雲の上の世界では。side:E

@blanetnoir

声がきこえた。



この雲の上の世界にきてから半年、割と頻繁に僕を呼ぶ声を聞くことがあった。

そういう時は外に出ると、どこかに飛行機が飛んでいて、

基本太陽光のせいでひとの顔はあんまり見えないけれど、

きっとあの中に知り合いがいて、俺のこと考えてくれているんだろうな、と分かった。



この世界では、よく声がきこえる。

それは、地上の世界にいる人たちの心の声であるらしいと、

気づいたのはここに来て1週間くらい経ってからだった。

聞こえるのは物理的な距離が影響しているらしく、国内線の高度では聞こえるけれど姿は見えないから

たまに聞こえるあいつらの声や、友だち、あとファンの方たちのいろんな声を聞いた。

その声がみんな、あまりに悲痛すぎて、

原因は俺にあることは解ってるし、気持ちは嬉しいんだけど、

声しか届かない状況でやりきれない思いをする日が続いた。



俺はここにいるよ、

お前ら待ちながらyoutuberやってるし

けっこーここからお前らのこと見えてるから安心してよって、

伝えたいけど伝えられない日が続いてつらかった。



この世界では、基本地上の世界と変わらなくて、あっちにあったものは大体こっちにもある。

だからアバハウスもあのままそっくりここにあって、俺はここでひとりで企画を考えて

ひとりでコツコツ作品作ってるんだけど、

仕掛ける人がいないからつまんないし、

せめて近所の人達とは友達になっとこうと思って隣近所と仲良くなった。




そうすると、周りの人たちの様子が見えてきて、

なんとなく雲が揺れた時に、飛行機が通っていることに気づけるようになったし、

揺れ方で距離感もつかめるようになった。

声が聞こえない時には、まあいっかと思ってわざわざ見送ることはしないけど、

俺の名前が聞こえたら外に出て、飛行機が見えるか探しに出ることが楽しみになった。




とおーくの雲の端を飛んでる飛行機だと、これ絶対俺のことみえてないじゃん、ってくやしくなるけど、

俺なりに、俺のこと見つけてもらい易くするために、色々考えてみたんだ。

まず髪色はぜったい真っ赤をキープすること、

あと周りの景色からいい意味で浮いて見えるように、黒っぽい服とチェック柄のパンツをよく着るようになった。

一番みんなから「エイジ」を思い出してもらいやすいのかな、って服だと思うんだ。




(えいちゃんは この中のどこにいるんだろう)




今日も声が聞こえた。

だいぶ、近くにいるのか、大きめの声だった。

聞いた覚えがない感じだったから、きっとアバリスさんかな、と思いながら外に出てみた。

正直、この世界が全ての人にみえているのかも分からなかったから、

この声の人はどうやら見えているみたいで、それも嬉しかった。

そういえば俺がよく海外に行ってた時、窓の外見てもこんな景色が見えた覚えはないんだよな、

これはもしかして霊感のあるなしと関係があるんじゃないかな、なんて思った。




外に出ると、見上げた空の目の前に飛行機が飛んでいて、

ずいぶん距離が近かった。

窓側に座っている人の顔もなんとなく見えた。

その時。

ひとりの女性と目が合った、気がした。

あ、きっとこの人だ。これは確信だった。

目を見開いた表情、途端に目頭から流れる涙、

俺のことを呼んでくれた人の顔をはっきりと見るのは初めてだった。




(えいちゃん、愛してるよ)




その人の口が、そう動いたのが見えた。

その声は、俺の頭にいつもの調子で響いて聞こえた。

でも、それ以上に、

本当に耳から音が響いて聞こえたような、不思議な感覚を覚えた。



ありがとう、

この気持ちをどうしたら届けられるのか、

お互いに声が届かない状況で、

とっさに俺は手でハートマークを作って見せた。



気持ちを、伝える事がこんなにも難しいなんて。

地上にいた時は、顔を合わせれば誰とでも話ができたのに、

今はこんなにも距離が遠い。



それでも、

本来ならばこんなやりとりですら叶わないはずの今の俺が、

名前も知らない初対面かもしれない人と、意思疎通できたことが、こんなにも嬉しくて。

離れていく機体を見送りながら、雲の端に隠れてしまうまで、見つめていた。



今度誰かが来たときは、もっと効率いいやり方で意思疎通できるようにしよう、そう心に決めた。

そしていつかあいつらが来たときは、

見えるのか見えないのか分からないけれど、

そんなのお構いなしに俺に気付くように、

スペシャルなしかけを用意してやりたいから、

これからも、

あいつらがここに来るまでの間は暇なんてしてられないなと、俄然やる気がわいてきた。

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