第6話
画面には、たくさんのマイクを前にしたカメラ目線の男。
「なぜ生物は進化するんでしょう。
それは、命の火を絶やさないためです。
奇跡的に出現した生命体が、様々に形を変え、能力を得て、なんとか絶滅を逃れてきました。
激変する環境に淘汰されながら、たまたま生き残ったもの達で成り立っているのが今の生態系です。
当然、人類もそこに含まれますが、その特殊性は際立っています。
生きることの不条理さに苦しむ生物など他に存在しませんからね」
皮肉っぽく、にやりと笑って続ける男。
「もしかすると皆さんは、ご自身の悩みが因果や境遇のせいだと思っていませんか。
貧乏な家に生まれたから、病弱だから、事故や事件に巻き込まれたから、あの人がああした、自分がこうした……。
そこに大きな勘違いがあります。
問題は単に遺伝子プログラムのバグに起因するものなんです。
進化を求める遺伝子の狙いは、連綿と続く命の火をつないでいくことのみ。
なのに、どういうわけか、それぞれの個体が心や魂を持つに至りました。
その矛盾から苦しみが生まれたのです。
わかりにくいですか。
言い換えれば、あなたが辛いのは、あなたの個人的な事情に関わらず、ただ、人に生まれてしまったから……。
その事実に尽きるということです。
生きる辛さから逃れるため、先達は手あたり次第に、様々な技術やルールを獲得してきました。政治、経済、科学、医学、宗教、その他諸々。
おかげで、ずいぶん生きやすい世の中にはなりました。
しかし、どれも対症療法ですから、根本的な解決にはなりえません。
では、どうすべきなのか。
自らを新しい存在に変化させるしかないんです。それも、遺伝子に逆らって。
これこそが、新しい進化の形です。
しかし、そこに気づいたところで方法がわからなければどうしようもありません。
ならば我々が責任を持って、皆さんを遺伝子の呪縛から解き放ちましょう。
当研究所のミッションとレゾンデートルはそこにあるのです。
私たちの祖先が命をつないできてくれたのは、現代に生きる私たちのためだった。
そう思うと、あらためて感謝の念を抱かずにはいられませんね。
さて、人類進化といっても具体的にはイメージしにくいでしょうから、重要なキーワードを二つ挙げておきます。
「永遠の命」と「肉体放棄」です。
どちらも夢物語のように聞こえるかもしれませんが、「永遠の命」を手に入れること自体は、現在でも理論上可能です。
ただし、この施術が国に承認され、さらに順番を待つことを考えれば、いかんせん相応の年数は必要となります。
であれば当然、それまでの寿命に不安を持たれる向きもあろうかと思います。
そういう方には、冷凍保存できるサービスなどもご用意してありますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
そして、もうひとつ「肉体の放棄」です。
有り体に言えば、これこそが私どもの目指す究極となります。
もちろんその先には、また次のステップがあることでしょう。が、それは今の我々に想像できるものではありません。
なぜなら、その時にはもう、人類を卒業した新しい何ものかに進化しているからです。
いずれにせよ、周りの人たちが世代交代していくのを、更始会の会員は何百年、何千年と見守り続けることになります。
その覚悟と資金がある方は、ぜひともウェブで詳細をご確認ください」
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