第8話 感染5日目

昨日は食事をした後、幸太郎は家に戻った。

優子のによると知り合いに電話をかける以外にとにかく外の情報が手に入らないということだったのでそれならば幸太郎が外に出て様子を見てくるという話になった。

優子の家に行く途中は誰もいなかったが、繁華街でもそうなのか見てこようと思ったので、

今日は朝早くに起きて準備をしていた。

「じゃ行ってくるよ」リビングにいる二人に声をかけた。昨日のうちに話をしておいた。

「気をつけてね」

「うん」この世界で父と母を正しく認識しているのは自分自身だけだった。身が引き締まる思いがした。


交通機関は全て機能していないので、自転車で繁華街まで行くことにした。片道1時間くらいだ。道中は人っ子一人いなかった。本当に誰もいない。だが途中にある家々を眺めると生活感があるのを感じることができた。というのも家の中から何か音がしたり道の方まで食べ物の匂いがした。人がいるのが見えなくても生活の気配は感じることができた。食べ物の匂いは大半がカレーであった。どこの家でも考えることは同じだなと幸太郎は思った。

ただ手作りのカレーではなく非常用のレトルトだということまで彼は気づかなかった。


繁華街のある最寄り駅までつくと異様な光景に幸太郎は恐怖を感じた。誰もいないことからくる恐怖。この世に自分一人だけしかいないという絶対的孤独感。そういうものを感じた。

今すぐにでも雨が降りそうなほど空は暗く曇っていた。まだ午前中なのにもうすぐ夜になる、そう思わせるくらいに暗かった。

「雨が降る前に見て回るか」幸太郎は自転車を止めて早歩きで進んだ。

コンビニ、飲食店、本屋、どこもしっかり扉が閉められている。試しに何件か扉をあけようとしてみたが、しっかり施錠されていた。戸締りだけして人だけ一斉に引き上げた感じがする。人はいないが街には大量の商品だけは残されていた。

もしかしたら盲目の人なら杖を頼りに街まででてくるのではないかと思ったが電車も止まっている。ショッピングモールの方に向かっていった。エントランスの方には規制線のようなものが張られていたが幸太郎はまたいで中に入っていった。モール内にはセレクトショップが多かった。どのショップも人気の店で誰しもが一度は何か買ったことがあるかもしれない。ただ今は着飾ることは無意味とかしてしまっている。人は見た目で人を判断することをやめるのだろうか。そのことが良いのか悪いのか幸太郎にはわからない。モール内を歩いてみる。人の気配はない。磨かれたガラスのショーケースは幸太郎だけしか映さない。こういう時はガラスが冷たく感じる。

ひととおり見てモールを出た後幸太郎は駅の方へ引き返していく。途中飲食店街を歩いていた。その時


「ガシャン!」と何かが店のシャッターにすごい勢いで当たる音がした。

幸太郎はその音を聞いた瞬間電信柱の後ろに身を隠した。左の曲がり角の方から人の走る足音が聞こえる。次の瞬間その足音の主はやってきた。小走りである。だがやはり目は見えていないらしくまっすぐには走っていない。そのまま幸太郎の電信柱の方へ走ってきて目の前にある中華料理屋のシャッターに激突した。その時男の顔を見た。顔が血だらけなのに薄ら笑いを浮かべていた。理解不能な光景に身動きが取れなかった。もちろん声をかけることもできなかった。

幸太郎のすぐ横を走っていった。その男が次の曲がり角を曲がっていって見えなくなってもしばらくぶつかる音が聞こえた。。恐怖で動けなかった。

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