結末と去る者達
こうして、後に『パム事件』と呼ばれる惨劇の幕は閉じた。
ルルヴァ達は王都パスパグロンで、国王【山河の旗 アトナス・ベルパスパ】に謁見する。
「そうか……」
アトナスは悲報を耳にし、紅の槍の破片を手に取った瞬間、涙を流して崩れ落ちたと、ある文官は日記に書き残した。
そして統治省の指揮の元、パムの民達はそれぞれが再起を図る事となった。
また星の神殿が独自の調査を行い、生き延びたパムの民達の中に魔王はいなかったと公式の声明を出した。
これによりベルパスパ王国と聖地の関係は冷え切り、周辺諸国との関係にも大きな変化が起きた。
敵対国はより対ベルパスパの姿勢を強め、友好的な関係にあった国々もそれに同調する動きを見せるようになる。
資源大国、また交易の要衝たるベルパスパの大地を巡り多くの国、或いは組織が策謀を始める。
そして。
……。
※ 【桜花の剣 ミカゲ・リーシェルト】重傷。
救助されるも王立病院にて意識不明状態が続く。他、中枢メンバ―の死亡により、華刃衆はその活動を停止した。
※ 闇の勇者【群雲の風 イスカル・ベルパスパ】行方不明。
彼が消息を絶ったと思われる街道の現場には闇の勇者の
……。
この事実が決定打となり、周辺諸国の二つがベルパスパ王国へ侵攻を開始した。
……。
だが。
……。
* * *
~ パスパ山脈・ある山の峰 ~
天空より降り立った巨大な人影は、その背に生える蟲の羽を折り畳んだ。
『噂通り、いや、それ以上に聖典騎士という奴らはヤバかったな』
巨人が魔力の粒子となって解けていく。
数秒後、巨人のいた場所には大柄な人間の青年が立っていた。
「さて、無事に逃げる事は出来ましたが、これからどうしましょうか?」
青年、いやパムの元兵士であるダンは、左手に抱える黒い宝玉に語り掛けた。
『……』
宝玉が何かを語るように明滅する。
「ま、そうですね。あいつが来なければまた俺が飛ぶんですよね。てか滅茶苦茶疲れるんですけど、あのえ~と、何とかってやつ!」
『……、……』
「ええ、ええ、分かってますよ。陛下には感謝しておりますって。もう虫ケラのように死ぬ事はないんですからね」
眼下、遥か彼方。
暗闇の中に赤く輝き、煙を星空へと昇らせるパムの終わりの光景。
ダンは何も感情を乗せない瞳で、それを眺め続ける。
「弱ければ死ぬ。正義も理想も何も意味を成さずに死ぬ。俺は絶対に死にたくない」
風が吹く。
雲を突き抜ける山峰の、遮る物無く暴れる極寒の強い風が。
だがダンにとってそれは、春の微風程度のものでしかない。
『……』
「来たか」
地面の中から小型の地下潜航艦が姿を現した。
上部ハッチが開き、中から現れた黒ずくめの兵士が敬礼する。
「行きましょうか、我らが魔王陛下」
こうして一人の兵士が何処かへと去って行った。
……。
……。
ベルパスパ王国の機関によって、聖典教会、或いはアッパネン王国の内通者として【ダン・スノーナイト】の調査が行われた。
しかし遂にその足跡を掴む事はできなかったという。
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