ちょっと大きく書き直しますので その二

☆大きく書き直すにあたって、きゃぴっとしている色を少しだけ大人向けにする。

 読者を戻れなくする為に最悪最凶最低のアイツと事件を説明することになった。


 どこで回収されるかはまだお楽しみ。


 だけどここで山草含めたはらい者の運命――ひいては世界の運命を狂わせたその起源を語ることで息を呑んでもらいたいんだ。


 最初はそのまま使う。

 しかし札の話は実戦と共に言ってもらうことになる。


 「あの」怜さんと一緒に札のお話を聞くよ。「あの」怜さんと聞くという事はそういう事。


 ふふ、お楽しみにして欲しいなぁ。


 * * *


「えー、っつうわけで」

 トッカがコホンと咳払いをしてからかしこまった風に言った。

「まずは『はらい者(仮)』おめでとう」

 にこやかに握手を求めて来るけど、何か素直にその手を握れないんだが。

「その(仮)ってやつ何度も繰り返さないでもらえるかな!?」

「良いじゃんか! 面白いしね」

 そう言ってにひひと笑う夢丸。どうして俺の周りの妖共はこんなにもタチの悪い奴らばかりなんだ。

 もっと可愛いうるうるきゃぴ! みたいなのがいてくれも良いと思う。

「残念ながら僕らにそれは到底不可能ですね」

「夢丸、心を読まないでって常日頃言ってるよね」

「口に出しちゃう方が悪いんじゃない?」

「……え、マジ? 口から出てる?」

「出てない」

 そう言って再びにこり。

 ……!! コノヤロ!!

「くらえ、ジャーマンスープレックスだ!」

「さっき腰骨が逝った奴の台詞とは思えんな」

「ぐああ、腰があああ!」

「ばーか」

 もう一度言うけど、これ、出会ってたったの数十分程度。それなのにこんなに息が合うっていうのはどうしてこうもむかつくものなのだろう。

 どうせなら可愛い女の子と息が合って

『まあっ! 和樹さんったら! いつも私の気持ち分かってくれるなんて……意味はないけどなんか、す・て・き!』

『奇遇だね。君もとってもす・て・きだよ』

『やっだああ、和樹さんったら!』

ってきゃぴきゃぴしたかった。

「おえ」

「だから心を読むな!」

 ――さて。

 これ以上この茶番を続けていると俺のメンタルが崩壊しかねないので、話を本題に移そうと思う。

 ――あの薄暗い話の後。


「まだ……決められないや」


 あれだけの時間で、よく知らない妖のすすめで。

 しかもなんかヤバそうな奴を敵に回さなくちゃいけないとか言われて。

 はーい、やりまーす! と簡単に言えるほど肝の据わっている奴じゃない。

 冒険物語の主人公の心の奮い立たせ方をぜひとも知りたい。それ位には自信がなかった。


『一度選んでしまえばもう戻れない』


『それでもお前ははらい者になれるか?』


 こんなこと言われたって……。

 分からない。

 ――でもトッカの「これが限界なんだ、ギリギリなんだよ!」も頭の隅っこにずっと引っかかってる。

 逃げることはとても簡単だ。その方が絶対安心して幸せに暮らせるのは確か。

 でも俺が逃げたことで痛い目にあう者も現れると考えたらどうなるだろう。

 それは……なんかヤダ。

 でも……。

 世界を一度危機に飲み込んだ奴というのもそれはそれで気になる。

 とりあえずすぐには決められない。

 これが現時点での俺の言い分だった。

 こんなに曖昧でも誰も俺を責めはしなかった。

 そうしてとりあえずは(仮)ということにしておこう、ということでこっぱずかしい名称と『三枚のお札』よろしく山草家に伝わる三枚の紙切れをもらったのだった。

「っていうかこれ何? お札にしては……随分さっぱりしてるんだね」

 お札の上の方にこちゃこちゃとした模様が描かれ、そこから伸びた線が横に二又に分かれ、突き当りで折れ曲がり、そのまま札のふちを彩るように縦に下に伸びている。

 模様は……何て言ったら良いだろう。二つの大小の楕円が――ぴったりじゃなくて、半ばぐらいのところで大きい方を上にして――重なり、上の大きい方の楕円に三本の線が鳥の足みたいに刺さってる。でもその三本は鳥の足みたいに交わってはいない。外側の二本はその前で切れてる。真ん中の一本だけ下に大きく突き抜けていた。その長い線に、楕円の下で横棒が二本横切って、長い棒はさっき言ったみたいに二又に分かれている。――文字だけで説明するのはとても難しいな……。これだけで分かったかな?

 で、残った部分、さっき言った模様の下のスペースなんだけど……ここがまっさら空白で何も無いんだ。

 もっとごちゃごちゃした漢字を意味もなく書いていて欲しかったけど、そんなのはみじんもなくただただ何もない。

「これが普通のお札と違うからさ」

 ぶうぶう不満をたれる小学五年生にトッカは三枚のうち一つを取り上げた。

「何が違うの?」

「何でもこの中に取り込むっつえば、分かるか?」

「……何でもって、例えば?」

「そこの葉っぱにお財布、宿題ノートに筆箱、ぞうきん。極めつけは人間、妖、神、動物」

「え、まじで何でも取り込むんだね。え、じゃあ家も?」

「いや、余りに大きすぎるものとか地面に根付いているものとかはだめだ。また、人間の体だけ取り出して無理矢理服を脱がすなんてのもダメ。逆も然りだ。初期の頃はできてたみたいだが、やった本人が往復ビンタくらって心を改めたってさ」

「ださ」

「お前はそういうことするなよ?」

「するわけないじゃん! 気持ち悪い!」

「話を戻すが、このようにこの札は限度はあるものの、大抵なんでも吸い込むことができ、ちょっとやそっとの力では抜け出すことができない」

「それを封印と呼んだりするんだよね」

 夢丸がにこりと笑いながらトッカの額に彼が持ってたはずの札を押し当てる。すると音もなく、しかもあっという間にトッカの体が札に吸い込まれた。

 さすが風をつかさどる門田町の守り神、夢丸。素早い。――ってかどうやってその札取ったの?

「ほら、和樹、見てごらん。表面に文字が浮かんだだろう?」

「本当だ!」

 先程の空白に筆文字で「河童」と書いてある。

「このようにこの札は取り込んだものが何かちゃんと分かるようになってる。一度にいくつもの札を扱うようになったらこれを覚えておいてね」

「うん! で、あいつはどうやって出すの?」

「そりゃ簡単だ。裏返して地面に置くんだよ」

 そう言って地面の上でくるっとひっくり返すとトッカが

「この野郎、勝手にとんでもないことやりやがって!」

とわめきながら出てきた。

 相変わらず沸点の低い河童だな。

「ちなみに!」

 トッカの猛攻をひらりひらりとかわしながら俺の残り二枚の札のうちもう一枚をさっと取る。

「札にはもういくつかルールがあってね、まず吸い込めるのは一つのみ」

 またトッカを札の中にしまう。

「ちなみに生き物は額に札を押し付けなければ中に吸い込めないから注意してね。物にはそういうのはないみたいだけど」

 そう言いながら夢丸が葉っぱや筆箱にトッカ入りの札をぐりぐり押し付けるが変化がない。

 なるほど。

「あくまでこの札は封印のためにあるからね。やたらめったら吸い込んで中で悪霊に力を付けられてしまっても困るんだ」

「それで限定するようになったんだね」

「そういうこと。で、次に大事な事なんだけど」

 また札に吸い込まれ、そしてすぐに吐き出されてトッカはぐったりしてる。

 その上にどっかりすわって(辛辣)夢丸はにっこりとその両手を広げてみせた。

 そこには何もないけど……?

「一度何かを吸い込んだ後にそれを吐き出した札は

 そこには何もないんだけどおおお!?

「え!? 夢丸、じゃあさっきの二枚のお札は? トッカを吸い込んで吐いて吸い込んで吐くだけで終わっちゃったってこと?」

「まあそうなるね」

 にこにこ言うな! もう手元には残り一枚しかないんだぞ!?

「ああ、そうだそうだ。あとね……」

「よるなっ!」

 これ以上は札を無駄遣いしてきそうだったのでとりあえず突き放しておいた。

 今後一週間はおまんじゅうに唐辛子まぜてやる。

「で、他には何ができるの?」

「だからそれを説明しようと……」

「口で説明して!」

「契約……」

「け、契約?」

「うん」

 あれ、意外と格好良かった。

「どうやるの? やっぱ使って良いから」

「や、残念ながら僕は和樹と契約はできないんだよ」

「え? 良いよ、夢丸となら契約して良いから」

「ナンダトォ!?」

 沸点の低い河童が変なところに反応して怒ってくる。

 そういう所だよ、トッカくん。

「ごめん、和樹。それはどうしてもできないよ。僕は守り神。ここから簡単には離れられないんだよ」

「あー、そっか。ごめん」

 妖や神の中にも契約できるできないとかはあるってことなのかな。

「良いよ良いよ、代わりにこの沸点低い河童はいかが?」

「お断りします」

「んだと、テメエエエ!」

 そういう所なんだってば、トッカくん。

「じゃ、じゃあ仕方ないから契約の話はここでは置いておくこととして……それ以外には何ができるの?」

「え? この札?」

 夢丸が今さらきょとんとした顔で言う。

「いや、それ以外に何があるんだよ」

「ないよ」

「でしょ? だから、教え――」

「いや、だからないんだってば」

「え?」

 ん? 待てよ? これって……。



 きっぱり言いやがった!!

「エ、本当にそれだけ?」

「こんなに色々できるお札も素敵じゃない」

 い、いやいやいや、『三枚のお札』の小僧だってもっとすごいことしてたよ!? 安倍晴明とかなんてもっと格好いい使い方してたよ!?

「これなら掃除機使ってた方がまだ便利だアアアア」

「おお、上手いね。確かに吸い込むだけだもんね」

「これを扉とかに貼っても扉が開かなくなるとかは無いんだろ!?」

「うん」

「扉に貼ってあるこれをはがしてもまがまがしいナニカは飛び出してこないんだろ!?」

「うん」

「ってゆーかお前が工夫すれば良いだけだからな。俺達も知らない使い方はあるはずだ」

 トッカが口を挟んでくる。しかし重要なのはそこじゃないんだぞ。

「でも扉を固く閉じることはできないんだろ!?」

「こだわるね」

「できねえっつってんだろ」

「絶望的だアアアア」

 せっかく格好いいこと出来ると思ってたのに……!

 掃除機より使えないなんて!

 ガックシ!

「おーい。溶けたアイスみたいになってるところ悪いんだけど」

 絶望に倒れ伏した小学五年生を見下ろしてトッカが言う。

「ん?」

 涙のにじむ畳から顔を上げてトッカの方を見る。

 何やら一通の葉書を持っている。

「それは?」

「さっき来た。あいつはこういう事だけは速いから」

「あいつ?」

「記憶の宝石館ってお前も聞いたことあるだろ。そこの店主から早速呼び出しだ」

 ――記憶の宝石館。

 そのたった六文字に心臓が反応する。

 確かそこの店主は座敷童で、たった一人の従業員は異形頭という良い意味でも悪い意味でもこの町らしい店だ。

 葉書を裏返して依頼文を読む。


『遅いバカ! 決めるの遅い!!

 早く来い!!


 黒耀こくよう


「……」

 ん?

「ま、急ぎの用事だってことだな」

「え、何するのこれ」

「知らね」

「……」

 妖ってこういうもんだ妖ってこういうもんだ妖ってこういうもんだ妖って……。

「とりあえず、戦うだけがはらい者じゃねえっつうこったな。それが分かるよ、きっと」

「きっとって……って、てかそれに夢丸が無駄遣いしたから札も一枚しか残ってないんだけど!?」

「じゃあ、あの押し入れン中にあるから取りに行きゃあいいじゃねえか」

 ――あ、自由に持って行って良いんですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

没原稿の供養塔 星 太一 @dehim-fake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ