第18話 淋しい和解

頼んだドリンクが運ばれてきた頃を見計らって僕の方から話を切り出した。「今日は来てくれてありがとう、この二年間ずっと詩織に会いたい、話したい、謝りたいってずっとずっと考えてたんだ」

彼女は僕の目をしっかりと見て真剣に話を聞いていた。僕はその【圧】に耐えられずに視線を外しそうになったりもしたが、〈本当に謝りたいと思う時って、顔見て目を見てちゃんとするものじゃない?〉という彼女の言葉を思い出していた。

(詩織は僕が謝ろうとしている事を真剣に受け止めようとしてくれている)

そう思って僕も思っていたことを全て伝えようと彼女の目を見て話しを続けた。

「病気になってから僕は、詩織の言葉や態度にすごく傷ついた。僕を理解してくれている詩織がどうして?って何度も思った。」

彼女は少し目を閉じる仕草をするものの、軽く頷きながら真剣に聞いている。

「でも詩織がいなくなってから、それが間違いだって気づいた…いや、気付かされたんだ!。僕を守ろうと必死に頑張ってくれていた詩織に僕は嫌な気持ちをぶつけたり怒鳴ったりして、……ごめん!本当に悪かったと思ってる。」ずっと言えなかった言葉を伝えることが出来て、ほんの少しだけ肩の荷が下りた気がした。


「ちょっと待ってて」僕は席を立ってお店のスタッフから花を受け取ると席へ戻り「3日過ぎちゃったけど」そういって詩織に花束を差し出して「お誕生日おめでとう」と言った。

「え?何?!、あ、ありがとう」と詩織は戸惑った。それもそのはず、付き合っていた時に花をプレゼントした事なんて一度もなかったのだから……「きれい!私の好きな色、忘れてなかったのね。なんていうお花?」

小さいけれど青く可憐に咲き誇る花々をみて僕に答えを求めた。

「これはカンパニュラという花で、ごめんなさいや後悔の意味があるんだって」

もう一方の花言葉、感謝・誠実な愛・共感・思いを告げる、などの意味は伝えなかった。


その時、店内に流れるピアノのメロディに詩織が反応し「あ!これ、好きなやつだ!」とピアノに耳を傾けた。僕がお店にリクエストをした “SPICY CHOCOLATEのずっと” という曲で、花を渡すタイミングで演奏してもらえることになっていた。

すると僕の背後から語りかけるような歌声が聞こえてきた。この店のオーナーだった…。

オーナーは元歌手で、ケーキの手違いがあったことを聞き、お詫びにとサプライズを仕掛けてくれたのだ!

メロディは聞き覚えがある、という程度だった僕はオーナーの歌声を聴きながらその歌詞と自分の気持ちがリンクしていることに驚いた。



詩織を初めてみたあの日に

僕は飾らない詩織に惹かれた。

気持ちが噛み合わなくて

戻れなくなった過去で

また肩を寄せて話せたらと思った。


僕は何も信じられなくなってた。

詩織への理解も僕は間違っていた。

詩織への愛情すら見失って

一人ぼっちな気がしていた。



詩織との想い出が蘇り、僕は完全にこの曲の歌詞と同化していた。彼女も聴き入っているように見えた。そして歌が終わると店にいた他のお客さんから静かで暖かい拍手が起こった。

ピアノと歌の余韻が残る中、詩織が口を開いた。


「ありがとう、凄く嬉しい!私ももっと違った方法があったんじゃないかって思っていたの。レンを傷つけたなって自覚はあったけど、私も意地を張ってた。でも、元気なレンを見ることが出来て、こんなにたくさん気持ちをもらえてすごく嬉しい」



「でも… 私、この間彼が出来たの。」と申し訳なさそうに詩織が言った。


「いいんだ。詩織が幸せならそれで。」と僕は返した。カッコつけたわけじゃなくて、この2年間、詩織が幸せならいいと願う気持ちも本当にあったのだ。


だけど僕は、この後の会話はあまり覚えていない。

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