第23話 文化祭とかいうイベントのお知らせ
夢をみていた。
派手なピンク色の壁、壁、壁……。
そこから僕は出られない。
助けを呼ぼうと、僕は手を伸ばした。
ぷにっ、とした感触が伝わってきた。
「――――っ! スケベっ!」
アンリエッタの悲鳴だ。
目を開けてみると、そこには顔をまっ赤にしてブルブツと震えているアンリエッタがいた。
手の指が彼女のこぶりな胸にしっかりと……。
柔らかいし、ほんのりあったかい。
「何、いつまでも揉んでるのよっ!」
「揉んでない、揉んでない!」
あわてて胸から手を離そうとしても、その感触が素晴らしくって、なかなか離れない。指が離れたくないって、言ってるんだ。
ふと、見上げると、リーンとエアがあきれ顔で宙に浮いていた。
「……お前様。そんな小娘より儂のほうがよいぞ」
「いえいえ、ご主人様ぁ。ちゃんと覚醒した姿なら、あたしですよねぇ?」
……。
リーンもエアも今の姿はいろいろ小さい。
いけないことを考えてたのがわかったのか、それとも無反応だったのがよくなかったのか。
二人とも眉根をひそめると、一気に僕の体めがけて体当たりをしてきた。
「いてっ!」
どん、という衝撃とともに、僕は再び闇の中へ落ちた。
★★★★★
目がさめたら頬が痛い。
どうやら
ひりつく頬をさすっていると、リーンが耳打ちしてきた。
「この小娘、お前様が気絶してる間に、平手打ちを食らわせたのじゃぞ。まったくもって、ひどいおなごじゃ」
と、肩をすくめてみせる。
どうりで。これはアンリエッタのしわざか。
「ふん、せっかく添い寝したのにっ! そんなに痛かったら、とっとと準備してよっ。遅刻するわよっ」
着替えを投げ渡しながら、アンリエッタが僕を急かす。
そっちが勝手に添い寝したいって、言ってきたんだぞ。
と、言いたくなったけど、また叩かれそうたった。
ふと、時計をみれば、あと十分で始業だった。
やばい、急がなきゃ!
★★★★★
なんとか朝のホームルームに間に合った。
席に着くなり、オーウェンが僕に話しかけてきた。
「セシルちゃんたちと部屋、一緒なんだって?」
情報が早いやつだ。
引っ越しをした時にばれちゃったかな。
元々、ルームメイトのアンリエッタや、誓約した精霊エアが一緒なのは問題ない。
でも同居するのがリーンに続いて、クラス一美人のセシルとなれば、他の男子は黙っていないだろう。
「そ、そうだけど。まあ、しかたなく」
嘘は言っていないぞ。
学園長とアイナ指揮官の指示だから、しかたなくだもん。
「うらやましいなあ。リーンちゃんにアンリエッタ、それにセシルまで。きれいどころじゃないか! それが同じ部屋だなんて、うらやましすぎるぞ」
そんなに甘い生活じゃないよ。
「そんなにいいもんじゃないって! 今朝だってアンリに叩かれたぞ?」
ぶっ叩かれた頬を見せながら、オーウェンに現実を話してやる。
信じられない、とでも思ったのだろうか。目をまんまるくすると、彼は何かを言いかけた。
ちょうどその時、教室の扉が開いた。オーウェンはあわてて前を向いた。
「おはよう。今日のホームルームは文化祭についてだ。マリア委員長、司会を頼む」
ざわつく教室にマグナス先生の低音ボイスが響く。
朝の雑然とした雰囲気は、一瞬にして静かになった。
「では、文化祭のだしものについて、お時間をいただきましたので、みなさんで話し合いをしましょう」
文化祭か……。
文化祭のだしものと言ったら、お化け屋敷とか屋台とか定番だよな。去年は屋台をやったんだっけ……。なぜかお客さんが来なくて、食べてばかりだったな
今年もそうだったらいいな……。
いろいろあったから、ちょっとのんびりしたい。
そんな淡い期待は、オーウェンがあっさり破ってくれた。
「委員長。リーンちゃんやセシルもいることだし、メイド喫茶がいいと思います」
メイド喫茶か。
リーンもセシルも似合うんじゃないかな。メイド服。
数人の気が短い女子が目を吊り上げて、立ち上がった。
「えぇえ! 男子は? 私たちに仕事を押しつけるじゃないでしょうね?」
キッとオーウェンをはじめ、男性陣をにらみつけている。
メイド喫茶なら接客は女子の役目だ。でも僕たちだって、店のセッティングやら、お茶出しやらで仕事はしなきゃならん。
そりゃあ、女の子にお茶出ししてもらったほうがいいけどさ。お客さんも喜ぶし。
「男子は執事役をするからさ。どう? 体育祭で活躍したピーター君もいることだしさ」
「あ、それはいい考えね。賛成――」
「あたしも」
「いいんじゃないか」
「やっぱり目立つキャラがいないと、お客さん来そうにないしねぇ」
は?
なんで僕の名前が出てくる?
「そっかあ! ピーター君もいることだし、お客さんが大勢来そう……」
さっそく委員長が何やら計算をはじめている。
ん? 僕? 僕も執事役するの?
いつの間にか客寄せ要員になってるんだけど。
「ち、ちょっと待ってよ。オーウェンも委員長も。なんで僕がいるとお客さんが来るんだ?」
と、異議を唱えた。
イケメンでもないし、成績がいいわけでもない。オーウェンのようにスポーツができるってわけじゃない。上品ってわけでもない。
だいたい執事に必要なのはルックスだぞ。圧倒的に僕には欠けてる。
「ピーター君。あなたは風精霊を具現化させて、ちゃんと
腰に手をあてて、委員長は言い切った。
ヒーロー? おかしくないか?
マグナス先生……ヘンリーのことをどう伝えたんだよ。
「そうだ、そうだ。ピーターは俺らを守ってくれたんだ!」
「そうそう。空中スラロームのピーター君、かっこよかったわ」
同級生たちが口々に僕をほめる。
なんだろ、変な感じ。背中がざわざわする。
つい、この間まで、ビリだとか劣等生だとか言われてたのにさ。
「僕はヒーローなんかじゃないよ。人集めなんかしたくないし」
これ以上目立ちたくないのが本音だもん。
面倒くさいしさ。
「ダメよ! 手伝って。うちのクラス、大赤字なの! このままじゃカーテンも換えられないのよ」
収支台帳を広げてみせる金髪縦ロール委員長。
なにやら台帳には赤い文字がついてる。赤字なのか。
「お前様。なぜ、あの縦ロール娘は騒いでおるのじゃ? 学園から|
小首を傾げてリーンが尋ねてきた。
そりゃあ当然の疑問だよな。
「ああ。ここじゃ必要なものは、自分たちで調達するって決まりなんだ。収入が少ないんだよ、うち」
「ここにいる連中は貴族階級じゃないのか?」
「そうなんけどね。自分たちで
「面倒じゃの」
一応、事情を説明すると、面倒くさそうにリーンは顔をしかめた。
「リーンちゃんと何話してるの? それはともかく、委員長としてお願いするわ。このクラスのために体を張ってほしいの」
要は客寄せをしろってことですよね? 委員長様。
ため息をつくと、マグナス先生がやってきた。
「……面倒だと思うが、ピーター君。うちの娘のためにも執事役を引き受けてもらえないか?」
……。
そんな真剣な顔で言われても。
結局、僕は執事長とやらに担ぎ上げられてしまった。
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