第19話

 手帳を取り出し、ページをめくる哲也。

「猿田いわく、地球外の技術らしい。

 情報は以上。後は勝手に想像してくれ。

 まあ、俺の見たことは全部話すがね。

 まず、クローンの入ったカプセルに煙を充満させる。もちろん、成分なんて知らない。

 ただ、この装置で、一日に一年分くらいの成長が見込めるということだ。

 浦島太郎の玉手箱みたいなものかな……。

 当然、新陳代謝が活発になるし、本来かかるはずの負荷もないから、秒刻みで手入れをしたり、刺激を与えたりしなきゃならない。

 そういうプログラムが組まれてるんだ。

 そんな経緯で成長した者に、元の人間の思考回路と記憶を転送させる……」


「いったいどうやって?」

「思念増幅装置というのを使ってた。

 脳内部のデータを鮮明にすることで潜在意識までコピーできるんだってよ」

「その機械、最近壊れなかったか」

「ああ、何度か暴走して止められず、大騒ぎになってたなあ。お前も俺なら、これで大体察しはついたろう」

「まあな。……俺は、クローンか。

 で、最近の生霊やらなにやらはその機械が原因ってわけだ……」


 黙っていられない昇。

「いや、おかしいでしょ。

 だったら、この年齢差は何?

 同い年じゃなくていいの?」

「本来はそうしたかった。

 ただ、72歳にするには製造だけで2か月以上、その後の検証含めると3か月かかる計算だ。余命が持たない」

「20歳ならいいって根拠がわからないけど」

「正味ひと月くらいで、しっかりした体が出来上がる。つまり、その時点で臓器も脳も移植可能だからさ」


「クローンから脳も?」

「逆だよ。

 健康な臓器を抜き取るか、健康な体に自分の脳を埋め込むか」

「げ。気分が悪くなってきた。

 それより、さっき言ってた検証って?」

「クローンにペーストした転送データの確認作業だよ」

「それはどういう方法でやるの?」

「質問ばかりしてないで、少しは自分で考えたらどうだ」

「30年ぶりに現れたと思ったらこれか……。

 え、……まさか。

 そのために現れたのか?

 母さんを利用するために……」


 昇を制する若い哲也。

「俺が和江を利用なんかするわけがない。

 何があったか話してくれ」

 時々訪れる苦痛をこらえて、額に油汗をにじませている元の哲也。

「……ああ。

 和江に確認させると聞いた時は、俺もキレたよ。やっぱり殺すべきかと思った。

 でもな、猿田が言うんだ。俺の怒りや苦しみの原因は、和江との別れにある、とね。

 実験が終われば、金と健康が手に入る。

 それで人生の後半は、元の家族と幸せに暮らせばいい。

 実験中に、和江の反応も確認できるから、今後の対策を練る時間も十分あると……」


「反応を確認する?

 俺達は、ずっと盗撮されてたってことか」

「……いや。

 送信機は、お前の脳に仕込まれてるんだ」

「ああ。俺の見たもの聞いたもの、すべて筒抜けだったわけか……」

 唇をかむ若者。

「すまん」

「あいつ。若いころ更始会に騙されたっていうのに、自分も詐欺師になるつもりかな」

「俺もそう思って、直接言ってやったんだ。けど、騙されてたのは曽倉さんの方ですよ、なんて笑っててさ。

 多少、気にはなったけど、もう俺もうんざりしてたから。聞き返しもしなかったよ」


 手術室から出てきた医師に尋ねる昇。

「母はどうなんですか」

「手術は無事に終わりましたが、極めて厳しい状況です。

 ひとまず、個室で様子を見ましょう」

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