/3.

「今日も来たのね。足繁く通ってくれるなんて、私は幸せものなのかしら」

 試すように、首が傾げられる。


 そのひとはわたしを待っていたようだった。

 なのに、すぐに血を吸おうとはしてくれなかった。

 

 吸血鬼は言った。

「少しでも時間を間違えていたならば、きっとあなた、この砂にでも蕩けてしまっていたのでしょう?」

 

 空色の瞳が、橙を帯びる。


「もう来てはいけないわ。でないとあなた……」


 頤に触れられた。


 吸血鬼は、わたしの喉に突き立てた。

 

 眩む砂浜のなか、辛うじて、拾った言葉を繰り替えしていた。


 ――夜に染まってしまう――。


 陽が、陰っていた。砂浜には誰もいない。

 砂浜に沿って伸びた、ヤシにも似た背の高い木が、潮風に揺さぶられ、波の音と混じり合って騒いでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る