第2話『認識された神』
ゴーゴーと鼓膜が破れそうな程の風が耳を蹂躙する。
「リン!どうしたらいい!」
真っ逆さまに落ちていくナツキが楽しそうに両手を広げるリンへ叫ぶ。
「うん?ナツキ!もう僕の世界に入ったから、力はあるはずだよ!イメージで飛んでみなよ!」
ナツキは言われるがままに頭の中で飛ぶイメージを想像する。
「あれ?風の音が止んだ?...って!うお!飛んでる!」
さっきまでの乱暴な風ではなく緩やかに生暖かい風が肌を撫でていた。
「どうだい?初めて飛んだ感覚は?」
隣でリンがニヤニヤと笑っている。
「気持ちいよ」
ただその言葉しか出てこなかった。
「ナツキ、あそこが僕達の神社だよ」
10分程空を漂っていたナツキにリンが人差し指を街が眺められる程の高さの丘に指した。
指された方向に目を向けるとボロボロだがそのボロさが木々とマッチしてとても幻想的な神社があった。
「ナツキ、降りようか」
「うん」
ボロい神社だがそこに毎日やってくる少女がいた。
所々破け貧相な身体だが歩く動作に気品がある。
「外観はボロボロだけど中は綺麗にしないとね」
片手に雑巾を握りやる気を漲らせている。
毎日掃除をしている証拠に中の床や壁にホコリは無く匂いも透き通っていた。
40分掃除をして帰る準備をしている少女に乱暴で汚い声質の声がかかる。
「おい、嬢ちゃん」
少女が振り返ると4人の大柄な男達がニヤニヤとイヤらしい目つきで笑っていた。
「何で神が居ない神社を掃除してやがる?何も御利益なんてねえぞ」
「私の命を助けて下さった武神様への恩返しです」
笑顔で返した少女を見て更にニヤニヤ笑う男達。その1人が少女の横を通過し、土足で階段を上る。
「靴を脱いで下さい!」
少女は男を睨めつけ言うが男は乱暴に階段に腰を掛けた。
「この神社そんなに大事か?」
「当たり前です!」
「ならこの神社を燃やす代わりに俺達の奴隷になれ」
男達はイヤらしい目つきを更に強くして女を囲む。
「わ、分かりました」
雪のように白い頬が真っ赤に燃える、それと同時に目に殺意が灯る。
「じゃぁまぁ最初はこいつらが我慢出来そうにねえからここで遊ぼうや」
少女の後ろにいた男達は少女の腕を乱暴につかみ神社の中に引きずり込もうとする。
少女が抵抗出来ない力に引っ張られている頭上で声がした。
「リン何か18禁な展開何だけど」
「ナツキはこれぐらいで恥じらうのかまだまだお子ちゃまだね。可愛いけど」
呑気な2人が空からゆっくりと地面に足を着く。
「ここが僕達の神社か、リン中に入ってもいいよね?」
「当たり前さ、僕達の家なんだから」
ナツキとリンは男達と少女を見えていないかのように素通りし神社の中に靴を脱いで入る。
「おい!何勝手に入ってやがる!」
その2人に男が我慢を切らしたかのように怒鳴る。
呑気に会話していたナツキが立ち止まり
「...」
片目だけ男に目を向ける。
酷く凍っていて目の中の黒が憎悪で塗られているかのように、殺意がこもった目を。
「やんのかてめぇ!」
男がナツキの胸ぐらを掴む、瞬間。
「リン、いいよね?」
「うん。いいよ」
男は後ろに飛んでいた。
少女を掴んでいる男達の頭上を通過し鮮血を4人に浴びせながら、倒れた。否。死んだのだ。
男の胸には縦長な線が入り心の臓が2つに切れていた。
「ねぇ、君達あいつの仲間でしょ?命助けるから武神が来たと伝えて」
ナツキが4人に目を向けて言うと男達は少女を置いて逃げていった。
いつしかナツキの右手はドス黒い刀を握っていた。
「どうだった?イメージの力」
リンが死体の後始末をしながら言う。
「最高だね」
笑顔で返す。
「あ、あの」
今にでも恐怖で窒息死しそうな少女がナツキに話しかけた。
「ここは武神様の神社なので、どうかお引き取りください」
堪えきれず少量の雫が頬に落ちると同時に緊張で足に力が入らなくなったのか地面に手をつく。
困った様にナツキはリンに視線を向けるがリンはベロを出し可愛らしく「ファイト」と適当に返し後始末に戻る。
下から見上げるようにナツキを見ている少女に向き直り、ナツキも少女と同じ視線になる為に足を地面に付ける。
先程の凍てつく目ではなく、優しさに溢れる目を向けて、
「今日から武神を始めました。阿国 夏樹です。」
「あなたが新しい武神様」
少女の過去に何があったかは知らないが少女の目には希望に似た美しい光が宿っている。
涙と血で汚れた少女はとても綺麗だった。
「また、私は武神様に助けられました」
「僕は人が嫌いだ...でも君のような心が綺麗な人は好きだ」
少女はナツキに抱きつく。
「リン」
いつの間にか隣にいたリンの名前を呼ぶ。
「なんだい?」
「僕をこの世界に呼んでくれてありがとう」
この世に生まれて1番の笑顔をリンに向けて
笑った。
武神、始めました 卯月 琴音 @KotoNEKy
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