新入りを迎えに

 まず一回自分の部屋に戻ることにした。

 俺がギルド『雪花の白兎』に所属しているというのを証明するための腕章を取りに。

 うちのギルドは所属している証明としてローブ、腕章、バッジが配られる。

 ローブは正装(お偉いさんの依頼とかに使われる)として、腕章やバッジは軽装用としてと分けられている。

 これで新入りの子も安心してくれるはずだ。

 腕章は白を基調としたもので水色の雪の結晶の模様がワンポイントになっている。

 雪の結晶は俺のギルド『雪花の白兎』のシンボルマークだ。

 よし、準備はできた。

 新入りの子を迎えに行くとしよう。

 母さん曰く、その子はウララ城の近くで待っているのだそうだ。

 俺たちのいる町、『シュンコウ』には古城がある。 

 それがウララ城だ。

 昔はこの町にも王様が居たそうだが、何百年も前の戦争で負けた。

 そしていくつもの国が統一され、スプリング王国という国ができた。

 そして今の王様がいる町は『ナノハナ』というところだ。

 スプリング王国にある全てのギルドは年に一度、『ナノハナ』に集まって、功績発表をすることになっている。

 去年は悔しいことに3位だったが、今年は1位を取れるように頑張りたいと思ってる。



 ウララ城へ行くにはまず、市場を通る。


「ユウくん、おつかい?」


 八百屋のおばさんが俺に話しかける。


「ああ、はい。そんなところです。今日、新入りがくるんで迎えに行くんですよ」

「あらそうなの!それはめでたいわね!あっ、そうだこれサービス。新入りの子に持ってってあげて!」


 とおばさんはリンゴを2つほど袋に入れて俺に渡してくれた。


「えっ?いいんですか?」

「いいのよ、『雪花の白兎』にはお世話になっているからね!功績発表も頑張るんだよ!」

「いつも応援ありがとう。励みになります。それじゃあ、俺はこれで失礼します」

「そうね、足止めさせちゃったわね。新入りの子、来たら後で紹介してね」

「はい。リンゴ、ありがとうございました」


 ここで俺は八百屋のおばさんと別れる。

 暫く市場を進んでいくとウララ城についた。

 ついたのだが…母さんの言ってたような人物はなぜか見当たらなかった。

 ほかにウララ城にいた人に新入りらしき子がいなかったか聞いてみる。


「銀髪にピンクの瞳の子ねぇ…。私は見ていないわね。そんな珍しい子がいたら一発で分かると思うけど…」

「そうですか…。わかりました、ありがとうございます」


 新入りの子がここにいないと思うと…。

 考えたくはなかったが最悪の場合がある。

 『人攫い』だ。

 人をさらい、奴隷として売る…そういうことを繰り返す極悪非道なやつら。

 このスプリング王国は奴隷制度を禁止しているのだが、裏でやっている奴らが悲しいことにいる。

 俺はまだやったことはないが、依頼で母さんたちが人攫いの組織を退治したことがあるということを聞いている。

 その光景は…とても見られたものじゃないと聞いた。

 スプリング王国と敵対関係のあるヴィンタ王国が3つの王国に侵入し、人攫いをして、国を繁栄させている。

 そして、容姿が美しかったり、珍しい人がいたらそっちの方が高く売れるので攫われやすくなる。

 新入りも珍しい瞳の色と髪色を持っているらしいから狙われた可能性が十分ある。

 それにこのウララ城は国同士をつなげている、『魔女の森』が近い。

 そこへ行かれてしまえば、間に合わないかもしれない。

 俺は急いで魔女の森の方へ向かうことにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る