第1話 『必然的、死 必然的、生』

17歳と2ヶ月長いようで短かかった人生、少年は決心する。

世の中は『簡単に死ぬとか言うな』『諦めないで生きろ』なんて言うがそれは、単なる偽善でしかない。


ロフトに掛かるハシゴからゆっくりと下に下に、部屋を出てキッチンへ向かう。深夜2時を回る暗闇の中、

祖母を起こしては迷惑になるので電気はつけられない。だが、毎日歩く家の中は暗闇でも普通の速度で歩ける。

キッチンに着き包丁をしまう棚から刃渡り15センチの包丁を取り出す。

柄の部分を右手で握りそのまま玄関のドアを開け外に出る。

夏の夜でも生暖かい風が少年の肌を擦る。

「そういえば、近くの山の上に割と大きな神社があったなぁ」

最後に自分が生きた世界を展望台から眺めたいと思い、偶然近くに神社があるのを思い出した。


長い長い階段を登り沢山の虫の音色と共に迎えられた神社の入り口はまるで、何も祀られていないかのように静かだった。

階段を登ったすぐ前に大きな赤い装飾をされた鳥居が立派にたち鳥居をくぐって左に進めば|手水舎があり、真っ直ぐ進めば拝殿、右に進めば目的の景色を眺められる展望台がある。


少年は落下防止の柵に手を着き神様を恨んだ。

「なんで、こんなに汚い世界を作ったのに、神様はこんなにも綺麗な世界を作ったんだ…」

柵が軋む音を上げるほどに力を込めて、そう誰にも届かない声をこの綺麗で汚れた世界に吐き捨てた。


少年は拝殿の裏の壁にもたれ包丁を手に取り地獄だった世界のエネルギーを深く吸い長くはいた。

「お婆さん、僕を育ててくれてありがとう。本当ならちゃんとお別れしたかったな」

少年の唯一の味方であり母である祖母に感謝とお別れの言葉を告げ、柄を強く握り刃先を心臓の中心に向け

17年間の全ての憎悪を込め―刺した―


途端、先程まで色が付いていた世界が文字通り真っ黒になった。

周りは真っ黒の闇だが自分の体は色を保っていた。

「これが、死んだって事なのかな?」

少年は死への感触を未だに実感できていなかったのだ。

そう言葉を発したのと同時に、

「間に合った!」

暗闇の中から明らかに自分ではない声が聞こえた。

「幻聴?」

男の子の様な女の子の様な声が聞こえ思わず闇の中に問いかけてみる。

「ごめんごめん姿が見えなかったね、今見せるよ」

途端に暗闇の中からと言うより少年より上からその子が少年の落ちる速度に追いついたかの様に降ってきた。

歳は13か14と思われる、白髪を耳下あたりまで伸ばしたマッシュヘアーで男性か女性か分からない155いくかいかないかという子どもだ。

もう、死んだので何も驚かなかった。

「君の名前は?」

「僕の名前はリン宜しく」

リンは楽しげに両腕を上げて応えた。

「お兄さんの名前は?」

死んだのに自己紹介をするなんとも不思議な感じだ。

「僕の名前は阿国 夏樹 宜しく」

歳は17、如何にも読書が似合う整った顔立ちでその整った顔にあった黒髪を揺らめかせる170程の中肉中背の少年。

「…?どうしたんだいそんなに僕を見つめて、あ!まさか、僕に惚れた?」

リンの顔をまじまじと見つめるナツキにリンが喜んで問いかける。

「君は…リンって呼ばせてもらうよ、失礼な事を聞くけどリンの性別はどっちなの?」

「本当に失礼だなぁ〜これでも歳は399歳なんだよ〜」

「あれ?雑音がうるさくて良く聞き取れなかった、もう一回言って」

うん、聞き取れなかった。

「さん!びゃく!きゅう!じゅう!きゅう!歳!」

「うん!聞き取りやすくしてくれて!ありがとう!」

絶句。

「あと、男の娘だ・よ」

その発言の最後に可愛らしくウィンクをする。

その行動にナツキは

「はい、男の子ね。」

スルーだ。

「酷いな、先に聞いてきたのはナツキのほうなんだから、ちょっと傷付いたよ」

ほっぺを可愛らしく大きく膨らませ怒りを表現してくる。

「ごめんごめん」

膨れたほっぺをナツキが両手で挟み溜まった空気が行き場をなくし可愛らしい効果音をたてて出てくる。



「リン、今の僕はどこに向かっているのか、今の僕はどう言う状況なのか教えてくれない?」

リンに会って一番気になる質問を問う。

「一つ目、ナツキは僕が作ったもう一つの世界とそっちの世界を繋ぐ穴を文字通り落ちてるんだよ。ちなみにもう一つの世界って言うのはナツキの世界で言う異世界だね」

「へぇ〜」

急なスケールの大きさに頭が追いつかないが無理やり納得させる。

「てか、リンって何者?」

驚くナツキに対しチラチラと如何にもな視線を向けてくるので渋々聞いてみた。

「僕はこの世界を創った神、そっちの世界を創ったのは確かウラノスだったかな?まぁナツキのいる世界の教科書より、なんだけどね」

「…」

ナツキはまさかのリンが世界を創った神発言に小さく安堵した。

もし、こっちの世界をリンが創った神だったとしたら自分は…。


「二つ目、何故ナツキを呼んだか。憎悪を強く持って死ぬと鬼神になってしまうんだ、そしてナツキのそれは人とは思えない程に強すぎる憎悪だったからこの僕が来たって訳」

「…ごめん」

リンに対し謝罪をするがリンは聞いてないのか、

「フッフーン」

と腰に手をやり胸を張り自慢げに笑う。

「その憎悪故にこっちの世界では僕がナツキと組んでその憎悪を利用しナツキは最強の神になれるんだよ」

「なるほど分からないんだけど、なんで人間が憎くて自殺して今に至るのに神にならないといけないの?」

「?…だってナツキが死のうとしたあそこの神社は武神が祀られてた神社だよ。しかもそこの武神の神が先日亡くなって今は神が居ない、だからナツキがそこの武神になるって訳」

更に分かりやすく言うと社長が亡くなったから会社を継ぎなさいということだ。

「何なら別に誰も助けなくていい、自分の助けたい者だけを助ければいい」

「はぁ〜わかった。でも、余り僕に期待しないでよ、リン」

「決まりだね!そして、もう出口だ!ナツキ、異世界へようこそ!」

と、リンが歓迎の言葉を告げた瞬間。

「え?」

真下に向けて急降下中の2人だったが、光が見えあっという間に闇を抜けた。

地面につくと思っていたナツキは絶句する。


闇を抜けた先、それは地面ではなく


米粒にしか見えないが街だ。



そう、阿国 夏樹は遥か上空



文字通り―落下中である―




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