現が一般的なものではなかった時代だった。
「まあ、ただの女の子を連れて来る訳ないよな」「でも体力無しのマニアじゃなぁ…」サンクが呆れたように言った。「アンタらみたいなバケモンと一緒にしないでくれる⁈アンタの所だって武官と文官が居るでしょ。文官の方でアンタの所の空の部に入ろうと思ったけどね、女じゃ求人無くて入れなかったんだから!」
今度は本当に呆れたようで、しばらく口を開けっぱなしにしていたが、「僕もバケモンと一緒にされたくないね、だって僕お医者さんだもん!」(何言ってるんですかね、この陸(おか)の上の人は…)
「そこの2人!いちゃついてないで。マリーナに着くから下船の準備しろ!」たぶん海の上の人の、ベーチェル(ロシア語で風、正しくはV音だが舌噛んじゃうからね、運動中は)と呼ばれる人が言った。(いちゃついてないわ!)
料理長は、今話した中でリカ以外初めて聞く名前があるが、それぞれどれが誰の事なのか尋かなかった。ラムとラニが誰の事なのかは、無論判っている。料理長自身、生粋のフランス人ではないがフランス国籍を持ち、ジャン=クロードという名前も元々の名前ではない。他人の立ち入った事は尋こうとしない。
私も久しぶりに口にした名前で、色々な事を思い出していた。サンクはその時は現役の陸(おか)の上の人(近年のあるアニメじゃ〈緑の人〉って言ってたね)で、会を離れても付き合いがあった。某大学ではない有名大学の医学部を出てから入隊した変り種だったと思う。
口癖は「だって僕お医者さんだもん」
この人こそ軍事マニアで、私が空の部に入ろうとした理由、◯◯◯システム(これはフィクションではないので伏せた。おおっぴらにして良いか判断出来ない)の事を知っていた。後年知り合った元空中の人にこのシステムの事を言ったら、「女性の口から初めて聞いた!」と大変に驚いていた。中の人でもあまり知られてない事だったらしい。
あの会で、現役だった人は皆そうだったが、現職を辞めようか迷っていた。彼には秘密があり、それが苦しくなってきていたからだった。(今で言うと韓流アイドルにいそうなイケメンの細マッチョ。剣道有段者のアスリートでもある。「そこの職場で剣道って珍しいね!」と言うと「だって僕お医者さんだもん」)
ベーチェルは、元 某大学から海の上になった人。当時はまだ予備役があるとかないとか言っていた。「某大学のBはバケモンのB。医者の僕が言うんだから間違いない」というサンクの言葉通りの体力ラスボス級の人。「××かぜ」と言うフネに乗っていたのでベーチェルと呼ばれていたようだった。ベント(イタリア語で風、やはりV音)とも。
男尊女卑という程ではないが、女性があの会に居るのを快く思っていなかったようだ。だけど、頼むと気軽に柔道の練習に付き合ってくれる親切なところもあった。受け身の練習したかったので、上手に投げてくれる彼が有り難かった。
柔道黒帯90Kg級のガチムチ。この人も結構な強面(というか、鬼瓦)で、後から入ってきたメンバーを泣かしていた。後出のゲームでの強敵の1人。
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