第1話 突然の知らせ

「めんどくさいけど授業始めるぞー」


 教師がめんどくさいとか言うなよ。

 心の中でそう呟く。

 口に出したりはしない。そんな事に労力を使いたくないからな。

 我ながら今日はいつも以上にやる気がないと思う。

 まあ、やる気があった所で口に出すわけじゃないんだけどね。

 くだらない事を考えている間にも、授業は進んでいく。

 早く終わって欲しい。これが終われば昼休みなんだ。

 いつも通り屋上で昼寝でもしたい。


『突然ですが、世界中の皆さん。世界をゲーム仕様にしました』


 唐突に、本当に唐突に教室のテレビの電源が入り、スピーカーからそんな音声が流れてきた。

 画面には、誰も映っていない。

 いや、強いて言うなら暗闇が映っている。

 要するに真っ黒だ。

 さて、どっかのバカな誰かさんがハッキングでもしたんだろうか?

 もしそうなら、個人的には相当面白い。

 相変わらず、授業は普通に進んでいる。

 一瞬の混乱はあったが、先ほどの俺の考えのように誰かの冗談だと捉えたため、授業は再開している。

 退屈過ぎたので、窓から外を眺める。

 ん?俺の目はどうかしてしまったんだろうか?

 目を擦ってもう一度よく見てみる。

 うん、どうやら見間違いじゃないようだ。


「#$¥×:♪☆*%・・・」


 え?先生、今なんて?


「そんな訳で、ここはこうなる。分かったか?」


 日本語じゃ、無くなってる。やはりさっきの聞き取れなかった訳の分からない言語だ。

 だが、理解できる。いや、出来てしまっている。

 クラス全員が違和感を感じている。先生は今生徒に言われてようやく気付いたようだ。

 鈍感すぎる。

 

『皆さん、言語が変わった事に気が付いていただけたかな?信じてもらえないと思って、手始めに言語を私の作ったもので全世界を統一した。もう一つ、モンスターを放った。言っただろう?ゲーム仕様にした、と』


 やはり、俺の見たものはモンスターだったのか。

 良かった。俺の目は正常だった。



 ・・・・・いや、何もよくねぇよ!!

 どうすんだよ、学校から出れねぇじゃん。

 よく見たら飛んでるモンスターもいるし。屋上で昼寝もできねぇじゃん。

 あ〜、ここで授業中断か。先生が会議に行ってしまった。

 教室内が一気に騒がしくなる。最悪だ。

 10分もしないうちに先生が帰ってきた。

 会議が終わったらしい。

 ・・・早すぎる。いくらなんでも早い。先生が何かを持ってはいるが、あれを受け取りに行っただけなんて事はないだろうな?


「え〜、今から全員にこいつを配る。中身は先生にも分からん。配られたら各自で開封して中を確認してくれ」


 先生も中は見てないのか。

 間もなく全員に配られた。のだが・・・ケースに入ってるとか無しだろ。しかも強度が半端なく高い。

 意を決してケースを開けると、入っていたのはスマホのような端末とゲームの初期装備のようなものが一式入っていた。

 端末の方は後回しとさせてもらおう。初期装備?の内容物は革素材の胸当て、籠手、脛当て・・・え、これだけ?武器は?

 ・・・次、端末。電源を入れて、起動するのを待つ。

 うん、電源が入らない。


「先生〜これ、電源入らないんですけど〜」


「俺も〜」「あ、私も」


「心配するな。先生も入らない」


 どうやら全員入らないらしい。

 これはあれだな。また正体不明のアイツが喋り出すのを待った方が良さそうだ。

 しばらくすると、予想通りアイツは喋り始めた。


『さて、そろそろチュートリアルを始めよう。皆さんの手に、端末が行き渡ったと思う。では、端末を見てくれ』


 端末の電源が入っている。やはりアイツが入らないようにしていたらしい。


『この端末に名前はない。好きに呼ぶといい。まあ私が名付けるなら、"メニュー"かな。あるいは"ホーム"。ゲーム好きなら分かるだろう?これはそういうものだ』


 なるほど、つまりあれか。こいつは自分のステータスや持ち物、そしてヘルプ等の情報端末な訳だ。


『さて、ここからが本番だ。端末が配られた時、ケースには革製の初期装備が入っていたはずだ。端末内から取り出し、実体化した場合、あんな感じになると思って欲しい。つまり、その装備は端末の中に収納できる。装備に端末をかざしてご覧、収納されるから』


 やってみる。消えた。

 画面を見ると初期装備をアイテムボックスに入れた旨のメッセージが表示されている。

 ここで俺は装備だけでなくケースも入るのかやってみた。

 結果は入った。

 ここで一つの仮説が出来た。だから、ブレザーを脱ぎ、端末をかざす。

 入った。

 俺の仮説は今のところ正しいことが証明された。

 どうやら"現実のものも、アイテムとして認識される"らしい。


『アイテムを取り出したい時はアイテムボックスのアイテムをタップすれば取り出せるから覚えておいてくれ』


 ブレザーを取り出し、着直す。

 うん、便利だ。


『チュートリアルはこれで終わりだ。あとは端末に入っているヘルプを見て勉強してくれたまえ。では精々頑張って生きてくれ』


 教室は静まり返ったのち、騒ぎ出した。

 当然ステータスの話になっていた。

 あるいは、受け入れられずに戸惑い、叫び出すものもいた。

 俺は、ステータスではなく、ヘルプを開いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る