扉向こう、いらないまち編

黒耀、LIARみを帯び始めて没になる

☆可愛いキャラであるはずの黒耀くんのキャラがぶれ始めた。

 しかしこの問答は意外と好きなので取っておくことにした。


 * * *


「本当だ、不愉快だ」

「そうでしょ。もうなんていうか、くたばれって感じ――」

 残りのホワイトサイダーを飲み干しながらそう答えて、直後吹きそうになった。

 え、誰!?

 振り向いた先にいたのは端整な顔立ちの少年。学ランも切り揃えた髪も瞳も真っ黒。それ故細い指とか白い肌とか、薄桃色の半透明ガラスの耳飾りとかが良く映える。

 いわゆる「不思議な魅力の美少年」ってやつだ。

「ちょ、え、君誰!? ってか嘘、もしかして声に出てた!?」

「さあ? 偶にヒトの心の声が聞こえるものだからそこら辺は分かんないや」

 どういう生き物なんだ、この子は。

 呆然としている間に彼はどんどん話を進めていく。

「全部聞いてたよ。酷い人達だね」

「……」

「自分の非を認めないボス格の女の子グループ、取り巻きの第二軍のモブキャラ達。そして悲劇のヒロイン、二名――しかし、一人はシンデレラに昇格、もう一人はカシオペイヤに降格。余りに出来すぎていて逆に笑えないな」

「……本当に全部知ってるんだね」

「当然。だって座敷童ですから。あ、申し遅れました、名を黒耀といいます。以後、お見知りおきを」

 そう言ってにこりと微笑みながら名刺を差し出してきた。


 記憶の宝石館 店主

 

      黒耀


 それを見て何故か妙に納得する。

 多分世界で一番オカルトの類いが横行する町として有名なこの門田町に住んでいることとか、桁外れの妖しい美しさとかが彼の言い分とぴったり合っているからなんだろう。

「カシオペイヤ、君は?」

「……鳴上、浬帆」

「リホ、よろしく」

 白い手袋をはめた手を差し出してくる。恐る恐る握った。その様子を見て黒耀がまたぽつりと呟く。

「……透明人間みたいだな」

「え?」

「カシオペイヤかなと思ってたけど、今考え直してみたら、透明人間の方が合ってるかなって思って」

「どうして?」

「クラスの隅で自分の正体を明かさないように隠れてきた。その正体は大事な所でしか明かすことが出来ないから」

「そんなの、決まってない」

「暗黙のルールってご存知だろ?」

「……」

「もしかして今回の件はそれが原因だった? 自分は透明人間の振りをしていたただの役者だってばらしてしまった。しかも劇中で。ああ情けない、格好悪い」

「いや、知ってたよ! ……うん、知ってた。知ってたんだよ」

「使いどころを間違えた。自分の力はそこで発揮されるべきじゃなかった」

「――本当に。本当にそうだ。……ああ、絶対正しいと思ってた正義が裏切られた気分。彼らが必要としてたのは正義の味方じゃなくて揺るぎない『いつも通り』だった」

「そうさ。どうせあいつらは無機質なんだ」

「……、……あーあ。何かもう分かんない。馬鹿らしい」

「それでも君は、自分の思い込む事実を言ってやっただけなのにここまで心を袋叩きにしてくるあいつらの中にまだ戻りたいと思う?」

「」

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