第6話 感染4日目

翌朝、目が覚めたら正午前だった。すぐに優子の家に行こうとしたが、両親のことが気になりリビングのある一階に降りた。母はキッチンにいて手探りでコーヒーを淹れようとしていた。たどたどしい母の姿を見ていられなかったので、幸太郎は変わることにした。

「母さん。俺がやるよ」

話しかけた途端手元のマグカップを床に落とした。

「急に声かけないでよ。驚くじゃないの!」

目が見えない状態から急に誰かに話しかけられて驚くのは誰にでも想像できるが、さらに母にとっては幸太郎の声は見ず知らずの女性の声に聞こえているのであるから無理もない。

割れたマグカップを片付けようと

「母さん。俺がやるよ、、」

この言葉が他人の声に聞こえている母の気持ちを思うと幸太郎は急にやりきれない思いがした。

目の見えない状態で声まで違えば、お互いの存在は頭の中の記憶を確認し合うことでしか成立しない。考えると不安になるばかりだった。


「少し出かけてくるよ。」

不安の出所から逃げ出すように幸太郎は優子の家に行くことにした。

既に世界は隅々まで不安であるというのに。

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