少年の見る世界

「はぁ、はぁ、はぁ」


 怖い。


 怖い!


 怖い!!


「はぁ、はぁ、はぁ」


 おいユーリー、あと少しだ。がんばれ!


 大丈夫だよ。みんな、必ず!


「はぁ、はぁ、はぁ」


 どうしてみんな怖くないんだ!


 どうしてみんな自分たにんを気遣えるんだ!


「あ……」


 急速に空から降りて来る無数の黒影。

 錬金術から生み出され、鋼より作られた戦闘装甲ゴーレム達。


 斬られた姿を見た!

 焼かれた姿を見た!

 壊される姿を見てしまった!!


 家族が!!


「           !!」


 叫んだかもしれなかった。

 叫ばなかったかもしれなかった。


 でも自分は、確かに逃げようとした!

 何もかも放り捨てて!


 ルルヴァもジルルクもペローネもスキーラも!

 ママもみんな、みんな、みんな!


 あの怖い錬金術の化け物から!

 

 逃げたかった!!


―― 自分はやはり錬金術師ですね。王立大学で学んで、魔導省に入りたいです。


 昔、ペローネの壊れたオルゴールを直したことがあった。

 平凡で、何も取り得の無かった自分が、唯一友達から賞賛された記憶だった。


―― 凄いよユーリー。

―― よく直せたな。マジ天才だよお前。

―― おいおい、本職の錬金術師かよ。


―― ありがとうユーリー。

―― もしかして将来は王都で金の円卓の一人になってたりしない?

―― 何それ。じゃあユーリーを落とせば玉の輿じゃない。


―― なら俺はS級開拓者だ!

―― え、ジルルクって、この前は教皇様になるって言ってなかったっけ?

―― 言ってたな。

―― 更にその前は勇者だったよね。僕とラウルを置いて、父さんの修行から逃げてたけど……。

―― おいばらすなよ!!


 友達の笑い声が遠い。

 それは自分達を焼き殺そうとする赤の炎に重なる、そうだ、二年前の学校の教室にあった夕陽の差す、光景……。


「はあっ!」


 死の炎が消えた。

 消したのは風だ。


 その風は、ルルヴァの風だった。


「無理はしないように。艦まであと少しなんだから」

「無理じゃ、ない、です」


 ルルヴァの背中が見える。

 自分達に背を向けて、立っている。


「大丈夫。僕が、みんなを守る!」


 ルルヴァの姿が消えた。

 そして、怪物ゴーレム達がバラバラになった。


「兄さん……」

「無茶すんじゃねえよ。くそっ」


 ペローネの声は祈るようだった。

 ジルルクの声は耐えるようだった。


「ルルヴァ……、凄いよ……」


 自分の声は。


―― ああ、こんなにも空虚からっぽだったんだ。

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