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「今日も来たのね。足繁く通ってくれるなんて、私は幸せものなのかしら」

 試すように、首が傾げられる。


 そのひとはわたしを待っていたようだった。

 なのに、すぐに血を吸おうとはしてくれなかった。

 

 吸血鬼は言った。

「少しでも時間を間違えていたならば、きっとあなた、この砂にでも蕩けてしまっていたのでしょう?」

 

 空色の瞳が、橙を帯びる。


「もう来てはいけないわ。でないとあなた……」


 頤に触れられた。


 吸血鬼は、わたしの喉に突き立てた。

 

 眩む砂浜のなか、辛うじて、拾った言葉を繰り替えしていた。


 ――夜に染まってしまう――。


 陽が、陰っていた。砂浜には誰もいない。

 砂浜に沿って伸びた、ヤシにも似た背の高い木が、潮風に揺さぶられ、波の音と混じり合って騒いでいた。

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