第7話

 中継画面から変わって、スタジオの女性キャスター。

「本日開かれた、更始研究所による会見の一部をお伝えしました。

 今、発言していたのは同研究所、猿田総務部長です。現在のところ、この方の素性は一切公表されていません。

 ちなみに、所長の仁池博士は、昨年、学会を追放されたばかりで、良くも悪くも話題性のある人物です。

 そして、設立者は言わずと知れた更始こうし会の丸木会長。


 この顔ぶれです。怪しい組織であると報じられたところで致し方ありません。

 しかし一方で、停滞している医療や科学に一石を投じるのではないかと期待する人たちがいるのも事実です。

 まだまだ、闇に包まれている更始研究所。

 いったい真実はどこにあるのでしょう。

 本日は、さまざまな切り口で、コメンテーターの皆さんにお話を伺います」


 キツネにつままれたような顔の昇。

「何だ、最近話題の詐欺グループか。

 連中がかかわってるなら、もしかして若返りも……」

 目を閉じて、思いを巡らす哲也。

「それはわからないけど、あいつがまだ生きていたということは……」

 きょとんとする昇。

「今日のニュースなんだから、当然生きてるだろ。あの男が生きてれば、何なんだ?

 わかるように説明してくれよ」


 重く低い語り口の哲也。

「俺たち家族は、あいつのせいで……」

 その言葉に素っ頓狂な声を上げる和江。

「え。そうなの……。

 道理で聞き覚えのある名前だと思った」

「ああ。俺の部下だった猿田だ。

 俺の最後の記憶は、奴を殺しに行くところまで……」


 慌てて、声を張る昇。

「ストップ、ストップ。

 あの男が家に関わってるとか、殺しに行ったとか……。でも実は生きてたとか。

 まあ、よかったけど……。

 って、違う違う。

 かえって謎が増えてるんだよ」

「いや、おかげでだいぶ思い出してきた。

 ひとまず、その経緯を話そうか」

 リモコンでテレビを消す哲夫。


「まだ俺がここに住んでいた頃。

 同じ会社に猿田もいたんだ。

 一回り下の若手で、入社当時から俺の部下だった。

 5年くらい一緒に働いた頃かな。

 別の部署の同僚から指摘を受けたんだ。

 妙な噂が立ってるから内部調査した方がいいぞ、ってね。

 複数の取引先にリベートを強要して、それを着服してる奴がいるらしい。

 まあ、その程度のことなら、取引先にヒアリングするだけでも、簡単にウラは取れる。

 ほどなく猿田の仕業だと判明したよ……」


 腑に落ちないという表情の昇。

「部下の罪とはいえ、しょせん一社員の不祥事でしょ……。それがどうして、家に関わってくるような事件に発展するわけ?」

 頭の中を整理しつつ、言葉を選ぶ哲也。

「猿田は、元々母親と二人暮らしだった。

 でも当時、その母親が入院してて……」

「家に似てるな」

「うるさい」

 理由は知れたと言わんばかりの昇。

「治療費不足が動機かあ」

「いや、そうじゃない……」


 声を尖らせる昇。

「ええ?じゃあ何なの」

「死を目前にした母親が、更始会にすがったんだよ」

「更始会ってその頃からあったのか。

 必要なのは、そこに渡す金ってこと?」

「ああ。さすがにそんなゆとりはないだろうから。母を思って……かな」


「そこに父さんは同情した、と……」

 はっと顔を上げる哲也。

「お前、今、父さんって言ったな。

 そうか、お前もやっと認めてくれたか」

「ええ?いや、そうじゃなくて……。

 もし、その話が本当なら、その時に俺の父親はどうしたかなって。

 それだけのことだよ」

 うろたえながら否定する昇。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る