第17話 2年ぶりの再会

詩織から連絡が来た翌日。

僕は早速、3週間後の金曜でお店に予約を入れた。僕が選んだお店は詩織と一度だけ訪れたことのある「ピアノバー Sunny side」。文字通りピアノの生演奏が流れるバーである。詩織とは1年記念の際に来た所だ。

あの時はまだ健二があんなことになる前だったから、僕と詩織は本当にどこにでもいる、ありふれた恋人同士だった。他愛もない会話をして食べて飲んで笑い合って…。そしてピアスと、ペアでハートになるよう刻まれた木製のキーホルダーをプレゼントすると詩織はとても喜んでいた。ピアノのリクエストができることもこの時知り、また来ようねと話していた。


そして僕が予約した日は詩織の誕生日、、ではないがその3日後だった。許してもらえるかどうかはわからない。それでもチャンスはやって来てくれたんだ!僕はこのチャンスに賭ける事にした。詩織に日時と場所を伝えると、

〈 りょーかいです 遅れたらごめんなさい〉と返事がきた。いつも通りの詩織の反応だった。


それから僕は予約した日の週末、お店に行ってサプライズの打ち合わせをした。誕生日ケーキはお店の方でお任せで用意してくれるということだった。そしてその後は花屋に行って、花の種類と配達日をお願いしに行った。こうして詩織のことを想ってあれこれと準備を考えている時間はとても楽しかった。

あの返事以来、詩織とはやりとりをしていなかったが、仕事で忙しくしていたし、詩織の反応もいつも通りだったからあまり考えることなく3週間は過ぎていった。


そして迎えた当日。

「高木、悪いんだけどこの書類をチェックした後、PDFにしてメールで会議出席者へ送っておいてくれないか?」と上司がA4で20枚くらいの資料を差し出してきた。

普段は断ることのない僕だったが、今日に限っては「すいません、今日は用事があるので他の誰かに言ってもらえませんか?」とはっきり断った。上司は僕が予想外の返答をしたので、僕に渡すはずの資料はその後、右往左往しているようだった。定時になると誰よりも早く会社を出て、詩織に喜んでもらう為に予約したお店へ連絡した。


「今日20:00に予約している高木ですけど、お願いしていたプレゼントは大丈夫ですか?」

『はい、承っております。お花とケーキ、お名前は(しおり)様で間違いございませんか?』

「はい、間違いありません。ではこれから向かいますのでよろしくお願いします。」

『お待ちしております、お気をつけてお越しください。』


19:30に僕はお店に着いた。

店内に入り、花とケーキを確認すると致命的なミスに気づいた。

「名前… 漢字が違うんだけど…」

チョコプレートの名前が間違っているという人生初の体験を、まさかこのタイミングでするとは、、何という不運なんだと心の中で嘆いた。

『申し訳ございません!』

店員さんが謝ったが、ケーキは外注であった為プレートは変えようがなかった。

「分かりました、ケーキは持って帰りますから持ち帰れるようにしてもらえますか?」

( 花だけでも良いや!)と僕は気持ちを切り替えた。


約束の時間の10分前に詩織はやって来た。「久しぶり、早いのね」と言った詩織は少し大人になっていた。詩織は普段、デニムにスニーカーといったカジュアルな服装をしていたが、これはデート仕様なのかTPOに合わせたのかわからないが、濃いグレーのニットにベージュのパンツでジャケットを羽織り、足元はパンプスという、キレイめでお洒落な装いだった。


「本当久しぶりだね。」

色々と考えてきた割に次の言葉が出てこない。


… 緊張する!どう切り出せば良いんだろう… 馬鹿だな、今さら何カッコつけてんだ?どうせ詩織は全部お見通しなんだから…


「その洋服イイね!似合ってるよ!」

「バカ、柄にもないこと言わないの!」


詩織は照れを隠しながらはぐらかした。

僕たちのファーストコンタクトはなんだか少しぎこちないものだった。

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