ブージー・アリファーン

 集合する町はシュンコウの隣町である『カイシュン』に向かう。

 このカイシュンという町は俺のような魔導士たちにとっては最高の町だ。

 魔導書や魔道具がたくさん売っている。

 あと不思議な薬草も売っている。

 毎回真新しいものが売っているのでいつこの町に来ても飽きることはない。

 なのでこの町にいる人たちは基本的に魔導士が多い。

 さて、俺は行きつけのカフェに向かわなくては…。

 と思いながら向かおうとしたが、たまたま通った書店のとある魔導書を見かけ、俺は足を止める。

 おっ?なんだこの魔導書、初めて見るやつじゃないか?

 今日入荷したばかりなのか…。

 待ち合わせの時間まで少しだがまだある。

 ちょっとだけ立ち読みを…と思い俺はその魔導書に手を伸ばした。

 がほかの人の手も重なる。


「あ?」


 と明らかに機嫌が悪そうな声で言われる。

 俺はムッとしてその声の主を見る。


「…ってなんだ、ユウ・アカツキか。悪いな威嚇して」


 その声の主は待ち合わせをしていたブージー・アリファーンだった。

 ブージーは『紅蓮の狼』に所属している魔導士だ。

 『紅蓮の狼』は基本、武闘派のギルドで実際に討伐系のスペシャリストの集まりのギルドだ。

 その中でもブージーは『紅蓮の狼』の中でも珍しい魔導士。

 ぶっきら棒な口調と見た目はいかつくて怖そうだが、意外にも花を愛する心優しいやつだ。

 魔法研究のほかに家庭菜園が趣味だったりする。

 俺もたまにそれで育った野菜や果物をもらったりする。


「久しぶりだな、ブージー。やっぱお前もその魔導書、気になるか?」

「ああ、そうだな。初めて見るものだし、どんな魔法があるのか、取得できるのかも楽しみだしな」


 魔導書は魔導士が魔法を取得するための書物だ。

 ただ読むだけで取得できる魔法もあれば、特殊な儀式をすることで取得できるものもある。

 ああ、さすがに立ち読みでゲットするなんてマナーの悪いことはしない。

 魔導書を買うにはしっかりと契約をしなければならないから。

 魔導書の最初のページに契約者の血をインクに自分の名前を書けば契約は成立する。

 

「どうしよっかな~、欲しいなぁ…。でも手持ちが…」


 この町の商品は日にち単位でモノが入れ替わる。

 なので昨日は見かけたのに、次の日にはもう取り扱っていないということはざらにある。


「なんだ?金が足りないのか?」


 ブージーは俺の様子を見る。


「あー、値段的には買えるんだが…。全額出したらサクラとエルにケーキのお土産買ってやれないしな…。うん、仕方ない…今回はあきらめるか…」


 俺はガックリと肩を落とす。

 

「エル?白兎のとこの新人か?」

「そうだ。昨日うちに入団したんだ。13歳の女の子。サクラがもう妹みたいにかわいがっているんだ。んで、その子がイチゴタルト食べたことないっていうから食べさせてあげたいって思ってな」

「そうか、それは買ってあげないとだな」


 とブージーはうーんと何か考え始める。


「ブージー?どうした?」

「俺がこの魔導書買ってやるよ。そしたらお前、ケーキ買えるだろ?」

「えっ!?いや、いいよ!そこまでやってもらわなくても…。俺が諦めればいいだけだし」

「いいんだよ、俺がそうしたいからやってんだ。素直に受け取れ」


 とブージーは魔導書を手に取り、会計に入る。

 そして「ほらよ」と言って俺に魔導書を渡してくれた。


「ブージー…ありがとな…。このお礼はいつか必ずする」

「礼は…そうだな…。また俺の育てた野菜、もらってくれたら嬉しい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アカツキ・ループ 夢月桜 @dreamoon0315

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ