ちょっと大きく書き直しますので

☆気に入りなんだけどね。えたったりもしているなぁと思ったからね。大きく書き直すにあたって二人渾身の投げをちょっと現時点では没になったんだ


 * * *


 目の前にはくったりと倒れた亀っぽいやつ。

 緑のぬらぬらっとした肌に立派な甲羅。

 ――ってかどう見たって亀。

「え? あひるだよ」

 対して夢丸はあひるを主張。

 これは……戦争の予感がする。

「えー? 亀でしょ」

「違うよ、あひるだよ! だってほら! くちばしついてるじゃん!」

「違うよ、亀だよ! ほら、甲羅ついてるし、肌が緑色だよ!」

「あひる!」

「亀!」

「あ、あの……」

「どの世界にくちばしついてる亀がいるんだよ!」

「お言葉ですが夢丸さーん! 甲羅つけた緑の肌のあひるも聞いたこと無いんですがー!」

「おーい……」

「やるかー!?」

「明治街の向こうまで吹き飛ばしてあげるよ、和樹」

「じゃ、じゃあ? こっちは神主特権で何とかするしー!」

「あはは……笑止千万。人間如きに何ができる?」

「おー……い!」

 俺ら二人の間で火花がばちばち言い出したところで突如亀っぽいやつに足首をがっしりつかまれる。

 再団結! 神主の子と守り神!

「「ぎゃあああああ! 生きてる!」」

「勝手に殺すな!」

 一瞬くわっとそう叫んでまたすぐにぽっくんとうつ伏す。

 先程までの元気はどこへいったのか、今度はそのまま動かない。

「え……死んだ?」

「今度こそ昇天した?」

「……」

「……」

 返事がない。

「どうする?」

「お墓って……とりあえずうめとけば良い?」

「火葬でも良いんじゃない?」

「あ、なるほどぉ!」

「だから殺すな! 勝手に!」

「「ああああ、生きてるうううう!」」

「何度これを繰り返せば終わるんだよ、この話……」

 どこに向かってしゃべってるんだろう。

「良いから……皿に、水……」

「「皿?」」

 一瞬見合わせて

「和樹、それじゃない? おまんじゅうの」

「あ、これか」

 ということで近くの池の水をおまんじゅうの乗っていた皿に乗せて運ぶ。

「ほれ、特別にくれてやるぞよ。ゆっくりお飲み」

「ばかたれか」

 え、怒られた。

 何で。

「ここ」

「「ここ?」」

「頭の」

「「頭?」」

 頭の、皿?


 あ。


 瞬間ぴーんと頭にひらめくものがあった。

 え、もしかして……?


「え、もしかして、君って『河童』?」

「絶望的だ……」


 それだけ言い残してまたぱったり倒れ伏し、今度こそ本当に動かなくなった。

「あ、干からびた」

「……」

「……」

「「干からびた!!」」

 突如(もとい、やっと)事の重大さに気が付いた神主の息子と守り神!

 俺は河童の両足を、夢丸は両手をがっしとつかんで持ち上げる。

 そのまま右に左に、からからの体をスイングスイング。

「いっ」

「せー」

「のー」


「「せいやっそおおおい!!!」」


 大きく振りかぶって投げたー!!

 素晴らしい放物線を描いて河童の干物が宙を舞う!!

 青空をバックに気持ちの良い飛び方をする干物。池を形作る岩にぺちんとぶつかってからそのまま池にダイブした。

 ボチャアアアアン!!

 ザバアッ!!

「てめえら普通にやれねえのか!!」

「「やった! 生き返った!!」」

「生き返った! きゃぴ! ――じゃねえ、この能天気ペアーめ!! 皿が割れたらどうする気だったんだ、おら!! 今度は俺がお前らぶん投げてやるからな!! 覚悟しとけ!!」

 ミッションコンプリート!


 * * *

 ――で。

 二人ぺったりくっつきながら元干物にそろそろと近づく。

 元干物は河童の割には少し髪が長い気がするけどそれ以外は純粋な河童だ。

 腰にひょうたんやらキュウリやらさげてたりっていうのはまさに河童って感じだし、何より彼の声やら性格やらに全く合っていないくりくりお目目が良い。

 何か良い。

 ――とはいえ、だ。目の前の元干物が完全に優しい相手とは限らない。(ってか既に投げてやるとか言ってたし)もしかしたら宇宙から来た河童型宇宙人かもしれないわけで……。

 とりあえず盾の代わりにおまんじゅうのお皿を構えてみた。

 乾くまで話が通じなくて、さらには投げられたからか少し不機嫌そうな顔をしている。下手に扱ったら噛みつかれる、と思う。

「あ、あっと……ふーあーゆう」

「今まで散々日本語でやり取りしてきただろ」

「あーあー、ないすつぅみーちゅー」

「おい」

 相手の眉間にしわがよる。

「ひいっ!」

 また二人でひしと抱き合った。

「ったく、マジでどうしようもねえな、お前ら」

「でへへ。それほどでも」

「褒めてねえよ!」

「ひいっ! 怒られた!」

「頭痛い……」

 とうとう頭を抱えだした。

 あれ。俺何か悪いことしたっけ?

「あのな。こういう時はまず自分から名乗って、それから相手の名前を聞くもんなんだよ」

「ほうほう」

「ったく……手本見せてやるからよく見てろ」

「うん」

「えー、こほん。俺は河童のトッカ。せせらぎ川の出。人を探してはるばる湯羽目ゆばめから旅してきたんだが、ここら辺は水場が無くってな……干からびかけてた所をお前らに助けられたっつう訳だ。方法は……まあどうであれ、まずは礼を言わせてくれ。助かった」

「あ、いや、それほどでも」

「方法はどうであれ、な」

 ……この河童はどうやら根に持つタイプらしい。

「で? お前らは?」

「僕、天狗の夢丸! 気軽にゆめちゃんって呼んで!」

「よろしく、夢丸」

「ひどいっ!」

 自分でがーんと言ってそこら辺にうずくまる。

「で? お前は?」

「俺は和樹。よろし――」

「……!」

 そう言いかけた瞬間トッカが目を見開いて俺の肩をがっしとつかんできた。

 そのままものすごい目力で見てくる。

 いや、怖い怖い怖い怖い。

「今なんつった?」

「え? よ、よろしく?」

「違う! その前だ!」

「え、か、和樹」

「苗字は!」

「や、山草」

 俺の苗字なんか聞いて目を見開き、ふらふらと一二歩後ずさり。

「ああ、あああああ……!」

 震える人差し指はまっすぐ俺の胸の辺りを指していた。

 ――いや、珍獣か俺は。

「なな、何? 何?」

「ついに、ついに見つけた……! 見つけたぞ!! 長かった……!」

 ……。

「わははははは!!」

 ……、……。

「ゆ、夢丸」

 小声でささやく。

「何?」

 夢丸も小声で返してくる。

「ついに壊れなさったぞ」

「さっき投げた時打ちどころが悪かったんじゃないの?」

「じゃあ叩けば治るかな?」

「はは、ブラウン管テレビじゃあるまいし」

「誰がブラウン管だって?」

「「ひゅ」」

 気付くと背後にトッカが立っている。

 ええっ!? さっきまでげらげら笑ってたじゃん!

 え。怖。本当に何なんだ。

「い、いや、はは」

 とりあえず笑ってごまかしておく。

「それよりお前。山草和樹って言ったな?」

「え? あ、うん」

「次郎吉って知ってるか?」

「えっと、山草次郎吉?」

「当たり前だ」

 話には聞いたことのある人の名前が出て来て少しどきりとする。

 こいつは俺達家族の何を知ってるんだ?

「あ、ああ……じいちゃんのお兄さんだけど」

 一通り聞くとトッカはにんまりと満足そうな笑みを浮かべた。

「やっぱりお前だ」

「――え?」

「お前を探してたんだよ」


「お前はこの世とあの世をつなぐ『はらい者』なんだ」


 ……え、え? 何だって?


「今の日本語?」

「お前はどこ在住なんだよ」

「も、もう一回言って」

「お前はこの世とあの世……」

「あー、じゃなくてじゃなくて。その後の」

「……はらい者?」

「それ!」

「……だから、何だ?」

「何で俺が除け者なの?」

「何聞いてたんだよ!!」

 怒らなくても良いじゃないか!

「だってはらいものとか言うから!」

「はらい者は、はらい者だろ!」

「知らないよ、そんな単語!」

「親戚一同から聞かなかったのかよ、あんぽんたん!」

「聞いたことないわ!!」

 これ、出会って数分。

 それだけの時間で既に息ぴったりのけんかをぶちかます俺達に夢丸は腹を抱えて笑ってる。

「何、前世のライバルか何か? 君達! ぎゃはははは!」

「「こいつが意味不明な事言ってんだよ!!」」

「マネするな!」

「そっちこそマネするな! 大体一人称被っててややこしいんだよ!」

「俺のせいじゃないし!」

「待て、今どっちがしゃべってるんだ」

「マジな混乱やめろ、話が余計ややこしくなるから!」

 ここで一息。

 夢丸は遂にひっくり返った。

「は、話を整理しようか」

「そうだな。これじゃあ無駄に体力を消耗するばかりだ」

「何だっけ? 除け者がなんだって?」

「はらい者だ」

「あのね、トッカ氏。人間には人権があってね、ようするに除け者なんてほいほい人に言うもんじゃ――」

「はらい者だああああ!!」

 沸点が低いぞこの河童!!

 さっと腰にさげていたひょうたんを取り出し、それらしく一振り――と同時にもみあげ辺りの毛が二、三本消滅した……ってええええええ!? こいつ凶器持ってやがるぞ!?

 水が弾丸みたいなスピードで飛んでくるとかマジで何事!?

「コノヤロ、責任者を出せえええ!!」

「むちゃくちゃだあああ!!」

 すごい勢いで水の弾丸をぶっ飛ばしてくるトッカ。

 腹抱えるなんてレベルじゃない程笑い転げる夢丸。いや、助けろ! お前守り神だろ!!

 こうなったら! 某映画が如くブリッジで格好良く弾丸を避け――!


 ぱき。


 あ。

 腰骨が逝った。


「あああああああ!!」

 腰骨が逝ったああああああ!

「うおおおおお!」

 迫る迫る! トッカ氏!

「あぎゃあああ!」

 十一歳にして早速腰骨が逝ってしまった神主の息子、ピンチ!!

 と、そこにブリッジしたら腰骨うんぬんじゃ済まされない人物――劇物食わせのじいちゃん登場!

 しまった、日課のジョギングか!

「じいちゃん、それ以上進んだら危ない!」

「はん? どうした和樹」

 そう言いながらのんびりこちらに近づく。――いや危ないと言われたら素直に止まってくれ。

「ストップ、ストップ!」

「ひ?」

「弾丸弾丸!」

「ふ?」

「デンジャラス!」

「へ?」

「河童! そこに河童がいんの!」

「ほおー」

 おいおいおいおい!? ふざけてる場合じゃないぞ!? 御年六十五歳!


「お前誰かと思えばトッカじゃねえか」

「……え、おま、寛次かんじ?」


 ――って、え?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る