第18話 「天国と地獄」1963年 脚本 黒澤明・菊島隆三・久板栄二郎・小国英雄
「天国と地獄」1963年 脚本 黒澤明・菊島隆三・久板栄二郎・小国英雄 だれが天国へ行けるのか
一流会社の重役である権藤の息子と間違われ、その運転手の息子が誘拐された。要求された身代金を、権藤は銀行に借金して支払う。結局、犯人は捕まったが、権藤は家を銀行に取られ、会社も追われた。だが、彼は新しい会社で信頼され、家族に愛され、社会からも祝福されて、再び天国への道を目指す。サスペンスとして超一流であるが、純粋な人間の心と不条理な社会の仕組み。その狭間で苦悩する被害者と加害者の対比が興味深い。
○誘拐犯 医学生というインテリでありながら、誘拐・殺人という犯罪を犯す。
○権藤を追い出した会社の重役たち 金儲けのためには安物(偽物)を売ってもかまわないという、冷酷でモラルも道徳も無い、エセ(偽物)ビジネスマン。
○銀行 金を借りた権藤に対し、「期限がきたら、きれいにお支払い願います。もしそれができなかったら、契約通り、抵当物件は差し押さえます。世論はどうあろうと、誘拐犯には金を出して我々には踏み倒すなんてマネはさせませんよ」と冷酷に金を取り立てる。
○警察 犯人を死刑にするという目的で、マスコミを使った情報操作をして、わざと逮捕せずに犯人を泳がし、彼に第三の殺人を実行させる。
犯人は、金(かね)以上に「幸せな人間を不幸にすること」が目的であった。彼が憎んだのは、(一部の)豊かな日本社会そのものであり、権藤はその象徴であったにすぎない。
人間としての権藤は、むしろ、純粋で真面目な人間(頑固な技術者)だ。犯人が口にした「私はね、親切な気持ちでうそを言われるより、残酷な気持ちで本当のことを言ってもらった方がいい」という言葉は、そのまま権藤の言葉でもある。
ただ、権藤が弱い者に優しかったのに対し、犯人は医者の卵でありながら、麻薬患者を使って人体実験を行うといった冷酷な方向へその性格が向かってしまった。「野良犬」で、同じ境遇の若者二人が、別々の方向に別れたのと、ある部分で似ている。
死刑になる前に教戒師を断り、権藤に面接を要求した犯人が最後に発した「クソ !」という、あの叫び声こそが、性格的に無知であった彼の権藤に対する謝罪だったのだ。
体育会人間権藤
〇 ギャングと保安官に別れてゲームをする二人の子供に権藤は言う。「追われる側でも逃げてばかりいちゃ駄目だぞ。うまく待ち伏せして保安官なんかやっつけるんだ。男はな、やっつけるか、やっつけられるかだ」→ 武道家黒澤らしい戦闘精神。
○ 会社を追われ、銀行に家を奪われた権藤が、自分を裏切ったクール(冷酷非情)な元秘書に向かって「俺はまだ、これからがいよいよ俺なんだ。お前はまだガキだ。お前という人間になっておらん」と怒鳴る。→ もう駄目だ、という時にこそ真実が見える。
日本と韓国
犯人が麻薬を購入し、「ドヤ街」と呼ばれる一画へ行き、人体実験にするための麻薬中毒患者の女性を誘う場面。屋外のトイレの扉の前でもたれかかる女性の後ろから話しかける犯人。その顔の横に韓国語で書かれた標識が一瞬映る。
ラストの刑務所での場面における権藤と犯人の姿は、そっくりそのまま、日本と韓国の関係を表している。犯人もそれほど不幸ではないはずなのに、楽しそうに見えるというだけで、金持ち」権藤の苦労も知らず、ただただ嫉妬する、拗ねて、ふてくされる。
権藤「君はなぜ、君と私を憎しみ合う両極端として考えるんだ。」
犯人「幸福な人間を不幸にするのは、不幸な人間にとって中々面白いことなんですよ」
権藤「君はそんなに不幸だったのかね。」
憧れが裏返しとなり、強い憎しみとなる。常に誰かを憎まなければこの世に存在できない、という永遠の呪いをかけられた者は、やはり不幸なのだろう。
何も悪いことをしていない人間、むしろ権藤のように、本当に消費者のために良いものを作ろうと苦労している真面目な技術者(善良な人間)を苦しめることで快感を得ようとする。自分を被害者にすることで安心感を得る。そのために、誰かを「加害者」にしようとする心理。
同じ半島国家でも、半島から逆に大陸を支配した古代ローマ帝国(イタリア)とはち
がい、2000年の長きにわたり属国として他国(中国・モンゴル・満州族・ロシア)の支配下にあった国はこうなる、という「歴史の教訓」がここにある。
いっそのこと植民地になっていれば、こういう屈折した心理にはならない。へたに隷属関係で生き長らえてきたところに、この国の不幸があるのだろう。
だが、これは人ごとではない。日本もアメリカやイギリスという欧米諸国の属国になってから、早や70年。彼ら宗主国と緊密な関係にある役人・政治家は、独立国の格好をするだけ、という韓国スタイルになっている。問題は、あと何年で日本の大衆も属国根性に染まっていくのか、ということだ。日本人の心が属国化するとは、天国と地獄が同居するようなものだろう。
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