第17話 「用心棒」 1961年 脚本 黒澤明・菊島隆三
「用心棒」 1961年 脚本 黒澤明・菊島隆三 国家というヤクザ
絹と酒で生計を立てる、人口数百人の小さな宿場町。そこでは、二人の金持ち(絹問屋と造り酒屋)が、それぞれヤクザを用心棒として雇い、対立していた。今度はそこへ、並の用心棒よりも数倍強い用心棒が現れたことから、事態は凄惨な結末となる。
用心棒に扮する三船敏郎の芝居のうまさに見とれ、その裏にある映画の真実(黒澤明の言いたいこと)を見逃してしまう、というで点は「蜘蛛巣城」と同じ。「徒然草」の文体に見とれてその真意を吟味できない、ということか。
ベトナム戦争(1960〜1975)の行く末を予言した黒澤
インドシナ半島は、1945年に小国家ベトナムが独立すると、北ベトナムにはソビエト・中国が、南ベトナムには、アメリカ・韓国・オーストラリアという大小のヤクザが来て戦争を始めた。
住民はほとんど蚊帳の外。ヤクザ(外国の軍隊)同士の殺し合いで、ベトナム人の家は焼かれ、いたるところに枯れ葉剤がまき散らされた。外国人が自分たちの庭に来て、勝手に殺し合いをし始め、多くの民間人まで巻き込んで殺し、国土を荒廃させたのである。
映画「用心棒」の宿場町も、地元ヤクザの小競り合いならまだよかったものを、三船敏郎扮する凄腕の「助っ人」と、最新兵器(拳銃)を使う卯之助という二人の「外国人」が参入することで、多くの人間が死に、絹問屋一家は皆殺し、酒屋の主人も惨殺され、放火略奪で街はぼろぼろになる。
しかしまあ、これで悪が消えてすっきりしたのかといえば、とんでもない。この街を管轄する奉行所の役人自身が、ヤクザや金持ちから金を巻き上げる一番大きなヤクザなのだから、悪が消えるわけが無い。奉行所に金を貢ぐ次のヤクザが、すぐに登場するだろう。
名言集(黒澤の予言した現代)
「用心棒にもいろいろある。雇った方で用心しなきゃならねえ用心棒もある」
強い用心棒とは、雇う側にとっても恐ろしい存在である。ベトナムという国は、アメリカという用心棒を雇った(無理やり雇わされた)がために、国がメチャメチャになってしまった。この「用心棒」は、さんざん他人の土地で争いを大きくし、憎しみ合いをエスカレートさせて混乱させ、あとは知らんぷりで去っていく。今の日本も・・・。
「近頃の若い者はみんな気が狂っちまっただよ」
「気が狂ってるのは若い者ばかりじゃねえ。どいつもこいつも楽して儲けることしか
考えねえ。みんな博打(株・為替投機)のせいだ。さいころひとつで人の物がてめえの物になる。挙げ句の果ては人の物も自分の物も見境がつかねえ。」「血の匂いをかいで腹の減った野良犬が集まってきやがる。(外資系の証券会社)」
「口利き料は一両だぜ」
お巡りさんが、用心棒の斡旋(紹介)をしている(警察官OBが警備会社を経営)。
「馬鹿野郎! 博打打ちが仲直りすんのは、もっと大喧嘩するためだ。早い話が仲直り
して、もっとでかい喧嘩の種を育てるんだ。博打打ちの仲直りほど物騒なものはねえんだぞ」
宿場のヤクザ同士が休戦協定を結ぶという話に喜ぶ飯屋の親爺に、三船敏郎がこう言う(大国同士の平和条約とは、ヤクザの手打ちと同じこと)。
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