第13話
調理場に立つ二人。
哲也をうながす日田。
「じゃあ、さっそく始めますか。
今回はここにある具材も調理器具も、みんな自由に使って構いません」
「器がでかいですね」
「そうですか。標準サイズの食器だと思いますけど」
「お前……。あ、いえ、心が広いという意味で言ったんです」
「ああ、鈍くてすいません。
そこは大将のご身内ということなので。
どうぞ、遠慮なく……」
「では、お言葉に甘えて。
まず、スープから作ります」
作業に取りかかる哲也。
「手伝いますよ」
「じゃあ、今回は全員で6人ですから、その分量で……」
「はい」
哲也を見ながら不審げに話しかける日田。
「説明してませんけど、スープのとり方は、完全にうちと一緒ですね」
「そうですか。いろんなラーメン屋でバイトしましたけど、どこもこんな感じでしたよ」
「そんなわけありません。
まあ、たまたま同じようなところでバイトしてたんですかね……」
ふてくされた様子の哲也。
「僕、慣れてないんで、ここからは喋らずにやります」
「あ、邪魔してごめんなさい。
じゃあ、俺はスープ見てますよ」
別の作業に移る哲也。
火加減を調整しながらかき混ぜたり、灰汁をとったりして、のんびりスープを見守っている日田。
次第に熱気を帯びる厨房。
腕組みのままぼんやりしている哲也。
ふと思い立つ日田。
「あ、チャーシュー出すの忘れてたんで、そこに出しといてもらっていいですか」
はっと我に返り、冷蔵庫からタッパを一つ取り出す哲也。
「やっぱ、大将じゃないですか」
「え。何……、何ですか」
「どうも怪しいと思ってたんです。
いろんな仕草が大将だから……。
今はそこに立ってる姿もそうですし、冷蔵庫の中を確認もしないで迷わずそのタッパを選んだでしょ。
もう、間違いないですよ」
「いや、ほら、他でバイトしてたから。
大体この辺のこれかなあって……、ね」
「じゃ、それ開けてみてください」
けげんそうな顔でフタを取る哲也。。
「あっ。なんでこのタッパにシナチク入ってんだよ」
「大将がいなくなってから、いろいろ整理してたんですけど、その間に自然と変わっちゃうこともありましてね。
ほら、やっぱり大将じゃないですか」
「あ、じゃあもう言っちゃうけど。
俺だよ、俺。
でも、おかしいと思わないの。
こんな若造になっちゃってさ」
「だって、俺、そういうの知ってますもん。
生まれ変わりでしょ」
「いや、俺、死んでないから。
若返っただけだ……。
そもそも、生まれ変わりなんかあるわけないだろ」
「だったら若返りもないと思いますよ……」
「まあいい。
とにかく今日は、いつもと違った俺を見せてやる」
曽倉家、一家4人が来々軒に到着。
「へえ、ここか。ずいぶんレトロだな」
「先代からって言うから、50年くらいたってるんじゃない」
「老舗のラーメン屋じゃん」
にぎやかな3人とは対照的に、無言で店を見つめる和江。
憂いを帯びた眼差し。
顔ぶれのそろう店内。
カウンター席に家族4人、調理スペースに哲也と日田。
「このメンバーなら、俺も気兼ねなくふるまえるってわけだ」
「気兼ねしてるとこ見たことないけど」
葵が茶化す。
「うるさい。
さて、今日のメニューは、俺のおすすめでいいよな」
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