第3話 後悔

2月24日


この日は冬のこの時期にしては朝から暖かく穏やかな日だった。いつも通りに起きて、いつも通りに仕事に向かう。2月最後の週末という事で道路は多少混雑していたが、何も変わらない1日が始まった。


もうすぐ会社に到着するというところで僕の携帯の着信音が鳴った。車の運転中ということもあり、応答出来ずにいた。10コール程度だったと思うが電話は切れた。


会社の駐車場に着いて車を止め、着歴を見ると

健二の家電の番号が残っていた。

僕はその時、健二からの〝相談したい〟という言葉を思い出した。

健二はいつも携帯から電話をかけてくるのに、何故家からかけてくるのだろうと若干の違和感とともに嫌な予感がした。

僕は駐車場から会社に向かう途中で健二の家に電話をかけた。


「携帯にお電話頂いていたみたいなのですが」

少し声が違って聞こえたが、出たのは健二の奥さんだった。

「今朝早くに警察から電話があって、警察に来て欲しいって。健二が……」

後は言葉なのか泣き声なのかわからない声をあげていた。


要するに、僕に一緒に警察へ行って欲しいということだった。

僕は会社の前まで来ていたが上司に休みをもらい、警察に同行することにした。


警察署に着くと健二の奥さん【千里】が待っていた。僕と健二は小学校から高校まで同じ学校の同級生で20歳で千里さんと結婚した後も家族ぐるみで仲良くしている。


千里は僕の姿が見えると駆け寄ってきて、僕の胸で泣きじゃくった。

僕はその時、健二に起きた最悪の出来事を予感していた。


「最近の健ちゃんは落ち着いていて、順調に回復しているって思っていたの。

でも昨日は1人で美容院に行ってくるって出かけたまま帰って来なくて…昨日の夜、健ちゃんと連絡が取れなくなって…すぐに警察へ届けたんだけど…」

その言葉の端々には後悔が滲んでいた。


「なんで連絡してくれなかったの?」

言ってから気付いた。知らない携帯番号からの着信が何度もあったことを…。


「何度も電話したけど、レン君出てくれなかったじゃない!何度も電話したんだよ?何度も。」

あれは千里からの着信だった。僕は後悔した。


なぜ電話に出なかったのだろう?

あの時電話に出ていれば健二を探せたかも知れなかったのに…。


そして、健二に言われた事を思い出した。

「最近自分の気持ちの揺れについて行けない俺がいる。なんの前触れもなく死にたい衝動にかられるんだ、それが恐ろしいほど強い衝動なんだ」

「大丈夫か?病院に行った時先生に話しているのか?」

「ああ、話してるよ。でもあいつ、俺の気持ちに潜む強い衝動を分かろうとしない。薬を増やすだけで俺のことなんか見ちゃいないんだ」

そう言うと健二はスマホを取り出した。


「レンに俺がどこにいるのか分かるようにして欲しいんだ。連絡が取れなくなった時でも居場所が分かるようにしておきたい」

健二はGPSアプリを設定した。


僕はポケットからスマホを取り出し、アプリを起動してみた。

アプリが示した場所は、今いる警察署だった。

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