第10話 データ ② 武道家黒澤明

 武道家黒澤明 ② 真実を知らなければ勝てない


 武道家黒澤明

 ② 真実を知らなければ勝てない

 武道とは、一対一の真剣勝負。そこで勝つには、相手の虚と真実を見分ける力が必

 要だ。相手が(フェイントではなく)真剣に技を仕掛けてくる瞬間に、それを切り返す。

 自分が攻撃しない「虚」の状態でいながら、一瞬で「真」となって攻撃する。

 武道では、一つの行為の中に嘘と真実の両方があり、あからさまな嘘がない。それを実体のない虚とするか、実質的な攻撃にするかは、戦う二人の間の「場と間合いとタイミング」にかかっている。

 そして、目に見える動きだけでなく、その裏にある心の動きを知るために、武道家は自分の心を鏡面のように磨いておかねばならない。

 目に見える現実とその裏にある事実。この両方を知ってこそ、事実は真実となる。人間は人間となることができる。それが武道家黒澤明の人生観であった。

 黒澤の映画には、見た目の「面白さ」と、その裏にある「面白み」がある。奇想天外な時代劇でも純文学的な作品であっても、決して現実の世界から離れていない。いま私たちが生きている社会の真実(裏と表)を「映画という娯楽」にして人々に知らせてくれる。これが黒澤映画なのである。

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