夜の風の中で 三
~ ギャナン城塞・医務室 ~
「くく、わ―っはっはっは!!」
寝台に横たわるゾバヌートが、それはもう上機嫌に、笑い声を上げる。
「もう静かにしてよ。治療ができないでしょ」
「おーいユウナ、追加の薬持って来たぞ」
「ありがとうヨハン。そこ置いといて」
「はいよ」
体中を改造したゾバヌートは、治療魔法だけでその傷を治す事はできない。
生物の治療、機械の修理。
並みの医師、或いは錬金術師では全く手に負えないこの人間の姿だけを留めた怪物を、しかしユウナは手際良く治し、直していった。
「十年前に拾った時は洟垂れのガキだったが、どうしてどうして。よくもまあ、あそこまで成長したものだ! わ―っはっはっは!!」
「……」
ゾバヌートの気持ちをユウナは理解できた。
何故あれ程に執着していた【桜花の剣】を捨て置いて、彼の誘いに乗ったのか。
どうしてこれ程に満身創痍となりながら、極上の酒でイカれたように上機嫌なのか。
「作品では『愚の道化』の奴と互角だったがな。彼奴、早々に痺れを切らして
「いや、ゾバさんも出せば良かったじゃない」
笑う、笑う、笑う。
「良い機会だと思ったのだ。ワシの作品を試す、な。だが如何せん愚の道化の奴、
「普通よ」
チュイイイイイイン! と甲高い音が響く。
「いやだがな。そこはこう、機微とか何というか。折角の戦場での再会、しかもお互いにそれなりの錬金術を修めた者同士。何かこう、あるだろ。暗黙の了解とすべきものが!」
「はあ……」
バッチ―――ン!!
「戦場は遊び場じゃないよ」
「……むぅ」
「まあ気持ちは分かるけどね。孤独は辛いもんだからさ」
* * *
「ふぅ」
一息吐いたヨハンがワインを飲んでいると、来客を知らせるランプが点灯している事に気付いた。
「全く、千客万来だな」
移動用の小型魔導車に乗り、出迎えに向かう。
「お―ぃ、勘弁してくれよ」
緊急用の隔壁が降りた空間には、諸々の残骸が散らばっていた。
焦げ付いた傷だらけの様子に、思わずヨハンは頭を抱えそうになった。
「きちんと呼び鈴を押してくれたら玄関を開けてやるからさ。今度からはこういった乱暴な入り方はやめていただけないでしょうか?」
何も無い場所から飛んで来た
返答は二つの斬撃。
だがヨハンは平然とそれを流し、手に持つ苦無を放り捨てた。
「お前、何者だ?」
「ここのアルバイトですよ。雑用から受付まで何でもやってます」
忍び装束を纏う銀髪の女、ミカゲの問いに
「それでお客様。今日は何処への旅をご希望で? 世界各地の殆どへの超高速移動をリーズナブルにご提供できますよ」
ヨハンはエプロンのポケットから算盤を出し、パチパチと弾く。
「えーと、基本料金に加えて、修繕費用、保険費用、入国手続き費用、あと諸々。西央大陸外なら追加費用があって。あ、初回登録手数料もか」
パチン!
「こんな所でどうですか?」
「……」
「あ、高いと思ったでしょ? いやいや、めっちゃ勉強してますって。転移魔法が使えない場所へも、古代文明の機械の力であっという間。おまけに別料金の専用ポットを使えばまず怪我はありませんよ?」
パチパチ。
「入国手続きもブローカー使うより安いですし、おまけに旅券業者への仲介料もコミなんです! まあ対象外の国もありますが。でもでも、お客様はご希望の場所で、安全安心な活動をする事ができます。今時無いですよ、こんな超サービス!」
「さあどうでしょう。締めて二万金価で如何でしょうか?」
「……う~ん、手強いですね! 仕方ありません! 団体割引で五%オフも付けてあげましょう!!」
刃と魔法。
それが返って来た答えであり、その全てを難なくヨハンは躱し、ミカゲ達の背後を取った。
「これが最後の妥協点だったんだがな。そういえば、オヌルスを付けて来た
魔法による光学迷彩を解除し姿を現した、ミカゲを筆頭とする華刃衆の忍び達。
武器を持たないただ一人の少年に対し、しかし彼女達の警戒と緊張は最大まで高まっていた。
「いきなり襲い掛かって来たので殺しましたが。でも正直、あなた方を殺すメリットって無いんですよね。大人しく修理費払ってくれた方が俺も嬉しいですし。機会損失考えたら頭が痛いんですよ」
「これが最後です。あなた達はお客様ですか? それとも」
―― 敵ですか?
刃を納めないミカゲ達を見て、ヨハンは溜息と共に呟いた。
「来い
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