じゃあ、ばいばい。
私がどれだけ『貴方』を愛していても、『貴方』はもうどこにもいない。『貴方』は昨日、死んでしまった。
毎日毎日、あの日の夢を見る。私には「ごめんなさい」と繰り返すことしか出来ないのに。もう、何もかも手遅れなのに……。
誰かに押されて飛び込んだ道路。向かって来る車を見た瞬間に私を襲った衝撃。次に見えたのは、血だらけの『貴方』だった。
『貴方』が死んだのは、私のせい。
悪夢のように、戒めのように、あの日の紅色が、あの日の『貴方』が__。
「やめてよ……」
今日、『貴方』のクローンが作られた。目の前が真っ暗になった気がした。『貴方』が嫌ったクローンとして、『アナタ』が生まれてしまったのだから。
『貴方』は人間を、人間の命を軽んじるクローン作りが世界で一番嫌いだった。
“蘇っても、親しかった人間が一番よくわかる筈だよ。「やっぱり違うんだ」って。”
昔、『貴方』が言った言葉。
私、どうすればいいのかなぁ。
久し振りに『貴方』とよく遊んだ川のほとりに来た。『アナタ』に誘われて、ね。
『貴方』のことを思い出したら、少し涙が出てきた。隠そうとしても見つかってしまったみたい。
『アナタ』が慌てたように口を開く。この感じだと、『アナタ』も人に優しくするのが苦手なのね。
「なぜ泣いてるの?」
……やっぱり、『アナタ』は自分の死んだ時の記憶がないんだね。
私が死んだら『アナタ』は気付いて私と同じことを繰り返すかもしれない。
私と同じ苦しみを味わうことにもなると思う。
『貴方』が私を救った意味も、なくなってしまう。
赦して欲しいとは言わない。
分かって欲しいとも思わない。
それでも私は……。
河原にある大きな、私の4倍以上はあるであろう木の上に上る。
懐かしいなぁ。
あの日、ここで『貴方』と約束したこと。
……『私』は、『私』らしく生きられたのかしら。
空を飛ぶようにゆっくりと、川へと身を投げる。
1秒が何分にも感じられて、また『あの日』を思い出した。
あぁ、走馬灯までこれだなんて笑えないわね。
__よかっ、た。君が、無事で__
__ねぇ、お願いが、あるんだ__
__酷な願いだって分かってるんだけど__
落ちながら、無理矢理に笑顔をつくる。
本当に、今思いだしても酷いお願いよ。
__君の、笑った顔が見たいんだ__
あの日無理矢理に笑顔を作った私に呟いた、貴方の最期の言葉が聞こえた気がした。
「大好きよ、
__大好きだよ、
最期にそんな顔で笑わないでよ、ばか。
……じゃあ、ばいばい。
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