第37話 年上女上司は積極的!?
「ええっ! こ、こんなにイケメンで紳士的なひとが女性ですってえぇ!」
信じられないと言わんばかりにアンリエッタが叫んだ。
そりゃそうだ。ほんの数秒前まであいつったらイケメンだと思って、頬を染めてたんだからな。なんだかすっきりした!
と、ゲスな事を考えていると、ムッとした顔でセシルが僕をにらんだ。
なんだよ。告っておきながら、ちょっと顔がいいからって他の男に色目つかってるんじゃん。
「と、とにかくさ。落ち着こう」
声をかけても反応はなく、二人でわいのわいのしてる始末。
「で、アイナ指揮官っ、質問があります。この部隊はなぜ女性ばかりなんですか? 男性だって軍にはいますよね」
案の定、アンリエッタが指揮官にかみついた。そりゃ上官に聞きたいところではあるけど、言い方ってあるんじゃないか?
「なんです? 二人とも……なのです」
「聞いてました? どうして女性ばかりなんですっ」
カンカンになってるアンリエッタたちとは裏腹に、リーンとエアはそしらぬ顔をしていた。
ひょっとして……。
「あのさ、エア。もしかしてミロンさん達が女の人だって知ってた?」
『ご主人様……鈍感! 気がつかなかったのぅ?』
「そりゃあ、少し整った顔立ちだな、とは思ってはいたけど……。ミロンさんなんか遠慮なしに魔法をぶっ放してきたぞ」
隣で聞いていたリーンが、やれやれと言わんばかりに首をふった。
「どうしたの? リーン」 何か言いたい事があるんだろうと、話をふってみる。
「どうしたもこうしたも……。ほんとお前様は鈍チンじゃな」
「鈍くなんかないやい!」
『ご主人様ったら、ムキになって可愛い』
べたべたとほっぺに触ってくるエア。
「気安く触るなや。お前様も困るじゃろ?」
風精霊とリーンの間で火花が散りはじめたので、あわててリーンに話をふった。
「と、ところでどうして二人とも、ミロンさん達が女性だとわかったの?」
一瞬、二人ともきょとんとした。
少しの間を置いたと思ったら、けらけらと笑いはじめた。
「なにがおかしいんだよ! 僕もアンリエッタたちもわからなかったんだぞ」
ぷぷぷっ、と吹き出しそうになりながらもリーンが応えてくれた。
「あのな……。お前様、うぶなお前様たちにはわからぬかもしれぬが、女性特有の香りと体つき、身のこなしがあるのじゃ。それに気がつかなかったお前様達がうぶすぎるのじゃ」
そ、そういえば……。
妙に髪の毛をかきあげたりしてたな。そばを通ると
大人になるとおしゃれになるんだな、とかイケメンだからおしゃれに気を使ってるんだろうな、だとかしか思っていなかった!
胸のふくらみがないからてっきり男性だとばかり……。
「……ピーター君? さっきからあたしのおっぱいとミロン達の胸を見比べてるのですが……」
アイナさんがこれ見よがしに胸をはると、その反動でぽよよん、とおっぱいが弾む。当の本人はそれがエッチなことだって感じないようだ。むしろおっぱいが大きいのを誇りに思ってるんじゃないだろうな……。
「むぅ。拙者の胸とアイナ殿との胸を比較しておるのか……。屈辱的でござる」
ほんのりと頬を染めて、アンドレさんが両腕で胸をかき抱く。もう少女のようだ。
いや……まだ仏頂面のミロンさんが……と、思って軍曹のほうを見る。
「……目つきがエロい」
と、急にそっぽを向いてしまった。
女性だとわかってしまうと、何だか可愛げのあるように見えてくるから不思議だ。
「あのさ、リーンもエアもミロンさん達が女の人だって知ってたのに、なんで僕たちに教えてくれなかったんだ?」
ぽりぽりと頬をかきながら、面倒くさそうにリーンがため息をつく。
「簡単な事じゃよ、お前様……。もし儂らがそこの仏頂面や剣士が女だと教えたら、お前様は手加減するだろうよ。だから伝えんかったのじゃ」
「そんなことはないぞ。アンリエッタやセシルにだって、手加減してない!」
学園にいたときから僕は彼女たちに負けまいと必死だったんだ。あり得ない。
『あらぁ……。ご主人様がアンリエッタさん達に時間制御魔法、使ったことってあったかしらぁ』
脇の方から疑問の声があがってきた。
「う……。だって卑怯じゃないか。彼女達に時間制御を使うなんてさ……」
エアから指摘されて気がついた。
でも時間制御魔法は練習で使うもんじゃないだろう。アレを使ったら、彼女達の攻撃なんか止まって見えてしまうだろう。
自分の思うように時の速度を変更できるのってずるい。だから使わなかった。
『ご主人様の最大の武器でしょうぉ? 時間制御はぁ……。それを使わないのは、本気になってないってことぉ』
「そういうことじゃ。お前様……。もし儂らがあの剣士や仏頂面が女だと、お前様に教えていたら、こっぴどくやられていただろうよ」
「つまり女の子相手だと僕は手を抜いちゃうからってこと?」
「うむ」
『そうだよん』
リーンもエアも同時にうなずかないで欲しい。そんなに女性に甘いかな?
『気にしないでぇ。そこがご主人様のいいところなんだからさぁ』
人の頭の上にのって、なでなでしているエアだった。
★★★★★
「だからどうして女性しかいないんです? 男の子一人になっちゃうじゃないですかっ!」
「わ、わかったから! ちゃんと説明するのです」
リーン達からよくわからないフォローされている間、アイナさんはアンリエッタたちに詰め寄られていた。とうとう説明しなくちゃならなくなったらしい。
かわいそうにアイナさんは、ため息をつくと説明をはじめた。
「えっと、女性が魔法と相性がいいのは知ってる……なのですよね?」
こくりと僕らは頷いた。
学園に入学してから最初に習うのは、男子で魔法を使いこなせるようになるのには女子の数倍努力せよ! だ。実際、入学一年後に男子の半数が脱落していく。
魔法適性は感受性がすべてだ。如何せん、女の子の方が感受性が豊かなんだからしかたない。
「特にここ、魔術師軍では強大な敵と戦います。それゆえ高レベル魔法が使える女性の方が多いのです」
僕らは顔を見合わせた。納得できる内容だけど、どうせなら最初から言ってほしかった……。
「どうして黙ってたんです?」
と、尋ねると、チラチラと遠慮がちに僕に流し目をよこす。
……ん、言いにくいことなんだろうか。と思ったのが顔に出たんだろう。
ふわっと背後から暖かくって柔らかいものが頭上にのせられた。
振り返ってみると僕の頭をミロンさんがなでている。
「……君が優しすぎるからだ」
あまり表情も変えずぼそりと言ったけど、いつものようにツンツンしていない。なんだかやんわりした優しげな口調だ。拍子抜けしてしまう。
「な……何をやってるのです? ミロン軍曹……」
突然、後ろの方から震えているような声がした。
振り返ってみるとわなわなと肩を震わせながらセシルが立っていた。
「……ん。ああ、ピーター坊が可愛くって、つい」
「そうですか。可愛いですか」
身が凍りそうなくらい冷たい視線を僕に突き刺してくる。
「セシル……さん? な、何を怒ってるのかなあ?」
わからん。どうして怒ってるんだ?
そんなことを考えていると右肩をむんず、とつかまれた。
この感触……。アンリエッタか。
「ど、どうした? アンリも……」
がくがくと震えはじめた僕を守るようにミロンさんが、ぐっと抱きしめてきた。
「あ、あ、あんたって奴はあっ! なに、年上の上司を誘惑してるのよっ!」
「ちょ、ちょっと待てよ。アンリ。誤解だって」
ミロンさんの腕からなんとか……ぬ、抜けれないぞ! すごい力だ。
「なになに。みんなでくっついて楽しそうでござるな」
「ひゃあ! ちょ、ちょっとアンドレさんまで!」
すっかり上機嫌な女剣士さんが机をもぐってきて、ガシっ、と僕の両足を抱きしめてきちゃったのだ。
ぷにっ、とした何かが膝小僧に当たってるってば!
それだけじゃない。なんなんだ、この状況は。
左の方は頬にエア、腕にはリーンが抱きついてきている。
そして右上半身には背中側からミロンさん、正面からはアイナさん。
「ちょ、つ、つぶれるぅぅうう――」
一気に床に押し倒されちゃった。
その後のこと? よく覚えてないよ。
つか、思い出したくもない。
僕以外はみんなお酒を飲んでたんだ。あとのことはご想像におまかせするよ……。とほほ。
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